第60話 片付けと焼肉と再会と
妹に抱き付かれ悶々として眠れず、結局うとうとし出したのは深夜だと思う。
朝の目覚めは昨日に比べれば良いくらいだった。
少なくとも眼前には妹の可愛い寝顔。
これだけは至福の一時と言っても過言ではない。
小学生じゃないんだからと昨晩は拒否しなくて良かった。
反応を示さない下半身に良いのか悪いのかわからず意識は覚醒する。
深雪のほっぺを突くとつんつん、ぷにぷにという効果音が聞こえてくるのではないかという錯覚に陥る。
肌の艶も弾力も若いなと思わず感慨にふけってしまう。
ぷに……といったところで深雪の目が開いた。
「お兄ちゃん。おはよう、1ぷに100円でどう?」
金取るのかよとツッコミを入れてしまいそうになる。
「冗談だよ、冗談。マイケ〇ジョーダンだよ。」
流石にお互いに着替えを見たり見られたりというわけにはいかないので深雪は自分の部屋に戻った。
「もうすぐ6年になるのにそんなに劣化してないなこの部屋。」
特に自分以外の物が置かれているというわけでもないのに、劣化を感じない。
定期的に掃除したり使用したりしているかのような部屋だった。
「じゃぁ行くか。」
朝食を済ませると支度を整えいざアパートへと向かう。
二人並んで家を出る。先日は式だったので制服だったし、昨日は部屋着だったけれど、今日の妹は外行の服装をしている。
こんなの持ってたけ?と思ってしまったが。一人暮らしをしてから実家に戻る事が少なかったため、知らなくても無理はない。
同じ家に住んでいた時、深雪は8歳だったわけであるし少し大人っぽくなっていて当然だった。
片付けをするにしては見た目重視だなと思わなくもないが、外出するわけだし当然かとも思い直した。
「どう?お兄ちゃん。可愛い?」
自分の事を可愛い?と聞くのはあざとい証なのだが、妹だから微笑ましく感じる。
「あぁ、可愛いな。」
その感想も素直に盛れていた。妹に結婚したいと申し出てくる男が現れたら、俺の屍を超えていけと言いたくなるくらいには可愛い。
5分も歩けばアパートには到着する。
家を出た際に安堂家の2階から視線を感じたのだけれど、それは深雪には黙っている事にした。
「おじゃましまーす。」
「邪魔するなら帰れ。」
「良いの?荷物片付かないよ?」
「ごめんなさい。よろしくお願いします。」
というやりとりをした後に、さっそく片付けに入る。
段ボールは昨日のうちにスーパーから貰ってきている。
小分けの透明ゴミ袋もそれなりに買い置きがある。
適当にとは思いながらもそれなりには整理して詰め込むつもりではいた。
もし自分一人でやっていたらただ詰めるだけだったろう。
どこに何があるかは昨日のうちに伝えてある。
箪笥の中の衣服類、洗面所や風呂場の化粧品やシャンプー類。
幸いにして電化製品は全て自分のもの。そこまで嵩張るものはない。
特に下着や歯ブラシのような肌や身体に直接触れるものは近付くだけでも気持ち悪かった。
だからこその助っ人片付け人深雪なのだけど。
「こうして見ると、ともえお姉ちゃんの変化も垣間見れるね。」
古いものには可愛いものや清楚っぽい感じのするものが多い。
新しいものは派手なものや際どいものが多い。
「深雪にはいつまでも可愛いままでいて欲しいもんだよ。」
「永遠の14歳はネタの中だけだよお兄ちゃん。」
どんなものか確認をしながら行うものだから、片付けの速度は遅い。
でもそこに関してはやってもらう以上強くは言えない。
今の自分には出来ない事をやってもらっているのだから、ありがたいと思わなければ。
「ねぇ、お兄ちゃん。これも本当にいらないの?」
それはこないだの温泉旅行で仲良く映っている写真。
他にももっと若い頃に取った写真の束。
ほとんどがアパートに越してきてから撮影したものであるけれど。
写真の中の自分達はどれも生き生きしている。
あの頃のともえに偽りはなかった。今年の6月までに偽りはなかった。
だからこそ憎く感じるんだよ。
それまでが清廉潔白であったがために、もしかしたらあの時も本当は……なんて考えてしまうんだよ。
流石にそれはないだろうという事でさえ、汚され見下されていたんじゃないかと考えてしまうんだよ。
「いらない。あいつの残滓があると……殆どの女性に対して疑念と疑惑しか持てなくなりそうだ。嫌悪しか抱けなくなりそうだ。」
多分木曜帰りの電車で感じたのはそう言う事だ。
殆どの女性が敵に感じる。名も知らぬその他大勢の女性たちが心の中では蔑んできていると思い込んでいる。だから気持ち悪くなってきていたのだ。
ある程度付き合いのある事務員だからこそ会社では平気だったんだ。
もしかすると、今後それですらダメになる可能性だってある。
一つわからないのは、あのお釣りを拾ってくれた人なのだが、例外もあるのかもしれない。
そこは考えても答えは出ないのでなるようにしかならない。
「まぁお兄ちゃんの考えだから私が言える事はないけどね。本当に勿体ない。」
その勿体ないは俺とともえとどちらに対してなのか。
深雪の心情まではわからない。
一通り詰め込み終わる頃には夕方になっていた。
実家には深雪はそのままお礼を兼ねて夕飯まで連れ出す事は、家族には最初に伝えてある。
詰めた段ボールをスーパーにある宅配品コーナーへ持って行く。
台車もこのために購入してあった。
一旦アパートに台車を置きに戻り、その足で夕飯を食べるために出発した。
「結局段ボール3箱になったな。」
「そうだね。多いのか少ないのかわからないけど。一応おじさん達には後で荷物が届く事は伝えとくね。」
その言葉には「あぁ、頼む」としか返せなかった。
近所の焼肉屋に来ていた。
牛〇とは違い少しお高いけれど、今日の深雪にはかなり働いてもらったからな。
「お礼は現金だと問題あるかもだから……お兄ちゃん。これ買ってぇ。」
そこにはオーダーメイド衣装、諭吉さんが10人という見積伝票を見せられた。
引き攣りながらもそれを了承する。
「やったぁ。流石お兄ちゃん、そこにシビれる、あこがれるゥ」
テーブル越しに俺の両手をにぎにぎしてくると上に下にぶんぶんと振る。
まぁ可愛いし手の感触が良いから良いんだけど。
「にくうまー。」
美味しかったようで何よりだよ。
焼肉屋からの帰り道、家まで深雪を送り届けるために歩いていると正面から一人の男性が歩いてくる。
「ん?お前黄葉か?〇中の。」
そこには見覚えのある人物がいた。
今では地元では若干時の人。
一つ年上で、中学時代と高校時代に対戦した事のある元同じ少年野球チームのチームメイト。
この田舎町から誕生したプロ野球選手。
「お久しぶりです?真白君。いえ、柊さん。」
―――――――――――――――――――――――――――――――
後書きです。MAXに続いてヤンデレからも友情出演。
引っ越し先にはこの2コラボキャラが欠かせない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます