第80話 御開帳
田宮未美の案内でとある部屋に連れて行かれる安堂家の3人。
真秋はこの場にはいない。出産後のともえを見る気はないとの事で別室で待機している。
こうこつと前を歩く小澤茜、その後に続く田宮未美、さらにその後ろをうつむきながら言葉を発する事もなく着いて行く安堂家面々。
出産の報せを受けた割にはお通夜のような雰囲気を醸し出していた。
本当に育てられるかの不安よりは、ともえから子供を奪い取る形になる事に対しての後ろめたさのようなものなのか。
我が子から子供を奪うのは悲痛ではいとは言えない。
ただ、それでも今のともえが普通に育てる環境や状況にない事は他者からみれば明白。
これが正しいとは言わないけれど、妥当な案だと言うのは両親は理解し覚悟しての事だったはず。
言い表しようのない不安が拭えないのは仕方がないのかも知れない。
ともえから酷い言葉を浴びせられるかも知れない。それが懸念材料だった。
「1週間は一緒に過ごせるのだから充分だと思いますよ。」
両親の不安を察知しての事か、田宮未美から両親に対して唐突な言葉が発せられた。
「!?……それは、裁判が始まればそのまま逮捕され収監されるという事でしょうか。」
「正解であり誤解でもあります。誰が、どこが引き取るにしても彼女が子育て出来ないのは最初から決定事項でしたからね。」
彼女がこの先真っ当な生き方が出来るかなどわからない。
わからないけれど、クライアントである黄葉真秋が彼女を赦しはしない。
赦す気があるなら、抑が田宮未美……宮田音子に話を持ち出しはしない。
それを手繰り寄せたのは小澤茜であり、小澤茜を突き落としたのは喜納貴志。
巡り巡って彼ら彼女らは自業自得を知らずして辿った。
だから田宮未美は忠実にそれを履行する。
一任するとはそういう事である。
「さて、この部屋でどうぞ。」
それはかつて真秋に案内した部屋と同じようにマジックミラー付きの部屋。
そのミラーの先には搾乳に挑戦しているともえの姿がある。
部屋の中に入ると「あちらをどうぞ。」と壁の方を安堂家の面々の目を向けさせる。
「全面壁のようですが?」
「心の準備は出来てますか?今の状況は私も先程の報告以上の事は知りませんので。」
「意図はわかりませんが、元々諸々の覚悟はしておりますので。」
安堂家家長の了承と受け取り田宮未美はミラーのスイッチを手に取った。
「では、御開帳……」
女性の服を開けさせる時に男性が良くネタとして使うのだが、ある意味ではこの先の空間を開けさせる事は似た神秘を感じさせる。
壁からミラーとなりその先の様子が映し出される。
「ぁ……」
「ともえ……」
「……」
父、母、妹の順番で声を漏らす。正確には悠子は息を飲んだ程度の反応。
そこにはブレストクロール中の赤子を見ながら微笑んでいるともえの姿があった。
微妙に安堵する両親の姿。
前評判が散々とはいえ、我が子が子供を抱く姿には安心したのだろう。
一方妹、悠子は……
唇を噛みしめていた。
かつては身を引いて自分の最大の倖せを諦めた少女は複雑な心境を隠せない。
「私は諦めたのに、お姉ちゃんは自ら手放して、それなのに倖せな顔をして……」
赦せないと続けようとしたのか、しかしそれ以上は言葉が出て来なかった。
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