第152話 ロ主人様

 「おかえりなさいませごしゅ……ロ主人様~」

 入店するなりもの凄く失礼な事を言い出したカレンさん。

 

 「俺はロリじゃありませんよ。」

 即座に否定を返したけれど、カレンさんの表情は変わらない。

 笑顔だけどそれは営業用スマイルであって、某ハンバーガー店のようにプライスレス。

 

 「JKはロリではないかもしれませんが、合法ロリという言葉もありますしね。」

 確かに見た目だけで言えば後ろに一人合法ロリと言っても良いような人が控えてはいるけれど。


 「嫁二人侍らせて他に3人のJKを囲っていればそれはもう、全ご主人様達の敵です。」


 カレンさんは俺の横に並ぶ茜と、後ろに並ぶ悠子ちゃんはじめ送迎している他3人のJKを指して言っていた。


 「彼女らは……」


 「後がつかえますので説明はカットでお願いします。ロ主人様と5人の奥様ご案内~♪」

 俺に説明させる気はないとカレンさんは案内を始めた。

 今日は久しぶりに隣人の七虹さんも出勤していたため、この様子をばっちりと見られていた。


 そして席に着くまで周囲の男性客達からの視線がとてつもなく痛かった。


☆ ☆ ☆


 「なんでこの席割?」

 俺が疑問に思い呟くと、隣の茜から返答がくる。


 「それは現状正妻3人衆である私と悠子ちゃんが両隣にくるのは必然だからだお。」


 「だおとか言うなその年齢で。」


 「地下アイドルは30歳超えても言ってるにゃん♪」


 「にゃんとか言うな。」

 どうにかブタ野郎と言うのは抑えた。

 流石に悠子ちゃんの友人達にそれらを見せたり聞かせたりは出来ない。


 俺達が案内されたのは団体用の席……はないので、4人掛けのテーブルを二つくっつけて6人用にして貰っていた。


 後ろに壁を背負った側には悠子ちゃん、俺、茜の順で座り、悠子ちゃんの向かいに井川さん、俺の向かいに赤星さん、茜の向かいに遠山さんという形で座っている。


 今日なぜこの6人でアニスミアに来ているかと言うと……


 午前中しか学校がなかったためになった。

 いやそれはしょり過ぎだろうと言われそうだけど、こうなった。


 午前中で学校が終わるので、昼過ぎに迎えに行こうと外に出たタイミングで、ちょうど茜と鉢合わせた。

 ついて行って良い?と言われて思わず良いと答えてしまった。


 そうしたら学校に着いてから気付いた。送迎する女子って4人じゃないかと。


 直ぐに全員が集まった所で茜が……


 「せっかくだからあのお店に行こう!」と言い出すと、悠子ちゃんが続いて「良いですね」と返事をして、女子全員が歩いてお店に直行。

 俺は急いでお店の近くの駐車場に車を止めて学校方面へ歩いて向かう。


 途中で合流して6人でお店に入る、以上。



 なったと説明する方が早い。



 昼なので当然昼食となるものを頼む。

 頼むのだけど、なぜ全員オムライス。

 それも描かれたものは……

 

 なぜか俺の似顔絵。全員一致。もうわけわかめ。

 ※わけわかめとはわけわかんねぇという造語。類似に意味わかめもある。


 「私は食べるより食べられたいけどね。」

 茜は平常運転だった。耳元で囁く言葉じゃねぇ……


 「相変わらずカレンさんの画力は半端ねぇ。」

 写真に納めた後、全員遠慮なく頬張った。

 美味しいと言っているので良かったんだか悪かったんだか。

 いや、良かったんだろうな、お店的には。

 悪かったらマズイという事で飲食店としてはアウトだし。



 それから始まる女子トーク。これ、俺いる必要あるのかな。

 まさか財布と思われていたり?

