第126話 女の子同士だと尊いのは何故だろう。
「「「か、可愛い……」」」
風呂上りの月見里さんの恰好を見て俺、悠子ちゃん、小澤と3人の声が寸分違わず重なった。
「な、なにそれー。」
悠子ちゃんが敬語をどこかに置き忘れてきたのか、ものすごく驚いていた。
「ず、ずるい。私、下ネタしか勝てる要素がないのに……」
小澤……辛うじて記憶に少し残る高校1、2年の頃のお前は大人しくて清純キャラだったぞ。
だからこそ、高橋と付き合い始めておきながら喜納とあんな事になった時、信じられなかったんだから。
それなのにいつの間にか下ネタ・エロ担当にキャラ変してお前は一体どこを目指しているんだ?
「あ、あの……子供っぽいでしょうか?」
可愛いというのを子供っぽいと脳内変換している節のある月見里さん。
確かに大の大人が耳やしっぽのついたパジャマなんて着ないだろう。
そういうのはえっちなお店ならネタでありそうだけど。
「にょにょにょにょにょー、ぶろっ……」
小澤から大人の事情でおいそれと流してはいけないパワーワードが発せられそうになったので急いで行動を起こす。
月見里さんもそれは流石にダメ―って表情をしていた。
「言わせねーよっ」
俺は小澤の口を塞いだ。
別に唇ではない、手で口をだ。
ちなみに月見里さんがきているのはで〇こではなくてぷ〇この方なのだが。
「私のはにゅの方ですね。」
「あの頃中の人まだ女子〇生でしたね。」
俺は要らんツッコミを入れた。
「ちなみに自作です。勢いで
「そういえば、瑞希さんのコスプレ衣装は自作ですもんね。」
かつてアニスミアで見させてもらった写真に出てきたコスプレ衣装は自作だったらしい。
クオリティ高いと思っていたけれど、まさかの自作。
これは将来母親になった時に素敵なお母さんになるというやつではないかな。
晩御飯も素晴らしい出来だったし。
「それすごいね。将来子供のコスプレ衣装も作って親子レイヤーになってそうだよね。」
なんて何気ない一言を俺は返してしまう。素直にぽろっと漏れた言葉なのだから仕方がない。
「そそ、それって……」
女性陣3人の動きが止まる。
俺は深い意味を以って言ったわけではないのだけど、彼女らには特別なワードだったらしい。
赤くなってもじもじし出していることからそれは伺える。
「お兄ちゃん無自覚キラーパスだよ。」
中々に物騒なパスだな。そんな重い内容だったか……?
「もがっふぉがっ。」
あ、いけね。小澤の口塞いだままだった。考えてみれば掌で覆っていたから鼻も塞いでた。てへっ
小澤が赤いのは呼吸を止められたからというのもあるのか。
流石に悪い事したかな。
「ぷはぁっー。イ、逝くかと思ったよ。」
少し言葉のニュアンスがおかしく感じたけど、突っ込まない事にした。
小澤だけはもじもじの仕草も違ったものなのだろう。
「せっかくお風呂入ったのに……」
そこは聞こえない振りをしよう。
なんだかんだでこいつの下ネタはうまい具合に場を和ませている気がする。
多分だけど……
「がんばるにゅ♪」
先程の将来親子レイヤー云々に対しての返しだろうけど……
その仕草に可愛いなぁと思っている自分もいるわけで。
本当にこの集まりは一体何なんだろうな。
☆ ☆ ☆
入れ替わりで俺が最後に風呂に入る。
特に何も考えていなかったけど、最後で良かったのだろうか。
だってほら……
変態になるとお湯を飲んだりとか。
みんなが座ったであろう椅子に頬ずりしたりとか。
みんなが身体を洗ってであろうタオルを相撲のマワシのようにして股間でゴシゴシとかしたりとか。
いや、俺はしないよ?
って誰に言い訳してるんだかって感じだけども。
ただ、言葉に出来ない緊張というか高揚感というか背徳感というか。
まだHした事のない付き合い始めの頃とかに、女性の直後に風呂に入った事のある男性ならばこの気持ち、少しは理解していただけるのではないだろうか。
まぁ、抑身体を洗うタオルは俺と悠子ちゃんで別のタオルを使ってるから先の考えのような事はありえないんだけど。
「どたばたはしたけど……落ち着くなぁ。
ゴミ箱を見ると、封の開いた温泉の素の袋が入っていた。
落ち着くのは温泉風味というのもあるのか。
ん?草津の湯?
