第147話 フロントミッション

 「今朝の事は内緒でお願いします。」

 どうやら瑞希さんも恥ずかしかったらしい。

 抱き枕代わりに抱き付いて、足は絡んで……太腿がちょこっと当たってたわけで……

 起きた時に気付いていたかはわからないけど、気付いていたとしたら恥ずかしさは増大しているはず。


 もちろん触れられていた俺はふとももを堪能しましたとも。

 俺の中の邪君横島君》はちちしりふとももーを堪能しておりましたとも。

 ちちは抱き付かれていたのだからわかるだろう。俺のよこちちとも触れ合っておりました。

 とは言っても、大きくはないので弾力は……ね。小さい方が好きだから良いんだけれど。 


 ふとももは先程説明した通り。俺のマグナムの銃口は程良い弾力によって塞がれていた。 

 ではしりはというと、俺の右手が触れていた箇所と言えば納得出来るだろうか。


 そしてなぜこんな説明じみた事を想っているかというと、それは俺も内緒にしてもらいたいくらい恥ずかしいからだ。

 やっぱり【起きたら美女に抱き付かれてた】というイベントは、それなりに心がバクバクするには過大なものだった。


 「あ、ハイ。」

 語彙力がないと言われても俺の返答はそう返すのがやっとだった。

 


 それと、不思議と下半身に何か溜まっていくような感覚に見舞われていた。

 元気玉のために少しずつ力が集まっていくようなイメージで、じんわりとした何かに。



☆ ☆ ☆


 プランの中に入っているため、朝食はホテルのラウンジで済ます。

 正面で子リスのように、もきゅもきゅという効果音が付きそうな感じで食べる瑞希さんが妙に可愛かった。

 食後のコーヒーが苦かった。それはどうしても今朝の事が頭を過ぎるからであり、それは仕方ない。


 先程は触れなかったけれど、ベッドで抱き枕にされていた時瑞希さんの浴衣は微妙に開けていたのだ。

 触れていたふとももは……生でした。直とも言う。


 そんな事を想いながら食べる朝食は……健全な男子なら……相手の人を食べてる気になりませんかね?

 なりませんかそうですか。カニバリズム的な食べるではないよ、えっちな意味でだよと脳内の自分に言い聞かせる。

 

 


 ロビーでチェックアウトのために列に並ぶ。

 多くの人がいるわけではなにけれど、それなりの人数がフロントで並んで待っていた。


 中々進まない列に対し、どうやって気を紛らせながら時間を潰せるかなと考えていたろころで突然声を掛けられる。



 「あれ?黄葉さん?」

 声をかけたので振り向く。

 佐藤や鈴木のような苗字であれば振り向きはしなかっただろう。

 「もみじ」なんて苗字はそうそう転がっていない。

 

 家族親族がいるとは考え辛いので、必然的に自分が声を掛けられたと認識して間違いない。

 自意識過剰では断じてない。


 振り向いた先にはどこかで見た事のある女性が見た事ある男と二人で並んでいた。

 男と称したのにも理由があって、それは同級生である元野球部員杜若杜若であったからだ。


 「それと……みずきち?」

 女性が瑞希さんに対して知り合いを装った言葉で近寄ってくる。

 しかし見覚えがあって当然だ。

 この人、あの時瑞希さんを始め病院まで追いかけてくれて看病してくれた素麺さんだ。


 髪型と服装が違うから気付くのに時間が掛かっても仕方がない。

 女性は少しの変化で気付き辛くなるものだ。


 「あ、ゆず……なんだこの敵めっ。」

 瑞希さんの乱暴というか少し汚い言葉を始めて聞いた。

 いや、昨日もドーム内でも少し聞いていたか……


 ちょうど相手チームの選手に対して飛ばすヤジというか。

 

 なんで瑞希さんから普段聞かない言葉が発せられたか。

 あの日物凄く仲の良い友人にしか見えなかったのにも関わらず……


 それは、素麺さんと杜若は……

 相手チームのユニフォームを着ていたからだ。

 讀捨巨ちn……軍のユニフォームを着て。


 「相変わらずタテジマ軍団とカレー色軍団の事となると目の色が変わるわね。」

 と言ったのは素麺さん。少し呆れた感じで瑞希さんを見ていた。

 今時カレー色で通じる人がいるのだろうか。30年くらい前のカラーだぞと思ったのは内緒の話。


 「まぁ昨日は勝ったので良しとします。ところでゆず達もチェックアウトという事は泊まってたのでしょう?試合も当然観戦してたという事?」

 唐突にいつもの口調に戻ったのでさっきのが激レアという事になるのか。

 

