第148話 もどかしい告白
※☆で区切るまで序盤は3人称で進みます。その後は真秋の1人称に戻ります。
チェックアウトを済まし近隣の喫茶店に入ると、注文をした後に真秋はトイレに行くからと席を外した。
ここには今瑞希、杜若、素麺の3人が注文を待ちながら真秋と瑞希の関係について話していた。
「競争はあるみたいだけど、前向きに進んでて良かったじゃない。」
現状の真秋達の関係についての素麺の言葉に瑞希は頷いた。
これまで電話等で瑞希は何度か素麺と話はしていた。
そのため杜若よりは素麺の方が、真秋達との事情については知っていたし理解もしている。
「そういえば月見里さんは何故黄葉の事を?これまでの感じからして、あの飲み会が初めての出会いではないみたいだけど。」
その件については先日病院で少しだけ話をしていたが、杜若には全ては語られていない。
高校野球の試合の事までは杜若は知らない。
そのため真秋がトイレから戻って来るまでの短い時間ではあるけれど、軽く説明を済ませた。
これはあの女子会で話した内容と変わらないものではあるが、真秋にはまだ伝わっていない。
いつか真秋には話すのでここだけの話にして欲しいと、前もって言った上で説明した。
高校時代の事は一方的に知っているだけなので、片路通行の話なので大きくしては欲しくない意図が現れている。
二度目の出会いの事は流石にこの場では話せないため、瑞希は秘匿する事にしていた。
親友である素麺は知っているが、先日女子会で話すまで他言はしていない。
そういった意味では悠子と茜は、瑞希に随分と信頼されているという事になる。
「そんな前から見てたって……凄い一途なんですね。」
高校時代から数年ではあるが、彼女持ちの男を会えるかもわからないのにずっと想い続けるというのは一途にも程がある。
悪い言い方をすればそれは狂気ともとれる。
想い続けるのは素晴らしいが、別れたら狙ってやるというのは狂気であろう。
瑞希にそういった思いはないだろうけど、無関係の人が見ればそう感じてもおかしくはない。
単純に想い続けていた瑞希には一途という言葉が合っている。
現在フリーだからこそ、自分でも想像以上に大胆になり前のめりになり恋戦争に参加しているのだ。
「一定の女性に対して吐き気まで起こしてしまうような黄葉さんが、そういった事もなく普通に接する事が出来る黄葉さんにそれぞれ想いを寄せる3人の女子。もうこれは4人で家庭を作ってしまえば良いんじゃない?」
素麺は身も蓋もない事をさらっと言う。
「安堂と別れてからモテてる……黄葉羨ましい奴。」
杜若ももげちゃえば良いのにとは流石に思っていない。不能を知っているだけにそういった考えは浮かびもしないのだが。
「今は二人は付き合ってるのですからそれで良いじゃないですか。競争中の私よりはかなり羨ましいですよ。」
「まぁ確かに色々あってこうなってるのだから、出会いってわからないものよねぇ。」
しみじみと語る素麺の言葉には重みがあった。
「お堅いゆずから付き合い始めたと連絡を受けた時には、頭に彗星が落ちてきたと思いましたよ。」
瑞希の言葉の通り、ややお堅い考えの素麺はこれまで告白した事はないし、告白されても断っていた。
だからこそ、そろそろ相手の一人でも見つけてみては?と同級生飲みを名目に合コンメンバーに選出されたわけでもあった。
それは瑞希に対しても同様なのだが、人選をした清水香里の思惑といったところだろう。
変態ではあるが、ある意味キューピッドとしては機能していたという事になる。
真秋が席を外してから3分少々、流石にトイレから戻って来る。
「着いて早々トイレに行って申し訳ない。」
着席し会話に混ざる真秋ではあるが、それまで自分達の事を聞かれていたとは考えていない。
寧ろ杜若と素麺の馴れ初めとかを掘り下げてたのかなとは考えていたけれど。
☆ ☆ ☆
「じゃぁ、またな。杜若も倖せそうで良かったよ。素麺さんも杜若をよろしくお願いします。」
喫茶店を出ると駅に向かって俺と瑞希さんは歩いた。
杜若と素麺さんはドームの遊園地で遊んでから帰るらしい。
俺も瑞希さんと遊んでから帰りたいと思ったけれど、悠子ちゃんと茜に悪い気がして辞めた。
一瞬残念そうな顔をした瑞希さんにも悪い気がしたけれど、二人に悪いからと言う俺の言葉に瑞希さんは納得していた。
「確かに試合と1泊は了承してましたけど、翌日の遊園地までは確認してませんしね。」
多分素直に話せば駄々を捏ねる二人ではないだろうけど、こういうのは気の持ちようの問題だ。
自分がそう感じてしまってる以上、罪悪感を感じてしまう。
