第151話 心の差異、河川敷再び

 例のニュースから3日、初日は朝昼、2日目3日目は朝夕と送り迎えを続けた。

 2日目からはさらに二人の友人が加わった。

 バレー部の遠山蔣子とおやましょうこさん、漫画研究部の赤星憲子あかほしのりこさん。


 遠山さんはショートカットの似合う井川さん同様スポーツ少女って感じの子。

 赤星さんはロングと前髪ぱっつんが似合うお人形さんみたいな子。ちなみに腐ってるかどうかは聞いていない。

 しかし何やら友人同士のカップリングがどうのと言っていたりもするので、ジャンルとしては百合系かもしれない。


 彼女らも井川さん同様お礼を言っていたので、俺の事は色々伝えられているのだろう。

 どのようにかまでは聞けてはいないので、俺の立ち位置が隣人のお兄さん以外の解釈が気になるところではある。



 4日目、朝はともかく流石に夕方は無理そうだった。

 俺も社会人であるため、会社の一部だ。同僚はともかく顧客にまで迷惑をかけるわけにはいかない。

 俺が少し早めに上がるという事は、代わりに他の誰かが現場に行かないといけないわけで。


 1件に掛けられる時間を減らさなければおいつけない。

 15時以降の現場はそうして他の社員にしわ寄せがいくため、少なからず心身に負担をかけさせている。

 その結果、毎日送迎というわけにはいかない。所長は例の暴露宴の事があるので一番理解してはくれているがずっと甘えるわけにもいかない。

 

 「と、いうわけで月曜から夕方の迎えをお願いしたい。本当は男の知り合いに頼みたいけど中々難しくてな。」

 「性別的には悠子ちゃん達と同じ女性なので万一の時に身を呈してとは言えないけど、全員が無事でいられるようにして欲しい。」

 「


 「と、いうわけでと言われても答えに困るけど、ニュースの件が心配なのはわかるから良いよ。社長には伝えておくね。」

 茜の中で田宮さんは社長呼びで落ち着いたようだ。

 

 「でもそうなるとご褒美が欲しいなぁ。無茶な事は言わないから。」


 「善処する……」

 そう答えるのが精一杯だった。

 流石に性行為をしようとかは言わないはずだ。はず……多分。


 

 

☆ ☆ ☆


 「悠子ちゃん、学校はどう?」

 どう?と聞くのも野暮だと思うけど、流石に学校の中の事まではわからないので聞いてみる。


 「みんな不安がってるよ、特に女子は。一部の男子は女子を守ってワンチャンとか言ってる人もいるけど。」

 それは純粋にやめて欲しいもんだな。人を殺める事の出来る人間と対峙する事があるとするならば、が無事に逃げ切る事を優先するべきだ。

 例え格闘術とかをやっていたとしても、進んで戦うべきではない。

 そういうのは本職に任せるべきだ。


 格闘術をやっていても、喧嘩が強くても越えられない壁というものがある。


 喧嘩が強くても目を抉り出す事には抵抗を持つだろう。

 殴る事は出来ても腕を斬り落とす事に抵抗を持つだろう。


 自分の意思で人を殺める事の出来る人間には、その抵抗がない。

 少なくとも限りなくないに近い。

 

 ぶっ殺すぞ!と言っている所謂チンピラも、所詮は粋がっているだけに過ぎない。

 

 本当に怖いのは人間だ。幽霊でも噂でも、得体の知れない呪術でも何でもない。

 幽霊は人を殺さないけど、人は人を殺す。

 いつだって本当に怖いのは人間だ。


 今この近辺を怖がらせているのはそんな人間だ、俺はそう思っている。

 少し考えてから俺は悠子ちゃんに返答した。

 

 「誰と一緒にいる時でもだけど、もし件の犯人と遭遇しても全員が無事に逃げる事を考えるべきだ。戦おうとか、誰かが囮や犠牲になんて考えちゃだめだ。」


 「俺が行けない時に迎えを頼んだ茜にもそれは言っている。大人だから悠子ちゃん達を残して逃げろとは言わないけど、全員が逃げ切る事を優先してくれと。」


 「こういうのは大袈裟に考えていた方が良い。対岸の火事に考えていると痛い目にあう。それは身を以って経験している。」

 それはともえの事だ。

 浮気にしても、托卵にしても、他人の事に思っていた。

 物語だけの話とか、知らない誰かの事だとか……

 

 自分が経験して初めてわかる様々な想い。


 もし、もしあの時ともえが喜納と関係を持つ事のない世界があったとするならば……

 あの怒りも悲しみも苦しみも経験する事はなかった。


 今こうして心配する相手は変わっていた。


 まぁタラレバの話はニラレバ喰いてぇ……

 ではなく、もう過ぎた事だ。今考える事ではない。


 「そういう事がないこした事ではないけど、可能性がゼロではない以上常に気にした方が良い。本音を言えば、1階に住んでいる茜の事も心配だ。」

 犯人の真意はわからないが、もしかすると平気で窓ガラス等を割って侵入してという事も考えられる。

 2階以上だからと安心は出来ないけど、1階は地面に接している以上危険度は高い。


 普通に空き巣や強盗の事を考えれば一軒家や、セキュリティの高くないアパート等の1階は安心とは言い難い。


 大家さんには申し訳ないけどその辺りは弱いと思っている。



 「お兄ちゃんも何だかんだで優しいよね。みんな平等に見てくれていると言うか……」


 「俺が優しい?平等?」

 

 「今、茜さんに対して心配って言ったじゃない?誰一人突出出来ていないのは悲しいけど、裏を返せばそれは平等に見てくれているって事だもんね。」

 最近悠子ちゃんが難しい事を言う。

 ともえがいた頃の一歩引いていた少女から一線超えてきたように感じた。


 その証拠に俺の目に映る悠子ちゃんの表情からフィルターが一枚剥がれたように思えた。

 カラーコンタクトでも外した時の感覚だろうか。


 こちらから見る視界と、周囲から見る視界の微妙な差異。

 薄皮一枚違う世界でも確かに変化している。


 このような時勢ではあるけれど、俺は確かに実感していた。


☆ ☆ ☆


 それからさらに1週間が経過した9月末。



 「次のニュースです。今朝I県G町T根川の河川敷で女性の遺体が発見されました。」

 今度は先日の川の反対側で、先日と同様身元不明の女性が同じようにされた形跡があったという。


 俺は何気なくスマホを操作し、検索をしてみると目についた記事へと飛んだ。

 遺体を発見した男性は、自身のSNSで写真こそ掲載しなかったものの、突拍子もない事を書き込んでいた。

 あれは何かの建設か儀式のようなものだった。解体された身体、抜き取られた臓器、そして再度組み上げられた身体は……ただの殺人ではないと。


――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 茜の言う一歩進んだご褒美って……


 そしてこの作品、別にホラーではありません。

 狂気でもありません。ある意味狂気染みたキャラは登場してますが。ともえとかともえとかともえとか。


 今回の件の犯人は最終的に退場する事になるはずですが、もうしばらくお付き合いください。

 先日の事件から登場を控えているあの人の事を語る上で、どうしても出さなければならない悪人なので。


 

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