恋の病は草津の湯でも治らないというけど……
ん?何の話だ。
自分のタオルで身体を洗い、頭を洗い、うっすら伸びてるかわからない髭を剃り湯船に浸かる。
「うえぇえぇっぇぇい。」
つい湯船に浸かる時におっさん臭い言葉を発してしまう。
こんなの聞かれたら幻滅されるか?どうなんだろう。
夏だから温度設定は38度にしてあるためそこまで熱くはない。
温泉は好きだけれど、熱いのは苦手だったりする。37~40度が丁度いい。
「あ~、邪気が抜けていく~。気分の問題かも知れないけど温泉(の素であっても)は癒されるわ~。」
といった所で違和感を感じた。
「じゃぁその癒しついでにお背中ながしまっしょいぃっ」
小澤の声だった。風呂の扉は閉まっているので脱衣所から聞こえた声である。
声が途切れた事から悠子ちゃんか月見里さんに止められている可能性が高い。
さっきまで3人もの女性がこの湯に浸かってたんだよなぁと物思いに耽っていると……
ガチャンと扉が開く。
「だめー。ハレンチなのはだめー。」
悠子ちゃんがラグビーのタックルよろしく小澤の腰のあたりを抱きしめて踏ん張っている。
「えっちなのはいけないと思います。」
悠子ちゃんの上、胸から袈裟上に羽交い絞めにして止めている月見里さん。
しかし3者共に顔は前方を見ている。
湯船から顔だけを覗かせた俺の方を。
「男性の風呂を何だかんだと女性3人が覗くのはどうかと思うよ。」
風呂に入ったばかりの変な想像をした俺の方がまだ可愛いくらいだ。
「あ、いや。そういう意図があったわけではなくて……」
悠子ちゃんが目線を反らして弁明をする。
「そそ、そうです。私達は茜さんを止めにきただけです。」
「私は本当に背中を流しに……」
その割には恰好がさっきと変わってないのだが。
背中流すならパジャマのズボンを膝まで上げてたりとか、濡れても良い恰好をしていたりとかあるでしょうよ。
「覗きにきただけだな?」
「あ、ハイスンマセンシタッ」
小澤は素直に引き下がった。
この後行われるだろう正座お仕置きまでセットでの事だろう。
説教までを含めてワンセットシナリオとしか思えない。
小澤を悪者?に仕立てれば矛先はそこに行くだろうと。
覗けても説教されても小澤にとっては満たされるものだろうから。
☆ ☆ ☆
無事に着替えを済ませ、リビングに戻ると3人が何故か正座で待っていた。
「さっきの事はもう良いから。3人共正座終了。」
それよりも……と冷蔵庫にあるものを取りに行く。
「デザートの西瓜を食べよう。」
包丁を持ってさくっさくっと切っていく。
皿に盛ってテーブルに持って行く。
正座を解いた3人と一緒に夏の風物詩である西瓜をいただいた。
「夏はやっぱりこれを食べないと夏って気がしないね。」
俺が率直に言うとそれに頷く面々。
「明日の朝にはメロンもあるから。それもふるさと納税の返礼品だけど。」
先程裏側を押してみたら良い具合に柔らかくなっていたので寝る前に冷蔵庫に入れようと思う。
程よく朝には冷えているはずだ。
西瓜の皮をビニールに入れて蠅とG対策をする。
奴らはどこから嗅ぎつけるのか流しに置いているだけだといつの間にか湧いていたりする。
水で洗い流した後、厳重に袋に入れて二重に縛った。
☆ ☆ ☆
「そういえば、寝る場所だけど……女性陣は同じ部屋で良いよね?」
「「「え?」」」
何故か3人共疑問の表情を浮かべた。
なにこの人達、まさか4人で縦一列になって寝る心算だったの?
