第49話 貴志の本性とピンクポーション

 ※本当にこういうものがあるかは知りません。




 再びスクリーンに映し出されるのは男女二人。

 始まる前に悠子ちゃんには席に戻ってもらった。

 おばさんに背中をさすられているので慰めてもらっているのだろう。


 映像の中の喜納以外の登場人物には全てモザイクがかかっている。

 もちろん音声も変声処理が施されており誰だかわからなくなっている。


 「あーこれ本当にキくな。俺自身もハンパないけど、1時間もしないうちにドハマリしてやがるぜ。」

 「清純で大人しくて可愛かったのに、もうこうなると面影もないな。牛丼つゆマシマシかよって。」


 映し出された映像の場所は、今は火事で営業停止中のあのホテルの一室。

 喜納自身が若い事から高校時代のものと思われる……が、画面上側に西暦から秒まで時間が表記されている。

 これは高校1年の時の画像だ。


 テーブルの上には怪しい包み。

 キくという事はコレを使用したのではと推測出来る場面。


 その後に何度か違うとの映女性像が流れるがどの映像にも怪しい包みは映っていた。

 繋いで編集してあるため、相手の年齢層はまちまちではあるけれど、高校生から大人まで様々だった。



 「コレ塗れば感度超増強だもんな。とんでもないブーストだ。」

 

 「1度や2度で離れていった女はともかく、何度も使ったやつらは我慢出来ているのかね?こいつらみたいに定期的に使わないと、そのうち発狂するんじゃねーの?」



 「こいつら、ピンクポーションと俺にハマりすぎだろう。」



 「流石に学生には大量に使えないけど、働いて稼いでいるやつならホストに貢ぐかのように金もくれるしヤれるし、最高だな。」


 「バレても秘密裏に親父の息の掛かった医者に丸投げ出来るし。」



 「キャリアウーマンとか言っても仕事仕事で男を知らねえのが多いし、年下から年上まで本当に困らねぇ。」


 「高校卒業までの100人目標だったけど、半年残して達成しちまったな。」


 「どいつも甘い言葉と優しい言葉と少しお高いプレゼントでほいほいついてくる。世の中には顔や金だけではないとか言っていても、そんなものは詭弁だね。」


 「両方持ってるのが強者なのさ。俺にはこの恵まれたものや環境があるからな。」



 画面の中にいる女の子が喜納に懇願している。

 喜納はじゃぁ、プラス10万なと言って女の子はこくこくと頷く。


 「へっ名門女子大に通うお嬢様がこんな淫乱で金使いが荒いと知ったら、家族はなんて言うだろうな。」

 

 しかし女の子は喜納の声には反応していない。喜納自身には反応しているけれど。


 「目標はあっさり達成したけど、手に入らなかったものも大きいな。」


 「あの小動物みたいな女……狙ってたんだけど、あの幼馴染女、身代わりになりやがって。証拠の動画がある以上簡単には手は出せないからなぁ。」



 「それに、俺が本当に欲しいと思った女は非処女だしな。幼馴染の彼氏もいるし。」


 「この俺が本当に惹かれる女と出会うなんて……香奈美とはどうせ政略結婚だしな。悪い女じゃないんだけど、やっぱり家関係を考えると無茶は出来ねぇし。」


 「あの女は幼馴染彼氏のあいつにぞっこんだからな……そうだな。落ち着いたら次の目標は略奪100人にしよう。」


 「それが達成出来たらあの女に本格的に近付こうか。100人略奪する能力があれば、あの女を落とす自信にもなるし。」


 「あんあんうるせーよ、さっさとイけ。」


 




 「はい、一旦ここで映像を止めさせていただきます。」



 画面は喜納の絶頂顔で止められていた。うん、萎える。

 ごめんね、こんな場面で止めて、みんな気持ち悪いよね。俺も気持ち悪い。



 「さて、喜納貴志君に聞きます。ピンクポーションとはなんですか?」


 「……」


 喜納は黙って下を向き、唇をぐっと噛みしめている。

 

 「よく犯罪者に対して、あなたには黙秘権が与えられています。なんて聞くけど、なぜ犯罪者に黙秘させてんだよ。全部話させろよ。」

 「やったやらない程度の事でも話させろよ。被害者は納得しないし、真実が明らかになるのが遅くなるだろうがよ。」


 「じゃぁそのせいで遅くなったからって、罰は上乗せされんのか?されねーじゃんか。ゴネタリ嘘言ったり、なぜこの国は、この世界は犯罪者に優しいんだ?」

 