 いやいや、悠子ちゃんがそんな事するとは思えないし。


 茜だってそうだし。JK3人もそんな風には見えない。


 これが女子三人集まれば姦しいというやつか。今は五人もいるけども。


 それよりも周囲の男性客からの視線が相変わらず鋭くて痛い。


 まぁもし俺が外野だったとしたら何かを射たいと思うけど。

 そんな状況だけど。女子五人に囲まれた男一人って、どんなハーレムだよって。


 「お兄さんって普段何されてるんですか?」

 井川さんが質問をしてきた。微笑が邪悪な笑みにしか見えないのは気のせいだろうか。


 「普通に会社員だよ。ホワイトでもブラックでもない普通のサラリーマン。」

 嘘は言っていない。ホワイト企業かと言えばう~んとなるし、ブラックかと言えばそれもまた違うと思う。

 残業代やボーナスはきちんと出るし、年休も取得できる。

 あの時は社会情勢とかもあったからややブラック気味だったけど、今となってはそんな事もない。


 世界的にも有名な車メーカーも、一部子会社ではボーナスが出ないと聞いたこともある。

 まぁ10年以上前の話だから今は知りようもないけれど。


 「何か運動やスポーツはされてるんですか?たまに垣間見える筋肉が凄いので何かやられてるのかなって思いまして。」

 今度は同じスポーツ少女の遠山さんが質問をしてきた。


 「高校までは野球やってたよ。弱かったから一回戦二回戦で姿は早々に消してたけど。」

 チームとしては弱かったけど、野球をやっていて良かったと思っている。

 ある意味不屈の精神的なものは、弱いなりにも一生懸命打ち込んだからこそ身についているんだと思う。


 「そうなんですね。それで先に車を置きにいったあと合流するのが早かったんですね。」

 

 

 「お兄さん、この中でカップリングするとしたら誰?」

 ぶはっ。何を言い出すんだこの子は。

 赤星さんが突拍子もない事を言い出す。

 悠子ちゃんと茜が何故か顔を強張らせていた。


 「言葉足らずだった。この中の女子同士でカップリングするなら誰と誰?」

 この子百合少女か~

 いや、ネタだけの話かも。ヲタクだというのは聞いていたし、きっと同人誌そっち系の話だろう、うん。


 「赤星さんタチ、スポーツ系二人ネコ。以上。」



 「えっと、どういう意味?」

 疑問に思ったのか、茜が質問を返してきた。


 「赤星さんが攻めで、井川さん遠山さんが受けという事。」

 ふ~んと頷く茜。



 「どうしてそう思ったんですか?」

 井川さんがにやにやしながら聞き返してくる。



 「それは古今東西文科系が攻めで運動系が受けの方が絵的に美しいからと相場が……」

 しどろもどろするわけにはいかない。ここは素直に答えるのが吉だと思った。


 「お兄さんは王道……と。」

 そして赤星さんが何やらメモを取っていた。



 オムライスを食べ、デザートのケーキを食べ、これ以上別腹がないとなった所で時刻は16時になろうとしていた。

 まだまだ日は高いとは言ってももうすぐ秋だ。

 俺の季節だ!なんていうつもりはないけど、もうすぐ秋だ。


 あとちょうどひと月もすれば暗くなるのは早くなるし、気付けばコートが必要じゃんとなる。


 暗くなる前に彼女らを自宅に送り届けなければならない。

 問題は、車に6人は乗せられない。


 一人ボンネットとか、一人トランクの中とかは今言うべきネタではない。

 JKがトランクから出てくる姿を想定してみ?

