第127話 一方その頃……悠子の部屋では?

 初めてのお泊り会は恐らく無事に終了した。

 小学生ならともかく大人になってからの異性とのお泊りというのは緊張しないわけがない。

 いつの間にか眠ってしまっておいてなんだけど……

 

 起こしに来てみれば女子3人……

 一塊っていつからタグに百合が追加されたんだ?

 つい記念に撮影してしまった。


 というかシャッター音しても起きないとか、隙が多くないですかね。

 もし俺が喜納だったら3人共いけないいたずらされてますよ~っと。


 仕方ない流石に身体揺すって動かすわけにもいかないし。

 一旦部屋を出てリビングに行くと悠子ちゃんの携帯に電話を掛ける。


 曲名までは判断できないけれどなっているのがリビングにいても何となくわかった。


 「ふぁ、もしもしぃ、こじこじでしゅ~。」

 悠子ちゃんからとても流してはいけない返しが来る。

 天城さんとこのネタでしょうに。


 「悠子ちゃん8時過ぎてるよ。休みではあるけどそろそろ起きないと。」


☆ ☆ ☆


 「「お邪魔しました。」」


 月見里さんと小澤は朝ごはんを食べて食器を洗った後帰って行った。


 月見里さんは真下の部屋だから良いけど、小澤に途中まで送ろうかと言ったら断られた。

 だから大丈夫との事だ。


 まぁ本人がそれで良いならと引き下がった。

 

 

 「お兄ちゃん、いつか瑞希さんの話も聞いてあげてね。」


 「お、おう。」

 唐突に言われても何を言いたいのかわからなかったけれど、俺は勢いに押されて頷いた。




☆ ☆ ☆


 時は少し戻り、深夜良い子は寝静まっている頃。

 各駅の終車作業が終わり仮眠に入っているであろう頃。

 深夜アニメもあと1~2本リアルタイムで放送が残っているであろう頃。

 女子3人が眠っているであろう悠子の部屋での出来事。


 川の字になって二つの布団に3人で仲良く枕を並べて就寝していた。


 「そろそろ寝たかな。」

 ごそごそともぞもぞと掛布団を動かす一体の影。

 小声を出してしまうが、そのまま目線だけで周囲を見渡す。

 時刻は深夜2時。夜の仕事で鍛えたのであろう、夜目のスキルでも持っているかのように柱時計の時刻を確認する。

 「夜這いするなら今しかない~エロ・下ネタ担当として~ってうぇい。」

 寝間着を下着毎掴まれその影は布団に戻される。


 「ちょっと悠子ちゃん何するのー」

 茜が非難の声を小声で抗議する。引っ張られた反動で尻の割れ目が露出しているが当の茜は気にしていない。


 「あ、綺麗なお尻……」

 奇跡の一枚の如く覗かせた絶妙なはみ割れ目は同性から見ても見事らしい。


 「ってさっきお風呂でも見たよね?」

 むしろ全部見たよね?と茜の目線は訴えている。


 「見ましたね。大人の女性ってどんな感じなんだろうって見ましたね。」

 悠子は風呂に入った時、茜の身体を前から後ろから見ていた。

 10代と20代の違いを知りたい、経験者との違いを知りたいとの事で若干きゃっきゃうふふを交えながら見させてもらっていた。


 「それで、どこへ行こうというのです?トイレじゃないですよね。お兄ちゃんの部屋に行こうとしてましたよね。」

 小声で悠子が茜を言及する。茜はたじろぎながら誤魔化そうと目線を泳がせる。


 「あ、いや。お花摘みに~。」


 「イかせませんよ。」

 ぐわしっと茜の身体をロックする悠子に若干もじもじさせる茜。


 「あ、悠子ちゃんもそっちの気あるの。ちょっとじゅんとしかけちゃったよ。」

 この程度で感じる茜は安いM度である。


 「では私は本当にお花摘みに……」

 すっと布団を捲ると立ち上がり部屋を出ていく瑞希。


 二人は唖然とそれを見送った。

 あの人は真面目だから流石に夜這いはしないだろうと。


 悠子の体感で5分経っても戻ってこない瑞希に不安を感じ始める。


 「もしかして……戦ってるのかな、大きな何かと。」

 茜が少し下品な事を言い出した。


 「ちょ……女の子はそんなことしないんですぅ。」

 悠子も純真担当なので昔のアイドルは~みたいな事を言い出す。


 「どんな可愛い子でも綺麗な子でもそこから出るものは一緒だよ。むしろそういうプレイが好きな人もいるし。」


 「未成年に何を吹き込んでるんですか。」

 でももしお兄ちゃんがそういうのを望んだら……ごにょごにょとか辛うじて聞こえない声で呟く。


 「大丈夫、多分黄葉君はぎりノーマルだから。」


 「愛の形は世間的にどうであっても、当人同士が納得してのものならそれは全てノーマルなのではないですか?」

 