 「人権?更生?まぁ、更生する人も中にはいるだろう。だけど現実はどうだ?再犯するやつ多いだろう?再犯しないまでも威張り散らしてる奴は多いだろう?」


 「他人の迷惑や痛みを顧みない奴は、捕まってお勤めを果たしても根本は変わらない、変わらないんだよ。あいつらは自ら法を犯しているのに、法に守られるからと好き勝手する。」


 「守る気がないなら守られようとするな。運転免許が良い例だよ、教習所に通ってる時は守る癖に免許を取得して公道に出たら道路交通法などろくに守りもしない。」


 「と、私情とあまりためにならない例えを挟んでしまいましたが。つまりは、この場において黙秘権は認められません。なぜなら俺は警察官でもなければ弁護士でもない。」


 「そして記録を撮っているとはいえ、ここは密閉空間。どんな取り調べ方しても……問題はない。」


 「とはいえ、俺が犯罪者になっては元も子もないので、出来れば自分から進んでお話してくれると助かるんだけどな。時間的にも。」


 「タマ……失いたくないよね?」


 喜納がこのタマを命と取るか男の尊厳と取るかは知らないけれど。

 田宮さんがニヤソとしているのを見逃さない。


 「こ、こんな事が知れたら……喜納一族は終わってしまう。そ、それだけは……」


 「もちろん出処まで聞く心算だよ。少し前に言ったよね。オーバーキルといきますかと。」


 「これはね、ともえとお前、二人に対するものだよ。と言ったところで質問に答えろよ。さぁ、ピンクポーションとは何ですか?」



 「ぐ……」

 再び兄・貴喜が貴志の肩を掴む。その手にはかなりの力が込められており、貴志は痛みで苦しそうにしている。

 そういえば、兄・貴喜もハンドボール経験者だとプロフィールに書いてあったなと思い出す。


 「だ、男女共に精力を増強させ……感度を爆上がりにさせて……依存性が高い、ひ、非合法の薬だ。」


 観念したのか、喜納貴志は内容を吐露し始める。



 「高校1年の冬休みから使ってる。出所は……言えない。拷問を受けても一族が消されても言えない。」


 そういう事言う奴って結局ゲロっちゃうんだけどね。

 だって簡単に内容について喋ったじゃん。



 「じゃぁ追い込み掛けるよ。ミスター〇ービーやヒシア〇ゾンのような追い込みいくよ。」


 俺はとあるカバンから荷物の中身である包みを取り出す。

 さっきの映像でもお馴染みのあの包みを。

この鞄の持ち主、喜納貴志はギョっとして目を見開く。いつ鞄を?と。


 「この鞄の中から取り出したるは、先程の映像にもありました件のピンクポーションと思われるものですね、多分。」


 「そして……流石に効能を試すわけにはいかないのでそこは割愛しますが……」


 「製造・販売・日本となってますね。」


 俺はカメラを直接スクリーンの繋げる、喜納の絶頂顔からピンクポーションの詳細が書かれている文字を映し出した。


 「流石に会社名や連絡先は掛かれてませんが、製造・販売国だけ記載する意味があるかはさておき……」



 ちなみに俺はニトリルを装着し、指紋等は残さないように触れている。



 「これが本当に日本で作られ日本で販売されているとして……どこの誰が最高責任者なんでしょうね。」



 いくら待っても喜納からは言葉が返ってこない。

 今攻めても話はしないのだろうと、別の質問をする。


 「では喜納貴志、これの効果は実際どのくらいなんだ?映像の中では結構すごい高そうではあったけれど。」



 「ぐっ……さっき見た通りだ、性を知らない女が熟年の淫乱女になる程度には高い。1時間もしないうちにウポポ族のようになる。」


 いや、そんなターちゃんの1話の名言みたいに言われてもな。若い世代には伝わらないぞ。

 


 「で、依存の方は?」



 「1回か2回くらいの使用であれば、1ヶ月もしないで抜ける。それまでの衝動は激しいだろうけどな。ポーション自体の依存は抜ける。使用後2時間は頭がハイになって記憶も曖昧になる。」


 「推察するに……甘い言葉で行為まで持って行き、隙を見てポーションを使用し依存させ、お金も巻き上げていたという事か。」


 「流石に高校生相手には使っていない。稼げない事はわかってるからな。」


 本人も知らない間にヤク中なんて……悪魔だろ、その商法は。

 

