第150話 ストレ~ト~が~150キロ~♪

 「次のニュースです。今朝S県S市T根川の河川敷で身元不明の女性の遺体が発見されました。」

 朝食を食べながらテレビに何気なく気をやると思わず「えっ?」となるようなニュースが耳に飛び込んできた。

 何故ならそれは俺がかつて住んでいた街の名前が出てきたからだ。

 それにその川は今住んでいる地域にも隣接している。

 さらに言えば川を渡れば隣の県に入る。


 ニュースの内容からこちらがわの河川敷ではあるのだけれど……


 「なお、女性の身体には乱暴された形跡があり……」

 その先を聞くと、発見された女性は持ち物がないため身元不明であり、さらには強姦された跡があるが、証拠や犯人の手掛かりになるものは見つかっていない。

 死後数日経過しており、殺害現場も別の場所ではないかという事であった。

 

 これがどこか遠い場所での事ならば聞き流して終わりだったのだけれど、遺体発見が隣町であり現在の住居からも然程離れていないという事が緊張感を持たせていた。

 強姦された形跡があるという事は恐らくは10代から40代と考えるのが妥当だろう。

 

 「なぁ、悠子ちゃん。暫くは学校まで送ろうか?」

 流石にこの近辺に強姦殺人鬼がいるとまでは思いたくはないが、場所が場所だけに心配は拭えなかった。

 


 「その事で緊急メールが学校からきたの。全校集会をやるから登校する場合は集団登校若しくは親御さん等に送り迎えをしてくださいって。」

 それと、この件で今日は休んでも構いませんとの事だった。


 悠子ちゃんもニュースを見て震えている。それはそうだろう、みなまで言わなくても強姦殺人が近くで起きたとあれば平常でいられるはずもない。

 俺は更なる心配があり、妹にメールを送ったけれどすぐに返信がきた。

 流石に中学校は臨時休校らしい。登下校の安全確保が出来る体制を整えてからになるという事だ。


 恐らくは小学生の時のように集団登下校になるのではないかと俺は思っている。

 そこに一人か二人大人が付きそう形で……


 こういう時学区で決まってるのは便利で良いとは思う。

 今現在仲が良い悪いはあるだろうけど、実際小学生の時と同じメンバーで登下校するようなものだ。


 


 結局今日は俺が悠子ちゃんを車で送る事にした。

 悠子ちゃんが友人にその事を送ると、その友人から自分も一緒に良いかどうか聞いているとの事だった。

 どうやらその子は両親共仕事に出ているらしく今日は休もうかと思っていたとの事だった。

 しかし俺が悠子ちゃんを送るとわかったら、申し訳ないけど自分も構わないかとなったというわけだ。


 「別に良いけど悠子ちゃん含めて3人までしか乗れないぞ。ネタで一人がトランク内、一人がボンネットに捕まってとかは言わないぞ。」

 


☆ ☆ ☆

 「おはようございます。はるちゃんのクライメイトで1年の時は同じハンドボール部の井川敬です。親が某球団のファンで名付けられました。」

 丁寧に挨拶をしてくれた彼女は井川敬と名乗った。

 ショートボブの似合ういかにもスポーツ少女という感じで……

 顔は可愛いけど身体はごつかった。あ、これは失礼だ。

 

 だってほら、水泳選手とかを想像してみてごらん?

 顔が可愛くても身体すごいじゃん?

 そんな感じで井川敬さんは2000万パワーズと呼びたくなりそうな身体だった。

 

 多分喧嘩したら負けるな……

 

 「こちらこそよろしく。黄葉真秋と申します。暫く悠子ちゃんを送迎する隣人です。ん?はるちゃん?」

 軽く挨拶と自己紹介を済ますと、井川さんの言葉に違和感を覚えた。

 恐らくは悠子ちゃんの渾名だとは思うけれど、思わず聞き返していた。

  

 「あぁ、悠子の悠の字が【悠久ゆうきゅう→はるか】となってはるちゃんとなりました。普通に悠子と呼ぶ事もありますけど。」


 「そうだったんだ。そういうのを聞くと悠子ちゃんも学生なんだなと実感する。」


 「お兄ちゃん、私をなんだと思ってたの?」


 「あぁごめんごめん。」

 それ以上は言えなかった。妹みたいなものと続けるはずだったけれど、なぜだかその言葉が口に出る事はなかった。


 「お兄ちゃん?あーなるほど。はるちゃんガンガレ。」

 いや、井川さん?ガンガレっていつの時代のヲタクですか?

 井川さんは悠子ちゃんの肩に手を乗せてしみじみと頷きながら言っていた。


 「そういや井川さんはストレートが150Km/h~?」

 

 「そんな元背番号29の人みたいな事は出来ませんよ。カンザキな人の自作歌なんて知ってるなんてコアですね。お兄さんもそういうネタ言うんですね。」

 なぜか井川さんが俺の事をお兄さんと呼んだ。まぁ良いけど……


 「あ、ごめんなさい。ついお兄さんって呼んでしまって。私長女だから上に誰もいないので新鮮で……」

 申し訳なさそうに井川さんが言うので俺はすぐに返答する。


 「別に良いよ。そんなに歳も変わらないし、呼び捨てじゃなければ好きなように呼んでくれて。」

 

 

 井川さんはあっと言う間にこの場に馴染んでいた。

 恐らくと言わず、間違いなく学校での悠子ちゃんの味方の一人で間違いないだろう。

 数人の友人の事は聞いているし、部活の事も少しは聞いている。

 

 今の悠子ちゃんが学校に行けているのも、彼女や他の友人・仲間達がいるからだと言うのはわかっている。


 「井川さん、ありがとう。」

 思わずそう口にしていた。


 「こちらこそ、ありがとうございます。」

 小さな声で「悠子を守ってくれて」と付け加えていたのを聞き逃さなかった。

 

 

 今の会話で井川さんが学校外……プライベート時間の悠子ちゃんを守っているのが俺だと認識したのだろう。

 だからこその礼だったはず。


 そして俺の礼が、学校での悠子ちゃんの味方でいる事に対しての事だと伝わったのだろう。


 

 俺は学校傍まで車で送り、二人を降ろした。

 今日は全校集会と、いざという時の対応訓練を行うだけになったというので午前中で終わるらしい。

 訓練と言っても戦う事を前提としたものではないみたいだけど。


 帰りについては会社に説明し、昼に一度抜ける承諾を得る旨伝えておいた。

 自分がダメだった時は……どうしようか。


 大人ではあるけど女性に頼むのは……


 茜無料券の使い方?流石に間違ってるよなぁ……



――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 妙に殺伐としてきましたが、例の犯人は喜納関係者ではございません。

 誰の関係者かはわかってるでしょうけど。


 しかし最初はここまで極悪人の予定ではなかったのに色々付随してしまった……

 スタンド使い同士は惹かれ逢うじゃないけど……

 

 事件同士は惹かれ逢う。

 

 真秋に何の引力がるというのか。

 そして真秋、悠子に気がいくあまり色々抜けてます。

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