第146話 同じ布団で寝ても……

 目が覚めた瑞希さんは、そのまま起き上がりバスローブを直すと何か喋ってからベッドの後方へ逃げていく。


 「マッサージありがとうございます。凝りまくっていたので正直助かりました。」

 俺は普通に礼を言う事で、何もなかったよアピールをしておく。

 下手に意識させると……こっちも悶々としてしまう。


 旅行に行った時にホテルで頼むマッサージなんて、施術するのがおっちゃんでもおばちゃんでも、解して貰うと気持ち良いもんだと思う。

 反応してしまう人だっているに違いない。


 悲しいかな、今日も俺は反応出来てはいないけど。

 それでも気分は高揚してしまう。


 自らの高揚感をも下げるためには、何もなかったようにするのが良いに決まってる。

 

 「飲み物飲み物……」

 一方で瑞希さんは冷蔵庫に烏龍茶を取りに行くが、窓際のテーブルに置いてあることに気付いた。

 恐らく酔いを醒ますために冷たいもので潤そうとしているのだろうけど、焦ると転ぶよ……なんて思っていると。


 

 「わっ」

 瑞希さんが漫画のように転んだ。何もないところで転ぶのは漫画かゲームか小説の中かドジっ子だけのものかと思ったけど。

 そして捲れた……バスローブが。


 「おわっ、だ、大丈夫?」


 向こうからこっちに向かって歩いてきたところで転んだからあまりよく見えないけど後ろの割れ目が見えるか見えないか際どい。

 それはグレーは無罪というように、見えてないと判定されて良いはず。

 

 「ぁぅ、み、見ました?」

 見えました?ではないので、お尻を見たのか?なのか、転んだところを見たのかのどちらか悩むところだけど。


 「……見ました。転んだところは。」

 こう答えるのが間違いではないはず。正解かはわからないけど。


 ささっと手を後ろにやって隠したから今ガン見したところで見えないけど。


 「というかバスローブの下、何もつけてないんですか?」



 「……茜さんがバスローブの下には何も身に着けないのが正解とおっしゃっていたので。」


 「不正解とは言わないけど、何も身に着けないのはどちらかと言えば着物の下にはと一般的には覚えてると思うよ。」

 多分茜の入れ知恵なのだろうけど、非エロの瑞希さんには大ダメージじゃないだろうか。

 それに着物の下にだって下着は身に着けるものだけど。


 「……酔いが一気に醒めました。」

 確認はしていないけど、瑞希さんも茜の言葉が適当だった事に気付いたのだろう。



 「一応あいつの名誉のために弁護するなら、Hなホテルでの男女間であればバスローブの下は裸で正解だと思いますよ。」


 でもそれは弁護ではなく追い打ちだったようで逆効果だった。

 瑞希さんは顔を真っ赤にして、そそくさと浴衣とミニ鞄を持ってバスルームへと消えていった。


 ラッキースケベは仕事を出来なかったけど、ドジっ子神は見事に仕事をした。

 そんな事件とでも言えばいいのか。



☆ ☆ ☆



 テーブルの反対側には浴衣姿になった瑞希さんが座っている。


 今更だけど、メイクを落としても変わらず美人可愛い。

 でもそれを言うと多分ぷしゅ~ってなると思い言えてはいない。


 どこかで聞きかじった知識では、女性のすっぴんには触れない方が吉と聞いた気がする。


 瑞希さんは烏龍茶をちびちびと飲んでいる。

 

 「マッサージで身体が解れて良かったです。」

 烏龍茶をテーブルに置いて発した第一声、どうやら瑞希さんも先程のはなかった事にしたようだ。


 「ありがとうございました。」

 俺ももう一度何もなかった方向でごり押ししていく。


 それから試合の事を振り返る。

 あそこのアレはおかしな采配だろとか、あそこで何で走らないとか……


 30分程反省会?のようなものをして過ごす。

 やっぱりホームランボールは羨ましいという結論で幕を閉じた。


 「流石にもう眠いかな。」

 俺が切り出したけれど、先程から瑞希さんがうとうとしかけていたので、俺からお開きにしようと言い出した。

 実際俺ももう結構眠たかったりもする。


 その言葉にビクっとして覚醒し、チラっとベッドを見る瑞希さん。


 「じゃぁ先にトイレ済ませてきますね。

 その前にトイレに行く。先に行くのは何となくエチケットかなと思った。


 少し下世話だけど、トイレで息子に触れるわけだけど、少し弄ってみたけど大きくはならなかった。

 同じ部屋に瑞希さんがいるのに何をやってるんだか……と直ぐに冷静になって用を済ませるとトイレを出た。


 入れ替わりで……というのは何となく汚してしまいそうなので瑞希さんの事は省く。


 戻ってくる前に先にベッドに入っておいた。

 ダブルなのできちんと別れておけば早々間違いは起こらないはず。


 「そ、それじゃぁ失礼します。」

 緊張した状態で掛布団を捲って布団の中に入って来る。


 何度も言うけどダブルだからそこそこの距離は開いている。

 とはいっても1mもないのだけど。


 「じゃぁ電気消すよ。」


 瑞希さんが小さな声で返事をしたのでリモコンで消灯した。

 



☆ ☆ ☆


 いつのまにか眠っていたのか。思えば昨夜は中々寝付けなかった。

 やっぱり横に異性が横にいるというのは緊張してしまう。


 家の中のお泊り会など目ではない緊張感。

 あの日は部屋も違うし他に人がいるのだから状況も何も違う。


 本当にいつの間にか眠って、いつの間にか目が覚めたという感じだった。


 目覚めた俺が感じた違和感。


 本当は回想などする前からわかっていた事だ。

 目が覚めたら頭のようなものが俺の右肩と胸のあたりに見えたのだから。

 

 良くドラマなんかで見る情事の後に就寝する男女のように、瑞希さんは俺に抱き付いて御就寝なさっていた。

 吐息が微かに胸に掛かってます。

 俺は枕になってます。


 拝啓、先生……お元気でお過ごしでしょうか。

 ダブルベッドに寝ていた彼女は気付いたら俺を抱き枕にして寝ております。

 そういえば以前お泊り女子会をした時は自分の枕が~とか言っていたのを思い出したけど。


 疲れはポリシーを凌駕するということでしょうか。


 そして、これは案件です。事案発生です。

 掛布団が掛かってるので見えませんが感覚はあります。

 瑞希さんの足が……


 絡んでます!俺の右腕は瑞希さんの身体が乗ってるので動かせません。

 動かしたら多分瑞希さんは起きます。

 言い辛いけれど、右の掌は身体の一部に触れている感じがします。とても放送出来ません。


 「んんぅっ」

 今のは寝言なのでしょうか先生。

 試しに掌を少し動かしたら反応がありました。


 そして頭が動いて瑞希さんの瞑った目が見えます。

 そして邪眼のようにゆっくりと開き始める。


 「お、おはようございます。」

 しかし俺と目を合わせず瑞希さんは朝の挨拶をしてきた。

 

 「お、おはよう。」

 俺は挨拶を返すだけで精一杯でした。


 どうやらお姫様のお目覚めです。

 この後俺はどうなるのか。それは無事に帰れたらという事で返させていただきます。敬具。


――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 これでまだ何もしてないとか普通なら生殺しです。

 接近しすぎなのにただ野球観戦して同じベッドで寝るだけって……

 

 

 

 

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