第62話 時期尚早
※62話だから本当はサブタイトルは「浪人の日」とかにしたかった。
柊さんに教えて貰ったアパートの連絡先に電話してみると相手は女性だった。
声の感じだと若いけど……声だけではわからないのが現実。
そっちのゲームの声優さんなんかは本当に凄いから、40超えていても舌ったらずなロリ声も出せるからなぁ。
なんて邪な事を考えて申し訳ない。
空いているのは301と303号室のようだ。
次の休みの日に一度内覧をするという事で約束を取り付けた。
それまでの1週間は正直長い。
心の中ではそこでなくとも引っ越すだろうことは想定し、荷物の整理を始める事にした。
本棚のラノベが段ボール10個ってどういう事なんでしょうね。
いくらかかってるのか計算したら負けである。
これだけで2日を要してしまった。平行してCDやDVD等の円盤類も整理していたのだけれど。
こちらは段ボール4箱だった。あれもこれもと手を出した紙面に対して単価の高い円盤系は吟味したというのがあるだろう。
それに本はどこでも読めるけど、円盤はどこでも見れるわけではないので場所と時間を限定してりまうのも要因か。
「二次元は良いよな。子供は作れないけど裏切らない……」
机の上の段には冴え〇ノの加〇恵のランジェリーフィギュアが飾ってある。
そこは映画版を飾れよと言われそうだけれど……
段々と危ない人になっている気がしてくる。
野球を辞めて得た趣味がヲタ関連というのが黄葉家長男の財政圧迫の主たる要因。
まぁ晴れてとは言わないけれど、一人モンになったわけだしもう少し買っても良いのかもと思っている時点で沼にハマりそうである。
5日も片付ければ表に出てる物はかなり減ってくる。
食器も最低限、衣服も最低限、洗顔や歯磨きなどの身だしなみ関連も最低限。
最後の一詰めさえしてしまえば家具さえどうにかしてしまえば直ぐに引っ越し出来そうだった。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。
誰だ?と思い玄関へ向かうと除き穴を見ずに開けた。
その不用心さは泥棒や強盗の類だったら簡単にやられてしまう。
「あ……ぅ……」
其処にいたのは、ともえ……ではなく良く似た妹の悠子だった。
「お、お兄ちゃん。」
伏目がちで申し訳なさそうな表情と声色で訪ねてくる悠子。
このタイミングで悠子が訪ねてくる意味も理由もわからない。
追い返したい、追い返したいが……
動悸がする、それも鼓動が早い。
どういう意味だ、この動悸の意味は。救心救心♪ってやってる場合ではない。
「お兄ちゃん……入れて。」
と〇美の名曲みたいに言われたけれど、今は誰も入れたくはない。
「……とは言えないのは分かってるから。ここで良いから、聞いて?お姉ちゃんの荷物届いたよ。開けてみて色々驚愕だった。」
「言いたい事も思う事もあったけど……お兄ちゃんはもう私達と関わりたくないの?お姉ちゃんは無理でも、私達家族とは元のようには無理でも、関わりなくなっちゃうの?」
「今言う事じゃないかも知れないけど、私はやだよぉ。これからもお兄ちゃんと呼びたい。それすらも否定されるのは嫌だよぉ。」
その声には若干の嗚咽が混じっていたけれど、今の俺には返す言葉が見つからない。
声を聞けば別人だと分かっていても、見た目だけで言えば高校時代のともえと然程変わらない。
式の時はあの勢いとテンションだったため何もなかったけれど、少し時間を置いた今となっては話が変わる。
動悸の理由の一つはこれが起因していると思う。
「帰ってくれ。悠子ちゃんが悪いわけじゃないのは頭の中ではわかっているつもりだ。だけど今悠子ちゃんが訪ねてきた事で動悸が激しい、少し吐き気もしてきている。」
「今は必要最低限しか絡みたいとは思えない。悠子ちゃんも俺の事は放って置いて自分の事を考えた方が良い。来週から新学年だろう。」
もう寝る……と言い玄関扉を完全に閉めて鍵をかける。
玄関前から離れようとすると悠子ちゃんのすすり泣く声が聞こえたけれど、振り返る事も立ち止まる事もなく離れた。
まだ20時前だけれど、布団に飛び込んだ。
安堂家そのものにはやり過ぎたのだろうか。
だけど後悔をしたらイケない。ともえを追い詰める過程で孤立させるにはどうしてもともえと安堂家を切り離す必要が出てくる。
当然俺と安堂家との関係もある程度は切り離すしかなくなってくる。
そこに無関係の悠子ちゃんが傷つく事になろうとも、これはなるべくしてなったのだ。
巻き込ませたくなかったのなら、安堂家には早々に引っ越して貰って関係を切るのが早かったのだから。
そうさせなかったのは他ならぬ俺自身。
明日の内覧……忘れないようにしないと。
携帯のアラームとカレンダーでダブルチェックしてあるとはいえ、少しばかりの不安を覚えた。
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後書きです。
「とろ美」 「お兄ちゃん入れて」 で検索すると良いです。
ちゃんと歌詞を見るとネタの真意も伝わると思います。
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