 軽く事案発生で俺は国の犬に追われる日々になるじゃないか。



 などと悩んでいると茜が先だって提案をしてくる。

 「私は一人で歩いて帰るよ、そんな遠くもないから。」

 しかし俺はそれを容認出来なかった。

 茜は三人より大人だからそう言ったのだろうけど、俺にはそれをはいそうですねと聞き入れるわけにはいかない。



 「だめだ。例え大人でも茜を一人だけ歩いて帰らせるわけにはいかない。」

 俺がいない時の送迎を頼んでおきながら、勝手な事を言ってるのはわかっているけど。

 それでも言葉には出来なくても、言いようのない感情はあった。


 「俺が嫌なんだ。納得したいと言えばいいのか。」

 「自分の目で安全を確認出来なければ俺が納得しない。安心出来ない。」


 「だから先に二人を送ってまた戻って来る。」



 俺は先に体育会系の井川さんと遠山さんの二人を送る事にした。


☆ ☆ ☆


  店に残った茜、悠子、赤星の三人は隙間の空いた席のせいか、広く感じるテーブルで話を続けていた。


 「なんだかんだと茜さんも大事にされてますね。」

 真秋がいなくなったため、悠子と茜は一人分の隙間を挟んで顔を横に向けるだけで面と向かう事が出来る。

 少し照れているのか夕陽は……差し込んでいないのでその手は使えないが、やや頬を赤らめて茜は人差し指で頬を搔いている。


 「そ、そうかな?悪い気はしないけど。これでも社長の所で心身共に鍛えてたからね。暴漢が現れても無抵抗でどうにかされるって事はないと思うんだけど。」

 暴漢という言葉で濁してはいるけれど、この場合に指す暴漢とは例のニュースに出てくる殺人鬼の事を指している。

 隠語としては不適当ではあるけれど、文字通りそんじょそこらの暴漢であれば茜は遅れをとる事は少ないであろう。


 「そうかもしれませんけど、そうだとしてもお兄ちゃんは放っておけないんですよ。最終的に家出同然の私を置いてくれてるわけですし。」



 「ん?それって同棲?」

 送迎をしているため近所に住んでるだろうとは思われていたけれど、同じ家に住んで居る事は秘密にしていたため、今のでしまったと思う悠子。


 「あ……どどど、同棲じゃないよ、どど、同居……だよ。そそ、それに人に言えない事は何も!」

 悠子は慌てて色々否定しようとするが、身体に物言わぬ証拠が出揃っていた。

 顔が真っ赤になっており、何もないという方が不自然ではあるが、赤星はそれ以上言わせるまえに喋りだした。


 「あ、いや。別にくんずほぐれつな事までは聞かない。法律も変わって18歳で選挙権も貰えてるんだし。」

 唐突に饒舌になる赤星。普段の怠そうな喋り方は演技かキャラなのだろう。


 「それで納得した。隣人のお兄ちゃんはナイトであり旦那候補……と。これ冬コミの原稿のネタにして良い?」


 「だめですっ!だだ、だって憲子の同人誌って……」

 悠子の慌てようから大体想像は出来るだろう。

 所謂「あのエロ同人誌みたいにっ!」という展開の本ばかりなのだろう。



 「どんな同人誌なの?気になるわぁ。」

 茜が二人の話に喰い付いてくる。新しいゲームソフトを買ってきた兄に詰め寄る弟のように。



 「ここでは開けないから、これ見本誌……3冊あります。家に帰ったら読んでください。布教用なのでプレゼントします。」


 いつも持ち歩いてたんかーいと悠子は心の中で叫んでいた。


 「ありがと。」

 茜は赤星から茶色の封筒に納められた3冊の同人誌を受け取った。



 

 その後先に二人を送り届けた真秋が戻って来る。


 少し疲れた表情をしているのは気のせいだろうか。

 女子からの質問責めでもされたのかもしれない。


 会計を済ませると悠子、茜、赤星と連れて再び車に乗った。


 友人がいる関係から、助手席には茜が座る。


 「ちょっかい出すなよ。」


 真秋は釘を刺した。


 「流石に運転中は出さないよ。」


 赤星を送り届けるとアパートに向かう。

 3人も車に乗っていて、同じアパート率100%……


 


☆ ☆ ☆


 「ぶはっ。ナニコレ。私もこんなことされたい。」


 帰宅後赤星から貰った同人誌を見て悶える茜。


 自分で弄ろうにも鋼鉄の処女が防いでおりただ悶々とするだけだった。


 現実に同人誌みたいな事は起こらない。

 仮に真秋が本気になったとして、真秋は魔王マーラ様のようにはならない。

 触手だって生えていない。



 赤星憲子……サークル名「SAD TreR」

 悲しい遺伝子。どこがどは言わない。

 母娘揃って合法ロリ。それだけ言えば伝わると赤星は思っている。

 アルファベットを並べ替えるとREDSTAR。

 思いの外アナグラムが思いつかなかったと、初めて申し込んだ同人誌イベントの後に思ったそうだ。


 PNは「大波小波」 下の名前を平仮名にすると同名のえろげ声優がいた事を後に知った赤星。


 後書きと共に書かれているサークル名とペンネームを見て、どんな意味で名付けたのかな?と思っていた茜ではあったが、真実を知る事が来るのか来ないのか。

 赤星は親しい友人達にも由来は語っていない。

 



―――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 少し緩衝材を入れました。


 美少女5人に囲まれてメイド喫茶とかなにそれ。

 ピコピコハンマーで叩かれれば良いのに。もちろん声は……

 ピコピコハンマーの声はテイルズの1作目をやればわかります。


 

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