 「高校生相手に使ってないというけど、お前自信は使ってるじゃないか?」


 「そ、それはそうだが……本当に相手の女には使っていない。」



 「お前のしてきた悪事全てを認めるか?」


 「ぐ……み、みとめ……る。200人以上の女と関係を持ち、50人くらいの女にピンクポーションを使った。」


 「高校の時は、離れていく女を脅した事もあった。70人くらいだと思う。」



 随分ペラペラと話すようになったな。違和感しかないが、それほど出所を知られたくないのか。


 しかし、ポーションがいくらか知らないが、俺を嵌めて慰謝料せしめるなんて鼻くそみたいなものだと思うけどな。


 「薬物に関する法律の事はともかく、これだけでもお前が逮捕されるには充分過ぎる案件だな。」


 しかし逮捕で裁判なんて時間のかかる事はしないけど。



 「じゃぁ映像の続きを見せようか。」



 そして映像が再開されると、そこにはともえと喜納が映し出されていた。

 2人の初めての邂逅の時である。


 汗を掻いたから風呂だけ入らせてくれという喜納の言葉を真に受け風呂を貸すともえ。


 喜納があがると今度はともえが入っていく。


 帰る時の話云々を言っているのでこの時点でのともえが喜納を相手にするとは思えない。


 ともえが風呂に入っている間に喜納は行動に移した。


 件のピンクポーションを部屋に撒き、アロマのように香を焚いた。

 恐らくは無臭かそれに近いのだろう、風呂から出てきたともえが違和感すら抱かないのだから。


 これまで映像で見てきたものと容器が違うので、恐らくは強化版ではないだろうか。

 実際に改と書いてあるしな。


 性について悩んでるともえに対し、性を抑発させるピンクポーション。

 あの場でともえが貴志を取るのはほぼ決定事項だった。


 あの一晩がダイジェスト形式で流される。

 

 その最中、水と称してポーション入りドリンクを飲ませる。


 「おぉ、やっぱりこいつは最高だ。全然限界が見えねぇ。」

 「俺が惚れたのもこれを予感していたからか!」


 よくビビビと来たと言う人がいるけれど、喜納にとてともえに初めて会った時のものは同じ感覚なのだろう。

 そして喜納は自分の性にマッチする相手がともえである事を感じ、それが惚れたという認識なのだろう。


 空になったポーションの包みが散乱し、一晩でどれだけ使用したのかわからない。

 恐らくこれだけ使ったのは喜納自身初めての事だったのではないだろうか。



 「え……?あ、じゃぁ、私が貴志にハマっていったのは薬のせい?」


 「あぁ、そうだ。お前の身体と性欲は俺にとってこの世で最高のものだった。」


 過去形にしている時点でこれで喜納はともえを切った事がわかる。


 「あ、愛してるとか……は?」


 「あぁ、愛してるよ。お前の身体とその底なしの欲を。」


 そこにともえの人間性は入っていない。


 杜撰な計画も、失敗したらそれはそれと割り切っていたのだろう。

 こんな時にバレると思わなかっただけで。


 「そそ、そんな。嘘だッ。じゃぁこの愛の結晶は?」


 うわー気持ち悪いなー。子供に罪はないとは言うけど……


 「俺とお前の子だ、性欲旺盛な子供が生まれるんじゃないか?もし女が生まれて良い女になったら俺が……あぎゃぁぁ」

 兄・貴喜の貴志の肩を握る握力が増した。


 「お前はこれ以上まだ罪を重ねる気か?」



 「うぅぅうあ、な、なんのため……なんのために……」


 俺を裏切ったか……とでも言いたいのか?

 それがお前の本質だからだよ。

 性欲を優先し、甘いエサに着いて行き、自分を正当化し、後ろめたいと分かっていながらも裏切り続けた事は。

 お前の本質なんだよ。


 「お前からはポーションの金を取ってないんだ、ありがたく思えあぁあぁ」

 再び肩を握る握力が増したようだ。


 「あぁぁぁあ、私は……この子はなんのために……」

 押さえつけられているため、お腹を触る事が出来ないともえは自分のお腹に目線を降ろした。


 「授業料だろ?幼馴染の恋人を裏切って不貞を働くとこういう事になりますよっていう授業に対する対価だろ。」

 俺は冷たく現実を言い放った。


 「さてクズ男の喜納君、おまえ子供の認知はするのかな?」

 俺は喜納に問いかけた。予想通りの答えを期待して。


 「……ここでしないとは答えられねーだろうが。認知はする、けど育てるつもりはもうない。」

 やっぱり期待通り。もっとも、育てるつもりがあってもなくてもそれは不可能だろうけどな。



 「そ、そんな。私を捨てるの?」

 うるっとした目でともえは貴志に懇願する。


 「こうなったらもう無理だろうが、諦めろ。お前は結局俺にピッタリなだけの女なだけだ。利用出来ないとわかれば、もう用はない。」

 喜納はあっさりとともえを突き放した。まぁそうだろうな。

 どう考えてもこの場を切り抜けられるだけのカードがあるようには思えない。


 「あ、ああぁkふぉめおf、ppq、えfけjまllfvms」

 ともえが意味不明の叫びをあげて嗚咽した。


 ともえにとってはオーバーキルになったかな?

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