第113話 ヲタク同士は惹かれ逢う。

 「「「こんにちは。」」」


 3人の挨拶が重なった。

 ん?3人?


 「ど、どうして月見里さんが?」


 驚いた様子もなく月見里さんは返答を始めた。

 「勤務が終わりましたので帰宅前に寄ろうかと思いまして。あと、何故だがここに引力を感じました。」


 それは凄い引力だなぁ。引き寄せられたのか。


 「お仕事お疲れ様です。さっき会ったから分かってるとは思いますが、精神科行ってました。」


 「そうなんですね。良かったとは言えませんが、受診されたようでほっとしてます。」


 「悠子ちゃん、こちら先日同級の飲み会と思ったら実は合コンだったという騙された飲み会で知り合った月見里瑞希さん。」

 「あの病院で看護師をしていて、その時飲み会で吐いて気持ち悪くなった時に友人と一緒に看病してくれたんだ。」


 「こちら安堂悠子ちゃん、前に話したともえの妹で、例の事がなくても俺にとっても妹みたいな実家の隣人。」


 「「どうもこんにちは。」」


 二人の挨拶も重なっていた。


 「お兄ちゃん、実は……」

 「黄葉さん、実は……」


 「「どうぞどうぞ。」」


 女性陣二人で漫才をしているように見えてしまった。


 「では年上の私から。実は私達、知り合いなんです。とはいっても地元のコスプレイベントで会うくらいの関係ではありますが。」


 「え゛?」

 

 「まさか共通の知り合いが黄葉さんとは思ってもいませんでしたが……」

 

 前回ここに来た時に月見里さんがヲタだというのは聞かされていたけれど、まさかレイヤーで悠子ちゃんと知り合いだったなんて。

 


 「あれ?という事は、うちの妹とも?」


 「……実は知り合いです。一緒に撮影したりアフターでご飯食べたりするくらいではありますが。」

 世間狭すぎだろーと叫びたかった。


 「実はそうなんだ。知り合ったのは昨年だし、お姉ちゃんの事があって私があまり外に出なくなったので春以降は殆ど会えてなかったけど。」

 「先月の時は私ものすごくどんよりしてたので心配かけさせちゃっていたから……こうしてばったり会えたのは僥倖かなって。」



 「こうして会ってわかりましたけど、あ、コスネームは言わない方が良いですね。悠子さんは少し元気が出てきたように見受けられます。」


 「コスネーム?」

 俺が問いかけると悠子ちゃんは慌ててそれを止めにかかった。


 「あー!お兄ちゃんそれは聞かないで。聞いたら七虹さんに言いつける。」

 それは中々に辛辣だな。名前を聞くだけで正座説教は勘弁だ。気になるけど、気になってうずうずするけど。

 じゃぁさっきのカレンさんのどちらが本命てどういう意味だ。

 片や妹同然、片や知り合ったばかりの人。


 「なんだろう。説明が短く済むのは助かるけど。」

 元も子もないけど、説明に時間を割かなくて良いのは楽ではあるけどさ。


 「悠子ちゃん冷めちゃうよ。」


 「あ、うん。そうなんだけど。描いてもらっておいてなんだけど。お兄ちゃんを崩すのが勿体ないというか忍びないというか。」


 「冷めて美味しくなくなったらその方が勿体ないですよ。撮影は済んでる事ですし。」

 月見里さんに促され、悠子ちゃんは何か決意したかのようにナイフとフォークを持った。


 「お兄ちゃん、御免!」

 なんだか介錯するみたいな言い方だなと思った。


 「あ、黄葉さんはカレンを描いて貰ったんですね。オーナーと名前繋がりで。」

 某白天使(大人の事情でそのままは書けない)のキャラクターで、その会社が製作した後の作品でAS(アナザーストーリー)をユーザーが書いてプレイ出来るという画期的なシステムを構築した会社である。

 あのシステムのおかげでえろげシナリオライターになった人までいるくらいだ。


 「メイド繋がりでもありますね。というか2000年のゲームのネタを良く知ってますね。」


 「原画家さんのファンでもありましたから。可愛いですよねあの方の描くキャラクターは。」

 「池袋のイベントには行ってましたよ。お台場には行けませんでしたが、池袋ならぎりぎり許容範囲だったので。」 

 確かにお台場でも池袋でも超大手壁サークルでもあったっけ。実は俺も少しファンだったりもする。

 こうして考えると俺も大概にしてヲタクだな。きっと野球やってなかったらもっとどっぷりだっただろう。


 「カレンさんが悠子ちゃんの要望を聞いて俺を描くものだから対抗して少しいじわるしてみようかと……」



 「黄葉さん……いじわるは……めっですよ。」

 あ、ハイ。

 少し真面目な表情で「めっ」をする月見里さんが物凄く可愛く見えた。

 これがギャップ萌えというやつだろうか。


 「おにーちゃーん。帰ってきてー。」

 どうやら俺は月見里ワールドに囚われていたようだ。


 「大抵のネタがわかる月見里さんも凄いけど、迷いもなく描いてしまうカレンさんも凄いですね。」

 俺は率直に二人の凄さを実感していた。所詮俺はヲタ歴で言えばまだまだ片手で足りるくらい浅い。

 18禁ゲームは18歳未満プレイ出来ないのだからどんなに長くても5年6年でしかないのだけど。

 コ〇ケやイベントはその限りにはない。原画家さんの原画集やイラスト集なんてのは別問題だ。


 「あ、そうだ。瑞希さんのコスも凄いんだよお兄ちゃん。今も充分可愛いけど、コスしてる時は本当にそのキャラみたいなんだよ。」

 悠子ちゃんや。20代女性って可愛いはどうなんだろう。美人の方が良いのでは?

 確かに可愛いか美人かどっちと二択を迫られれば可愛いだとは思うけど。

 あ、これ。一般論だよ。

 

 「あっ。だめっ。その流れは……」

 月見里さんが突然慌てだした。確かにこの流れだと俺が「え、そうなの。気になるな~。見せてもらっても良い?」となるけれど。


 「へー。気になるなぁ。気になって夜も寝れなくなっちゃうな~。」

 「え~もー。そういうのはもっと親密になってからでな……はっ。」

 それはもっと親密になったら良いという事なのだろうか。

 もっと親密になりたいという事だろうか。それに最後の「はっ」ってどういう意味だろうか。


 「う~。じゃぁ悠子さんも見せるというのであれば……」

 少し月見里さんが幼稚化したように感じる。

 お互いに砕けてきたという事かな。



 今この瞬間は俺の女性恐怖症も、悠子ちゃんの押しつぶされた感情も関係のない自然な空間となっていた。

 それが実感出来て、少しではあるけれど心が軽くなった。そんな気がする。



―――――――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 随分とほんわかした会です。

 流れでコスプレ写真を見せ合う事になりました。


 真秋が描いて貰ったカレンとは「l」で始まる会社の「W」で始まるゲームの「C」で始まる原画家さんの描くキャラクターの事です。

 次回作「B」で始まるゲームのASというシステムのおかげで色々書こうと思ったのは事実です。

 (その前から同人活動の予備的な事はしてましたが。)

 カスタムなんちゃらでも同様に色々ありました。


 あの頃は楽しかった……

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