「てっきり田んぼの田の字になるかと。」
小澤が良くわからない返しをしてくる。どうやって重なり合うんだよ。
「そこはせいぜい【口】の字だろう、人数おかしくないか?」
俺もツッコミ方間違ったよ。
しかし邪な事を考えていたのは小澤だけだったようだ。
月見里さんは抑どこでどのようになんてわからないわけだし。
悠子ちゃんが布団を……あ、そうだ布団だ。
客用も悠子ちゃんのも俺の部屋の押し入れの中にあるんだよな。
「罰として小澤は布団運ぶの一緒にやるように。」
「あ、ハイ。」
だからなぜそこで恍惚の表情を浮かべるの?
主従の命令じゃないよ今のは。
そうは言っても悠子ちゃんも月見里さんも黙って見ていられる性格ではないようで。
「私も手伝います。」とあっさり名乗り出てきた。
結局重たい敷布団を俺と小澤で、掛布団を悠子ちゃんと月見里さんが、俺の部屋から悠子ちゃんの部屋へと運び敷いていく。
その時になぜこの部屋に布団があるのかという質問は出て来なかった。
客用はともかく悠子ちゃんの布団一式がある事に対して何かあると思ったのだけど。
掛布団を運ぶ時の月見里さんの耳としっぽがふりふり揺れるのが可愛く微笑ましかった。
歩く度にお尻と一緒に左右に揺れるんだ。男性ならわかってくれると思う。
いや、可愛い女の子好きな女性もわかってくれると思う。
枕の位置から悠子ちゃんが真ん中で両端に大人の二人が寝るらしい。
悠子ちゃんは自身の枕だし、月見里さんは……パジャマと同じで一目でわかる。
某キャラの所謂痛枕と呼ばれるものだった。
良く目にするえっちなシーツや枕に描かれているものではないけど。
そして小澤は客用にと用意してあった未使用のものだからわかる。
「二人は小澤が侵入しないようたまに注意してね。」
「あ、はい。」
返事がぎこちない、まさか3人共部屋を間違ったとかいって侵入する気があったのではと思ってしまう。
「じゃ、歯を磨いたら寝るから。おやすみ。」
そして俺は宣言通り歯を磨き自分の部屋に戻る。
久しぶりの一人の就寝というのも新鮮なものだ。
たった半月程度だけど、ベッドの下で布団を敷いて悠子ちゃんが寝ていたという事が既に生活の一部になっていたのかもしれない。
本当は登校日に嫌な事があったであろう悠子ちゃんを元気つける夜になると思っていたのだけど……
気付けばみんな俺に気を使ってるだけだったなと実感した。
わかり易いんだよ。まったくもう……
悠子ちゃんに至っては自分自身が大変だろうに。
風呂でも思ったけど、どたばたはしたけど心は落ち着いてるんだよな。
センサー云々も大事だとは思うけど……
その中でも大事な事ってあるよなぁ。
☆ ☆ ☆
いつの間にか眠っていたようだ。
時刻は午前8時。意外にもぐっすりと眠れたようだ。
そういえば誰も起こしにこなかったな。深夜の侵入もなかったようだし?
トイレに行ってすっきりするとリビングに行くけれど誰もいない。
「まさか全員寝てるのか?」
俺は時間を再度確認するためにスマホの時刻を確認する。
壁に時計がかかっているのにも関わらず何故かスマホで確認した。
悠子ちゃんの部屋をノックする。へんじがないただの……
というネタは良い。返事がないので起こすしかないかと、悠子ちゃんの部屋の扉を開ける。
「あさ~あさだよ~朝ごはん食べて仕事いくよ~」(今日は休みだけど)
しかし誰も起きてくる気配がない。
部屋の中の様子をみて思わず手に持つスマホを構え……シャッターを押す。
そこには3人がくんずほぐれつ一塊に3神合体で眠っていた。
そして、3人共少し開けてお腹が見えていた。
さらに、小澤の手が……背中から抱きしめる形で悠子ちゃんのパジャマの中に消えていた。
―――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
ほんわかした話は一旦終わりです。
夏休み?
そんなもん大人にはあってないようなものです。
夏休みの宿題?
悠子ちゃんは真面目だからとっくに終わってます。
この4人で海とか行かないの?
もう海月が出る時期です。
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