 誰も突っ込まないけれど、二人で並んで同じユニフォーム着てるという事は、素麺さんと杜若は……


 「そうだよ。負けた腹いせに……ちょっとハッスルしちゃったけど。」

 何やら甘美な言葉を言ってるぞ素麺さんは。


 「その言葉だと誤解を招くだろうけど、変な事はしてないからな。バーラウンジでべろべろになるまで飲んでただけだからな。」

 間髪入れず杜若が弁明をし始めた。

 どのくらい飲めば素麺さんがべろべろになるのかはわからないけれど、きっと安くはなかったのだろう。

 杜若の表情からそれは読み取れた。ご愁傷様……


 「そう言えば、いつから二人はそんな関係に?それと、今更だけどおはようございます、そしてお久しぶりです。あの時はどうも……」

 俺は二人の関係の事が気になりついに突っ込む事にした。そして挨拶は本当に今更だ。


 「お久しぶりです。その後体調は大丈夫でした?看護師のみずきちがついてたんだし快適だったとは思いますが。」

 素麺さんも遅れて挨拶をしてくる。快適という言葉に少し引っかかるものを感じたけれど、彼女に他意はないと思う。

 あの時も純粋に心配してくれていたわけだし。


 「おはよう。俺達さ、黄葉と別れた後柚と二人で軽くご飯に行ったんだよ。あの会で女性陣は到着間もない時の出来事だったし。」

 「そこで色々話てるうちに意気投合して、同じ球団のファンて事もわかって何度か会ってるうちに付き合う事になったんだ。」


 なるほど……ある意味あの合コンは成功というわけだな。一組のカップルが成立したって事で。


 「観戦お泊りデートをしてチェックアウトしようと思ったら、黄葉達を見かけて……」


 「声を掛けたのが私だったというわけね。こう言うと失礼かも知れないけど、黄葉さんとみずきちは私達のキューピッドだったのよ。」

 確かに俺があの場で気分を悪くして吐いて運ばれなければ、二人がこうなっていたかはわからない。

 他の人と付き合ったかも知れないし誰ても付き合っていないかも知れない。


 「で、そういう黄葉はどうなんだ?月見里さんとこういうとこにいるってことは……」

 杜若も気にはなったのだろう。ホテルに宿泊している成人男女ということは何の関係もないとは言わせないと言ったところか。

 普通はそうだろう。観戦だけだったら付き合ってない男女でもあり得る話だ。


 しかし宿泊となれば別だ。友人でも泊まる事はあるだろうけれど、異性であれば友情があっても流石に泊まったりはしないだろうと杜若は思っている事だろう。

 ところがどっこい、残念ながら俺達はそっちと違って恋人ではない。

 それを口に出せるかと言えば難題ではあるのだけれど……


 「私達は少し複雑なのです。ゆずや杜若さんのような関係ではないので……」


 「知人に貰ったチケットと、その知人が手を回して宿泊予約していて。誰がペアになるかで戦争があって。」

 旦那の特典みたいなものだから俺達は基本プランの分の値段は支払わなくて良いとの事だった。

 本当に柊さんには頭が上がらない。

 チケットといい、宿泊費といい。今度会ったらお礼を言わなければ。


 「その戦争に勝利して一緒に観戦して宿泊出来たのが私という事になります。」

 瑞希さんがない胸張って威張った。顔はややどや顔をしている。

 こんな一面もあるんだなと、改めて思った次第。


 「戦争?」

 杜若が疑問を口にする。横の素麺さんも首を傾げていた。


 「詳細は省きますが……真秋さんの隣人JK、真秋さんの同級生、私の3人で厳正な話し合い戦争をしたんです。」



 「つまり、黄葉はモテ期到来真っただ中というわけだな。爆弾が爆発しないよう気をつけろよ。」

 勝手に納得する杜若だけと、多分その考えは概ね正解だろう。

 杜若の中では、俺は3股手前と認識したに違いない。




 「友達以上恋人未満が3人という認識でOK?その中心にいるのが黄葉さんて事でOK」

 素麺さんが集約してくれた。瑞希さんが小さく無言で頷いたのを見て素麺さんは引き下がった。



 「一方通行って辛いですよね……」

 辛うじて拾える音量で瑞希さんが呟いた。


 最後の言葉にはズキっと胸に響いた。

 虫歯から激痛が走ったかのように。

 パワ〇ロで練習しすぎで怪我をした時のように。



――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 素麺さんと杜若はいつの間にかアベックになってました。

 多分ゴールインするんじゃないかな。

 

 真秋の心境も少しずつ変化はしていっているはず。




 だからこそ二人の関係を聞いてもあまり驚かなかった。

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