第142話 野球観戦お泊りデートが始まるようです。

 悠子ちゃんにちょっかいを出していた生徒達の処遇が悠子ちゃんの口から明らかになった。


 その中に教師もいたのには驚いた。変装した田宮さんが潜り込めたのはそこで空きが出来る教師の後釜の臨時としてという事だった。


 「田宮さんは何の後釜なの?」


 「保険の先生。」


 「え?保健の先生って大抵女性だと思うけど。」

 俺の在学中は皆に人気のあった既婚者の先生だったのを覚えてる。


 「お兄ちゃんが卒業した後に入ってきた若い先生だったんだけどね。綺麗で可愛い先生だったよ。」

 そういえば、俺が卒業する時先生は産休に入ってそのまま退職すると言っていたような気がする。

 あの当時でまだ30前だったから……と思い出していると悠子ちゃんから更なる言葉を繋いで来た。


 「あまり言いたくはないんだけど、新しい保健の先生……そっちの人みたいで。何度か迫られてて。」

 「ある日、気分が悪いからと保健室のベッドで寝てたらスカートの中に手を入れられたりして……私、偏見はない心算だったけど……」


 「気分はまだ悪いままだったけど逃げたよ。その後からかな、もちろん他の男子に狙われた時の事も考えて貞操帯をつけて学校に通うようになった。」

 「登校日に女子トイレで私を脱がして強硬策に出た女子生徒達は……保健の先生の差し金だったの。」

 保健の先生は自分を拒絶した悠子ちゃんに痛い目を見せてやりたかったと、保健の先生の忠実な部下的な女子生徒は女子生徒で先生からのご褒美と、それを男子に売って二重に利益を得ようとしたという事らしい。

 


 「あ、でもこの前茜さんと一緒にお風呂に入った時は嫌な気しなかったなぁ。なんでだろう。同じ人を……ぁ、ごにょごにょ。」


 最近の高校は何だか闇が深いなぁと感じずにはいられなかった。

 

 



☆ ☆ ☆


 それから次の土曜日、俺は文京区にある某ドームに来ていた。


 レフトスタンドから某関西の球団の応援をしている。

 外野席というのはガチファン勢が多く応援団も近い。

 が座ってるのは外野指定席なので背もたれがある。

 自由席には背もたれがないので少しだけ後ろが楽だ。


 「あの、お誘いいただき今日はありがとうございます。」

 俺の隣には月見里瑞希さんがいる。

 デートの順番はともかく瑞希さんがいる。

 なんかもうループデートについては諦める事にした。


 リハビリだと思えば気が楽になるし、自分自身将来結婚する事を考えれば少しでも早く復活するにこしたことはない。

 少なからず好意を寄せてくれる人が協力してくれているのだから、悪い事はないはずだ。


 それでなぜ瑞希さんと一緒にプロ野球を見に来ているかというと……



☆ ☆ ☆



 「あ、黄葉さん。ちょうどいい所に。」

 202号室の奥様から声を掛けられた。

 お隣の七虹さんの親友だと聞いている。


 「旦那と会ってここに住む事にしたって聞いてるけど本当?」


 「旦那?」

 誰の事か一瞬わからなかったけれど、直ぐに思い出した。この人柊さんの奥さんだ。


 

 「あぁ、柊さんの事ですか。そうですね。ばったり会って良いとこあるよって薦められて。」


 「あたしは最初覚えてなかったんだけど、野球で後輩だったんだろ?高校では最後の夏、ウチの旦那からヒット打ってたからな。思い出してみればあぁなるほどって感じだったよ。」

 彼女は会話してすぐにマブダチのように話し方が気さくになっている。

 元ヤンの力は恐るべし、流石七虹さんの親友……というかメグナナの片割れ。



 「それでちょうどいい所ってなんでしょう。」


 「あぁ、そうだった。急で悪いかなとも思ったんだけど、旦那からチケット預かっててさ。外野のペアチケット。」

 差し出されたのは今週土曜日の某関西と関東の2大ライバルチーム同士の対戦カードだった。

 レフトスタンド側は関西側、ビジター席となる。

 外野席は応援団も近く、応援の熱も熱い。

 テレビに映るバックネット裏は料金が高い割には応援の熱は薄い。

 飲んでただ見ているだけという雰囲気にあるのは否めない。


 ヤジを飛ばしたり大声で応援したりするのは応援団も近い外野席となる。

 バックネット裏や内野席はどちらかというと飲んで静かに応援するイメージにある。


 そんなガチ応援勢の外野席のチケットを2枚も柊さんがなぜ俺にくれるというのだろう。


 「こないだ会った時に相当しんどそうにしてる黄葉さんを見て、少しでも元気付けてあげられればなぁと思ってて時間だけが過ぎてったらしいぞ。」


 「今さらだけど自分の試合見て貰って元気になって欲しいみたい。それと、裏で席確保できないから簡単に入手出来ないっていうから普通に買ったみたいだぞ。」


 タバコ1カートンとあまり変わらない値段ではあるけど、なんだか悪い気がする。


 「ありがとうございます。」

 柊さんの好意に甘える事にした。

 

 「あたしらには席用意してくれないのに、全く。」

 

 「誰と行くかはわからないけど、楽しんでな。シーズン終わったら一度帰ってくると思うからその時に話でもしてやれば良いよ。」



 そしておれは部屋に戻って誰と行こうか考えた。

 悠子ちゃんは俺が昔野球やってたのを知っているし、茜は部活でやってた事を知ってるだろうし。

 瑞希さんはそういえば昔やってたって聞いたような?


 そこで3人が集まって会議をした結果、瑞希さんと行く事に決定。

 そのままドーム横のホテルに1泊付のため3人が納得いくように会議が行われた。

 そこに俺の意思は存在しない。


 3人共自分が自分が……どうぞどうぞとはならず、最終的にはあみだくじで決定した。


 そんなわけで瑞希さんと野球観戦お泊り付きツアーが決定したというわけだ。



☆ ☆ ☆


 球場に着くなり上着を脱いだ瑞希さんに吃驚した。

 

 「あれ、瑞希さんガチ?」


 「ガチです。私ファンなので。」


 瑞希さんは桜高校ドラフトコンビの白銀選手のファンらしい。


 「私、俊足好きなので。」

 だそうだ。同じ学校からドラフトにかかって、その中でも二塁手の白銀選手に魅入られていると。


 さっきから微妙に瑞希さんの語彙力が低下しているのも気になる。

 それだけ今日を楽しみにしていたという事かな。昔野球やってたというし。


 俺も瑞希さんも選手の名前と背番号の入ったユニフォームを着ている。

 メガホンも2個装着している。瑞希さんはユニフォームの上にさらに法被を着ていた。


 打倒讀〇!とでかでかと書かれた法被を。


 「今日明日が休みで良かったです。」


 試合はまだ始まっていないけど、瑞希さんの中では色々とプレイボールしていた。


 1番に瑞希さん推しの2塁白銀さん、5番に3塁柊さん。9番には桜高校と良い試合を何度もした投手水凪がコールされていた。


 絶対勝つぞを3回、瑞希さんが普段は出さないであろう大きな声を出して叫んでいた。


 瑞希さん、看護師になってなかったら若〇会に入ってたよね?と言われても違和感がなかった。



――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 あまり試合を長々とするつもりはありませんが、観戦お泊りデートは始まった。

 

 

 

 

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