第144話 瑞希式マッサージ
「本当にダブルだ。」
「本当にダブルですね。」
大人一人で寝るには広いが二人で寝るには少し手狭に感じるかもしれない。
当然眠っていれば自分の意思に反して密着もするし、身体が重なる事もあるだろう。
ダブルルームのある30階にやってきた俺達は、部屋に入るなり確認したベッドを見て驚愕と納得を強いられた。
「あ、じゃぁ俺は……」
ソファに寝るよと言おうとしたら瑞希さんに遮られた。
「だめです!もし、ソファとか床とか言い出すようでしたら、それは違います、優しさとは違います。」
「逆を考えてみてください。もし私がソファや床で寝ると言ったらだめって言うでしょう?旅館や民宿じゃないから予備の布団もありませんし。」
確かにホテルの部屋には予備の布団は備え置いていない。
1日くらいソファで寝ても風邪を引いたりはしないだろうけど、そういう問題ではないと瑞希さんは言いたいのだろう。
「わかりました。寝惚けて抱き付かれてもそのままにしますからね。」
俺は冗談を込めてそう言ったのだけれど……
「あ、ハイ。」
寝惚けて抱き付く気があったらしい。
その言葉のニュアンスから俺はそう読み取った。
もっとも眠っていると何するかわからないのは俺にも言える事だけど。
自分ではわからないけど、寝相はあまり良いとは言えないようなので。
ベッド騒動を無理矢理解決した俺達は、一旦着替えて……と言っても球団のユニフォームを脱いで普段着に変えただけだけど。
ホテル内にある食堂に向かった。
外にも飲食店はあるけれど、せっかく普段は来る事のない場所に来たのだから堪能しようというわけだ。
「ユニのまま来てる人多いですね。」
「でも流石に敵地とも言わんばかりに俺達があのまま来ると要らん争いとか生まれそうだからね。」
交流戦時期の杜の都では、試合後の飲み屋は両チームのファンが和気あいあいと飲んでいたりするようだけど。
でも流石にこの2チームの場合はそうはいかないだろう。
勝った方のファンは気が高ぶるし、負けた方のファンは苛立ちで気が高ぶるし。
普段着であれば併設する遊園地目当ての宿泊客もいるため問題も起こらないであろう。
「東京ってだけで高いイメージだもんね。」
「昔お姉ちゃんの職場に遊びに来た時にそれは感じました。東京はたまに来るから良いんだと思います。」
☆ ☆ ☆
「さて困った……」
食事を済ませ再び部屋に戻って来きていた。
「何かお困りですか?ツインだと思ってたらターボだったとかですか?」
「流石にそれは言わせないよ。」
たまに瑞希さんはおちゃらけたりする。
もしかするとこういった姿が本当の瑞希さんなのかも知れない。
「あ、いや。ベッドの事はもう良いんだけど、入浴に関して疑問というか悩みというか。」
「お先にどうぞ。大丈夫です、茜さんではありませんしお湯をどうこうしたりはしませんよ。」
「それ、どちらかと言うとセリフ男女逆じゃない?俺が後に入るとそういう言葉を女性側が言うもんじゃないの?」
「ではお先にいただくよ?
逃げるが勝ち……あながちツインターボは間違いではないのかも。
同じ部屋に泊まる上での二大ハプニング場所。
それは風呂と寝所だ。
背中を流しますなんてイベントはこういうホテルでは不可能だけれど、茜の入れ知恵で何かイベントというかハプニングを起こす可能性も否定できない。
☆ ☆ ☆
少し自意識過剰だっただろうか、イベントもハプニングもなく俺の入浴は終わり、今は瑞希さんが入浴中だ。
覗いても良いんですよとかダメですよとか、洗濯物漁って良いんですよともダメですよとかもなく。
普通に入れ替わりで入浴を済ませようとしている。
窓の外を覗くと先程まで観戦をしていたドームが眼下に見える。
流石30階、随分と色々なものが豆粒みたいに見えるぜ。
「ビルがゴミのようだ。」
5階床くらいのビルは低く小さく見えている。
東京は高い建物が増えている。再開発の波は文京区も例外ではない。
再開発において20階床が最低限くらいな印象を受ける。
地球に感情があるとするならば、もう重い持てないと思ってるのではないか。
東京の夜景を一人黄昏ながら楽しんでみる。
そうでもしないとやっぱり意識をしてしまうから。
やがて瑞希さんが入浴を済ませ部屋に戻って来る。
その姿を見て俺は思わずツッコミを入れた。
「なんでバスローブなの?」
「寝る時は浴衣に着替えますよ?」
そうではなくて、バスローブってなんだかえっちなイメージを強調するんだよ。
湯上り美人感は上昇するけれど、なんかこう……湧き出る情欲というか、うっすら除く柔肌が先程まで一糸纏わぬ姿にそのまま覆っただけ感というか。
バスローブと浴衣、どっちがえっちに感じるか?と街頭インタビューすれば10人中7人はバスローブと答えるに違いない。
「茜さんにお風呂上りはバスローブの方がそそるよ?と言われていたので、私も初めて着ましたが何となく納得しました。」
バスローブというものに不思議と嫌な気はしなかった。
あのともえの不貞を暴露をした時に流した現場映像……ホテルの映像の中で纏っていたのがバスローブだった。
だからこそ、敬遠しそうであったのだけれど、瑞希さんのその姿は寧ろ好感さえ抱けるものだった。
これが尊い……というものだろうか。
試合後のチェックイインからの飲食入浴だったため、既に時刻は日付を跨ごうかという頃。
「応援疲れもあるでしょうし、マッサージしたいと思うんですけど……」
流されるままに俺はベッドにうつ伏せになり、俺の太腿を跨いで指圧を始める瑞希さんは……まだバスローブだった。
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