第112話 カップル限定より上が存在します。
「あ、お兄ちゃん。せっかくだからちょっとあそこに寄って行かない?」
悠子ちゃんが指を差したのは、先日退院後に月見里さんと入ったあのねこみみメイド喫茶「アニスミア」であった。
近付いて行くとビラ配りのメイドさんからチラシを受けとる。
「月曜日限定、ポイント倍キャンペーン」と書かれたチラシだった。
裏を見てみると、「カップル限定、ポイント4倍キャンペーン。砂糖の多さによりプラスαあり。」と。
俺はそれ以上の文字を読まなかったけれど、悠子ちゃんは一言一句逃すのもかと言わんばかりにじっくりと見て読んでいた。
「お兄ちゃん、行きましょう。私、ねこみみメイドさんに興味があります。」
唐突に行動的になった悠子ちゃんに戸惑いを覚えながらも、手を引かれて進まれると今更否定も拒否も出来なかった。
そういえば悠子ちゃんは妹の深雪と一緒にコスプレしてたっけと思い出した。
その血が騒いだということかなと。
今だけを見ていると、先日までの沈んでいた様子が嘘のようだ。
「いらっしゃいませご主人様、お嬢様……」
迎え入れてくれたねこみみメイドさんの語尾が止まったように感じた。
「あ……」
悠子ちゃんがねこみみメイドさんを見て驚いていた。
「ん……?んんっ?」
俺の動きもワンテンポ遅れて止まった。
目の前にいたねこみみメイドさんはよく見ると、よく見なくても隣人である小倉七虹さんだった。
☆ ☆ ☆
席に案内された俺達はメニューを見ている。
色とりどりでカラフルにイラスト多様に書かれた、描かれた内容は秋葉原のソレと変わらないように思えた。
最初に釘を刺されたというか、説明されたけど秋葉原にあるような魔法の呪文はないし頼まれてもやらないとの事だった。
「ねぇお兄ちゃん。メニューも凄いと思うけど……」
ちらっと悠子ちゃんがお店の端っこへと注がれる。
当然俺の目線もそちらへと移る。
「あぁ、凄いな。託児スペースがあるメイド喫茶なんて初めてみたわ。」
「数年前に出来たらしいよ。なんでも、子供を預けられるスペースがあるならメイド続けると言った人がいたらしくて。」
「オーナーが良いよと言ってあっさりとスペースが出来たみたい。某掲示板に書いてあったよ。」
そのメイドさんすげぇな。というか結婚しても、子供出来ても続けて良いんだな。
「お客さんは飲食物とメイドさんの両方を楽しみに来てるみたいだからね。メイドさんのプライベートには立ち入らないらしいよ。」
「あのスペースが出来てから子持ちのお客さんの集客が上がったって。従業員とお客さんの子供があそこで遊んだりもできるからって。」
多方面で有名なオムライス。前回は月見里さんに倣って
悠子ちゃんはワンランク上のホットケーキを頼んでいた。
「お兄ちゃんをお願いします。」
「却下!」
俺は即答した。
悠子ちゃんがこの店を発見してから何かおかしい。
「いいですよ~。」
了承したのはオーナー兼店長メイドのカレンさんだった。
勝手に承諾しないでくれますかね、恥ずかしいとかいう次元じゃないというのに。
「ふんふんふん~♪」
カレンさんが鼻歌交じりに
「せっかくの砂糖多めなんだからもっといちゃらぶしないと~めっ。」
カレンさんは何か勘違いをしているようだ。
俺と悠子ちゃんがカップルだと思っている。
「お兄ちゃん完成~だおっ」
いやいやカレンさん。だおなんて何年前のネタだよ。一体何歳だよ。
「おにいさん、それはヒ・ミ・ツです。」
こわっ、カレンさん心の中読んでおりませんか?
「ところで、お兄さんはどちらが本命なんですかね~」
何やら爆弾が投下された。そしてそれはかなりプライベートな内容だ。
「ん?お兄ちゃんどういう事?」
いやいや、付き合っているわけではないのに、そのニュアンスで言われると問い詰められた彼氏の感じだ。
「ではごゆっくり~。」
カレンさんがどいた時にそれは理解出来た。
確かにプライベートな内容ではあった。
本来従業員がそういった事に立ち入るのはタブーだろう。
しかしカレンさんがどいた事で明らかになった隣の席を見て驚愕した。
いつからいたのだろうか……
すぐ隣の席には先程病院で軽く挨拶を交わした、月見里瑞希さんが座ってこちらを見ていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
音子とカレンがタッグを組んだらすげぇもん出来そうだなと少し思いました。
そしていつのまにか来店しており、隣の席に座っている月見里さん。
どうしてそうなった!?
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