第77話 大事な事は結構裏で淡々と進行している。
車中では大して話はしなかった。
隣にいる田宮さんの影響だろう。意図したわけではないけど重苦しい雰囲気のまま車は目的地へと走行する。
バックミラーに映る悠子ちゃんはうつむいてはいるけれど何かを言いたそうに見えた。
おじさん達は唇を閉じ何か考えているけれど戸惑っているような様子だった。
15分程走行すると見覚えのある施設の敷地内だという事に気付く。
「さ、到着しましたよ。」
田宮さんが到着を知らせると、小澤の案内で全員が下車をする。
悠子ちゃん達が周辺を見渡しているが、小澤の先導により建物内へと入っていく。
一つの部屋に案内される。
応接室ではあるのだろう。調度品などを見ると先日のマジックミラーの部屋とは違っていた。
少し豪華なもので飾ってあった。
「トイレとか大丈夫ですか?大丈夫でしたらそちらへどうぞ。」
3人しか横に並べないので俺は田宮さん側の椅子に座る事に。
それが妙な緊張を助長する。
奇しくも悠子ちゃんの正面になった。
「さて、それではク……娘さんの状態について説明させてもらいましょう。」
「現状今日明日にでも産まれそうなのは伝え聞いていると思います。
現在スタッフの全面協力のもと、出産に対する準備は万全だという。
破水もしており時間の問題だと。
まずはともえの健康状態について。
媚薬の影響は現在見られないとの事。
最後に使用したのが2月という証言はほぼ間違いないようだった。
既存の薬物とは違うのが幸か不幸か、どういう理屈かは説明は出来ないけれど、提出されたサンプルに入っていた成分は体内からは検出されないとの事。
どうやら以前俺が来た時に見た状況は、性的行動を出来ない事によるともえ本来の問題であって媚薬の影響ではないだろうという見解だった。
それほどまでに酷いものなのか、ともえの性依存症的なものは。
「強い性依存症は元々のようですね。ここでは一切性行為は自慰含めてしていないので、ある意味での禁断症状的なものはありますが。」
それは薬物とは別ですとはっきり言っていた。
「次にお腹の中の子ですが、順調……と言えるかは生まれて検査してみなければわかりませんが、途中経過における診断では薬物による影響は然程見られておりません。」
「通常の出産前検査と同じ事は行っておりますが、合併症や遺伝子の欠損や変化などは見られません。」
「そういえば、もう少しすればわかることですけど、性別や血液型なんかも今知りたいですか?」
おじさんは一瞬ビクっとしながらも頷いた。
「お願いします。先に色々知っておく事は大事だとおもいますので。」
「そうですか。まずは性別は女の子です。血液型は0型です。DNAによる父権肯定ですが、やはりあの喜納貴志で間違いありません。」
おじさんとおばさんの握る拳の力が増していくのが斜めに見ている俺にも伝わってくる。
その名前は出来る事なら二度と聞きたくはないのだろう。
実際に聞かなくて済む事はないのだけれど。
「貴女はどうしてそこまでして薬抜きから出産・育児の協力援助をしてくれるのですが?どん底に突き落とすならばわかりますが。」
おじさんの意見ももっともである。俺は田宮さんに一任しているので、彼女の意図するものはわからない。
「まぁ私も母親ですしね。子供には寛容にもなります。」
優しい顔をして答える田宮さんの表情は聖女にも見えた。
「え゛?」×5
おじさん達の反応はごもっともであるし俺も驚いたけれど、田宮さんの部下として身近にいるはずの小澤までが驚いていた。
「む、失礼ですね。私も人の親だからこそ、過程はどうあれ宿った命は無下に出来ないのですよ。」
「母体はともかく、産まれてくる子に罪はないです。そこに罪云々言うのは大人の都合でありエゴです。」
応接室で会話を始めてから1時間が経過していた。
注がれているお茶は既に冷めっきっていた。
小沢も取り換えるとか、入れ直すとかの心の余裕はなかった。
その時一人の所員がノックの返事も待たずに入室してくる。
所員が田宮さんに耳打ちしながら何かを伝えているが声までは聞き取れない。
「話をしている間に産まれたようです。母子ともに正常だそうです。」
具体的にはもう少ししてからだけど、これで始まったような気がした。
ともえとっての地獄はまだ途中なのだから。
田宮さんは健康だそうですとは言っていなかった。
――――――――――――――――――――――――――
後書きです。
覚えてるかはわかりませんが、田宮さんこと音子の最初の子は男女の双子です。
暴露宴から続く地獄はまだまだ終わりをみせてはいません。
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