 性癖というのは他人、ましてや家族や友人に打ち明ける事は難しい。

 SとM、主と従のような関係においては猶更で、それらは互いに尊重しあっていなければ成り立たない。

 互いの信頼があるからこそ、お互いの凸と凹を埋めるかのように納得し満足の行く行為が出来る。


 確かに被虐や羞恥というのは端から見れば暴力や強姦に近いのかも知れない。性別問わず……

 そういったものと無縁の人からすれば快く思われないかもしれない。人間の価値観は様々なのだから。 

 一方通行ではない、双方向に求めあい高め合う本来の両者はそれぞれの性と愛を満たし合う。

 故に信頼ある行為は普通の恋愛と何らかわらないのだ。

 

 今の茜ではまだ一方通行でありどうやって双方向になれるか。

 あの無料券を本来の目的で利用して貰えればいかようにも出来るのにと思っていた。

 そこに於ける信頼というのは一般的な恋愛も、専門的な恋愛も含めたものもあるので別に1番に固執する事はないと思っている。

 従に順番は存在しない。



 「確かに、みんながアブノーマルと言っても当事者の私にとってそれはノーマルだしね。」


 「でも私は特殊な事は……って未経験者をいきなり変な沼にはめないでください。」

 暗闇で見えないけれど、悠子は赤くなってHな話題を逸らそうとしていた。


 「というか、瑞希さん遅いですね。」


 「よし、確認しに行こう。トイレから明かりが漏れていたら戦ってる。漏れてなかったら……」


 「いやいや、瑞希さんが夜這いだなんて流石に……」


 と言いつつも二人は起き上がり抜き足差し足忍び足で部屋を出ていく。

 大きな音を立てないように扉を開けるのも慎重に。


 「トイレの明かり……漏れてますね。」


 「そうね。でも油断は禁物よ。カムフラージュかも知れないし。」


 「と言いつつ真っ直ぐお兄ちゃんの部屋に向かうのはなぜ?」


 「トイレにノックして反応があれば……女子的には微妙だけど戦ってるわけじゃない?でも反応がなければ?黄葉君の部屋にいるという事でしょう?」


 「もし黄葉君の部屋にいるのだとしたら……抜け駆けの証拠を押さえて部屋でとっちめる。」


 「確かにアピールは自由と言ったけど夜這いOKとは言ってないしね。でも茜さんもやろうとしてましたよね。」


 「あははー何の事かな?おねーさんわからなーい。」

 茜のキャラ変は留まる事を知らなかった。


 再び抜き足差し足忍び足で真秋の部屋へと進む。


 ゆっくりと扉を開けると……其処には……


 真人の掛布団の上から添い寝をしている月見里瑞希の姿があった。

 恥ずかしかったのか、布団の中に忍び込む勇気はなかったようだと悠子と茜の二人はその様子を見て思った。



 悠子の部屋に連れ戻された瑞希は軽く説教を受けていた。

 「アピールは自由ですけど、夜這いはだめです。あ、添い寝ではありましたけど。」


 「そ、それは申し訳ないとは思うけど……私だけ色々遅れている気がして。」

 茜に至っては本番はなくともプレイはしている事は明らかになっている。


 悠子は普段同じ家に住んで居る事を明らかにしている。

 

 「だって悠子ちゃん、いつも同じ部屋で寝てるんですよね?布団は違っても。それはずるいと思うのです。今日くらいは私達二人が攻めてもバチはあたらないかと思います。」

 正座をして両手の拳を握って両手とも上下にぶんぶんと振って抗議する。悠子と茜はその仕草はちょっと可愛いものがあると感じていた。


 「でも私はお姉ちゃんに似ているという事でマイナス面ありますし、茜さんだって過去の事でマイナス面があります。瑞希さんにはマイナス面がないという面ではみんなプラスマイナスゼロなんじゃないですか?」


 「あるよ……私にもマイナス……」

 両手を腿に置いて力を込めて重い深いところから声を絞り出す瑞希。


 「直接黄葉さんに対してではないけれど……」


 「……」





 瑞希の語った内容、真秋との2度目の出会いに至るまでの話を二人にすると。

 悠子と茜は瑞希に抱き付いて声を殺して泣いていた。


 「みじゅきざぁん、今日はざんにんでいっじょにねばじょう。」


 「つらかったね、私は自業自得だけど、あなたのは貴女に非はまったくないのに。」


 「ぐ、ぐるじい。」

 何故か悠子を起点に茜と瑞希が抱き付く形でそのまま布団にインし、そのまま泣き疲れて睡魔に身を任せた。


 時刻は……そろそろ太陽が昇ってくるまで秒読みといったところだった。



――――――――――――――――――――――――

 

 後書きです。

 瑞希の過去は真秋に話す前に女性陣共有のものとなりました。


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