第78話 見たくもない場面は見る必要がない

 まさかの説明を聞いてる中でのともえの出産終了の報せ。


 別に様子を見るわけでついてきたわけではないので個人的にはどうでも良い。

 どちらかというとおじさん達家族の様子を確認するためだ。


 ただでさえ大変な現状のおじさん達が本当に引き取る気があるのか。

 ともえを見る事で考えがかわらないか。

 ともえの現状を見れるか。

 ともえの現状を見てもなお子供はともかく本人に将来帰って来いと言う気があるのか。


 何をどう選択しても茨の道ではあると思う。


 媚薬にしても本当に影響がないのか、あるならどういう状況なのかを確認したいだろう。

 

 悠子ちゃんは本当にあの家に残るのか。

 両親が放棄した場合、そのツケは自分に来る。例え未成年でも義務はきてしまうのでは?


 

 「まぁもう産まれてしまったものは仕方ありません。恐らく1週間程度はここに置いておきます。一般的な出産入院を想定すれば5日程度でしょうけれど。」


 「引き取るとしたら土日休日のほうが宜しいのでは?」


 「つまりその前日平日が裁判となります。本来しかるべき手続きもあるのでこんな都合の良いようにはいかないのですけど、どこはほら……裏で色々動いていたという事で納得してください。」


 「起訴するための準備は怠ってはいません。喜納達もじきに始まります。」


 「娘さんの場合、婚約こそしていたものの婚姻関係には至っていませんからね。若干軽くはなるのが現実でしょう。」


 「でも、そちらの彼は……黄葉様は二度と会いたくないと言っていた意味……それを考えると、この裁判の意味はわかりますよね。」

 「他言しようものならどうご自身達がどうなるかも容易に想像できるかと存じます。」


 「この世は不平等です。罪と罰のバランスが取れていないように。司法ですら平等になどないのです。」


 「嫌ならば違犯も違反もしなければ良い。この世界に平等があるとするならば、【人は生まれてきたらいつか死ぬ。】それだけです。」


 「一人しか助けられない状況にある場面に遭遇した場合、ほぼ全ての人が犯罪者の手は取りません。もっと言えば政治家先生のような人の手を取るでしょう。」


 「同じような状況でドナーが一人分しかない状況で、その患者が政治家とその辺に居る名前も知らない誰かさんだった場合、天秤にかけるまでもなく医者は政治家先生を優先すると思いますよ。表向きはそんなことはないと言い平等に対応すると返答するでしょうけど。」



 確かにな……目の前に崖があって、2者が崖から落ちそうな状況でどちらか一人の手しか取れないとなれば、知らない人よりは知っている人(家族友人等)の手を取るだろうな。

 それが知らない人と政治家であれば、ほとんどの人が政治家の手を取るだろうな。俺は考えてる間に二人共落としてしまうという選択肢がありそうだけど。


 そこに平等なんてものは存在しない。

 最近流行りの言葉に当てはめると忖度だろうか。忖度して命を助けました的な意味で。


 まぁつまりが、裁判なんてのは形上行うだけで、ともえや喜納側には一切の味方がいないという事。

 あのタマ潰しで心を折ってるので、言われるがままの罪状を認め判決までを認めるという事なのだろう。


 流石にやってもない罪状は問わないだろうけど。


 「それでも、私達は親であり家族です。結果がどうあれ受け止めます。だからこそ子供を引き取りたいのです。」



 「そうですか。あ、そうだ。今の様子を見てみますか?現場と中継繋がっておりますので。」



 「あ、俺は席を外します。あいつを見にきたわけではないので。」

 どのような場面なのかは容易に想像出来る。微笑ましいところなど見たくもない。



 「お兄ちゃん……」


 部屋を出る時に悠子ちゃんの悲痛そうな声が後ろから聞こえたけれどそのまま退出した。





☆ ☆ ☆


 部屋の中に残った面々は田宮未美が映してくれた現地の様子を画面越しに見ている。

 産まれた我が子を抱き搾乳を試しているともえの姿が映った。

 そこにはかつての拘束衣は装着されていなかった。

 安全と判断されたのか、抱きしめるこの時間だけ外されたのかは不明である。


 マジックアワーと呼ばれる時間。

 赤子がおっぱいを飲む飲まないに関わらず、飲む機会を与える事が大事だと言われている。

 ブレスト・クロールという動きで産まれたばかりの子はおっぱいを見つけて自力でくっつこうとしている。

 ともえがその様子を見て、聖母のような表情で微笑んでいた。


 この場に真秋が居たくないと考えるのも当然の事だった。

 こんな様子を見ていたらこの部屋の備品のいくつが破壊されていた事か。


 田宮未美は冷静にその様子を見ていた。 




☆ ☆ ☆



 あのままあの部屋で現場の様子を見ていたら発狂していただろう。

 子供を抱いて微笑ましい姿も子供を邪険に扱う姿もどちらも見たいとは思わない。


 命は大事だからこそ、産んでから裁判と考えてはいたけれど。


 俺からすれば忌子だ。


 この話をすれば殆どの人に馬鹿じゃないのと言われるだろう。

 不貞を働いた相手の子なんて気にしてる場合じゃないだろうと。


 だけど、それももう終わりだ。

 もうすぐともえは裁かれる。


 ほぼ平行して喜納達も裁かれる。


 それが終わらないと俺の下半身は多分このままなのだろう。

 そんな気がしていた。

 今年の梅雨と夏は別の意味で忙しくなりそうだ。




―――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 施設に連れて来られたのにセリフの少ない安堂家。

 呆気に取られたり色々あるのだけれど。


 裁判や裁かれたあとまでこんなに好待遇ではないので、別にともえ救済というわけではないので。

 今話で判断されると結構痛いかなと。

 

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