寧ろ普段行かない場所なのだから、せっかくなのだから寄ってくれば良いのにと言われるかも知れない。
それならそれで事前に確認をしない自分が悪い。それだけの話だった。
それに、その時は全員で行けば良い。
「あっという間の観戦ツアーでしたね。」
そうだねと言い返すと瑞希さんは何かを言いたそうだった。
暫く何かを言おうとしては止めてを繰り返し、ついにはその口が開かれた。
「……私が野球を好きなのは少し話しましたし、昨日の観戦状態でわかると思いますけど……」
帰り道、歩きながら瑞希さんは話し始めていた。
それは何かの告白だろうか。
「私は昔、野球をやってました。中学に上がる頃には違うスポーツをするようになりましたが。」
「だから授業で行けない時を除いて、自分の学校の試合はほとんど見に行っていたんです。」
瑞希さんの学校が柊さんと同じ桜高校だという事は以前に聞いている。
だから少し羨ましいなと思ってしまう事もあった。
あの頃桜高校の急成長に羨望を感じていた。
「私、高校時代から真秋さんの事見てるんです。覚えてますか?3年生の夏の大会2回戦の最終回。」
そこから始まった回想には身に覚えがあった。
俺達は桜高校相手に5回コールド負けを喫した。
しかし最終回である5回表、柊さんから唯一のヒットを俺は放った。
その前、何球か粘った時に桜高校の応援するスタンドにファールを打った。
その時スタンドに対して頭を下げた。
その打球がキレが良く危ないと思ったからだ。
でもまさか、あのボールを取ったのが瑞希さんだなんてな。
「あの時は随分紳士的な高校球児だなと思って、少し気になるくらいでした。でもその後柊さんからヒットを放った姿が眩しくて……」
「相手校ながらに気になる男子という認識になってました。でも色々人伝に彼女さんがいる事を知ったせいか、私に芽生えた得体の知れない気持ちは封印する事にしました。」
「私自身それが何かわかるのに時間がかかってしまったのですけどね。」
尚も続く瑞希さんの過去の告白。
もう少しでアパートについてしまいそうなので公園へ寄ろうかと勧めた。
ベンチの上にハンカチを敷いて座ると瑞希さんは続きを話しはじめた。
「学校も違いますし、卒業するまで会う事もないだろうなと思ってたんですけど……もう一度会う事が実はあったんです。」
「もっとも一度目のは遠目ですし会ったと称するには苦しいですけどね。そして二度目のはきっと真秋さんは私を誰と認識はしていなかったと思います。知ってたら既に思い出しているでしょうし。」
「でもごめんなさい。話始めておきながら二度目の出会いの事はまだ言えそうにありません。そう遠くない未来、話せればと思います。」
苦しそうに話しているのだからそれがとんでもない事だとは想像がついた。
ただ、俺には思い出せない。恥ずかしい話、高校時代は野球以外はともえの事で頭が一杯で他の事は希薄に感じていた。
「そして三度目、それがあの合コンとなる飲み会なのですが……まさかあの真秋さんと再会する事になるなんてと思いました。」
「今言う事ではないかも知れませんが、卒業前の二度目の出会いの時に真秋さんに対する感情が所謂恋ごころだという事に気付きました。」
それでも彼女がいる事を知っていたので、胸の奥にしまったままにしましたけどねと言う。
「もし、私が話す前に思い出しても言わないでください。これは私のけじめであり決意ですから。」
きっと何かきっかけがあれば思い出す事は出来るのだろう。
ある意味ともえフィルターなるものが掛かってるせいでわからないだけで。
「わかった。でも思い出せないという事に対しては申し訳ない。瑞希さんがそれだけ思い悩むという事は、それはとても大きな事だったはずなのに。」
瑞希さんにとっては大事な事でも、ともえフィルターで過去にシャッターが掛かっている俺には見当もついていない。
「……本当は昨夜ホテルで話せば良かったんですけどね。」
そういって立ち上がり、振り返る瑞希さんのはにかんだ笑顔がとても眩しかった。
それだけは確かだった。
立ち上がった時に少しスカートが捲れあがって、ラッキースケベ神が仕事をした事は胸の奥にしまっておこうと思った。
ラッキースケベ神は執行猶予中に何をしているんだ……
そして先程の瑞希さんの言葉を改めて思い出しす。
過去を語ってはいたけれど……それは遠回しに愛の告白をされていたという事を。
――――――――――――――――――――
後書きです。
ラブばかりあってたまるか。そろそろ連鎖の次いかねば。
違う、次の連鎖ですね。
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