第48話 伝説の防具を手に入れたぞー


 「黄葉っ」

 

 悠子ちゃんの絶叫の後には高橋の声が響き、それに伴い周囲の人達も声を挙げていた。


 俺は膝から崩れ落ち床に強打する。「orz」の体勢となり、腹部からは血の跡が……



 「あひっあひぃっあぁぁぁぁ。真秋は悠子には渡さない。真秋は幼馴染で恋人で夫になる人なんだから。それと貴志も渡さない。」


 何を言っているんだか、お前自分が何をしたのか覚えてないのか?何を言ってるのか理解しているのか?

 倒れながらも俺は心の中のツッコミはやめなかった。



 「本当は生意気にも真秋を癒すなんて言った悠子を刺す心算だったけど……真秋は悠子なんて庇っちゃって。」


 「私のモノにならない真秋なんて。だから先にあの世で待ってて?私も寿命全うしたらそっちに逝くから。」

 いやいや、そもそもあんたは俺の事を慰謝料得るために捨てようと考えていたじゃん。

 言ってることが支離滅裂だ。


 「そうしたらこんどこそ一緒になりま……」

 どの口が一緒になろうなんて言いそうになるんですかね。最後までは言わせねーよ。



 「なりませんよ。」


 俺は何事もなかったかのようによっこらしょと立ち上がり、ともえを睨みつける。


 「今世でも来世でもあの世でも俺はお前とは一緒にならない。」


 「なるわけねーだろ。お前、さっき自分が何をしたのかわかってるのか?妹である悠子ちゃんを刺そうとして。庇いに入った俺を刺して。」


 「このまま何もないわけないだろ。」



 「な、な、なな、なな、なんで……刺したのに。けど、確かに刺した感覚……」


 俺も流石に人を刺した事はないからその感触なんてものはわからない。

 だけど……肉を刺した感触と、コレを刺した感触が同じなわけないだろう。


 俺はシャツをズボンがら出し、手をシャツの中に突っ込むとその中からあるものを取り出した。



 「てててっててー、第〇〇回コ〇ケカタログ―」


 シャツの中から取り出したのは、F〇Ⅲ学者最強の武器と揶揄される伝説の「コ〇ケカタログ」だった。

 角で殴れば殺傷能力抜群。角でなくてもこれで殴られればダメージは大。

 さっきの俺のように服の中に仕込めば最高の防具にもなる。



 「と、まぁ。お前のナイフはコ〇ケカタログの分厚い装甲は突破出来なかったわけだ。」


 目を見開いて、呼吸を忘れたかのように俺を見つめるともえ。


 パンダ猿キョンシーだから怖いんですけど。さらに悠子ちゃんのビンタで鼻血は出てるし唇を切ってるから赤いしホラーだ。


 言い忘れたけれど、数人のスタッフによってともえは身体を押さえられている。

 お腹の子共に影響が少しでもすくなくなるよう、肩と腕を押さえているだけではあるけれど。



 「このカタログ、見覚えないか?お前と初めて行ったコ〇ケのカタログだよ。」

 「まだ付き合う前だったから、色々な想い出が詰まってるカタログだな。」



 パラパラ―っとページを捲っていくと。結構初めの方でその終わりはやってきた。

 「ほら。半分も突き破ってない。俺の腹部が赤いのは俺の血ではなく、お前の鼻血だからな。」


 「俺とお前の大事な想い出の詰まったコ〇ケカタログ、どう処分するか考えてたんだけどさ。」

 「何かあった時の保険として腹に仕込んでおいたんだよね。まさか本当に防具として役に立つなんて思わなかったけど。」


 「保険て大事だな。お前は想い出の詰まったこのカタログを突き破ってくれちゃったけどどうなの?大事な想い出はもう思い出せない?」


 「あ、ぁ。ああ、あ。あ。ナ。ナイフで……刺してごめんなさい。」

 いや、謝るとこそれだけじゃねーだろ。俺はどうでもよくて昔の想い出は大事とかいうのか?

 

 「嵌めて陥れようとしてたけど、妹に取られるのは嫌だった。妹に諭されるのが嫌だった。」


 「私は今は大事。」


 ぺたっと座り込んで脱力していくともえを見やると、俺は思考を巡らせなければならない。

 あの3ヶ月以前のともえと、浮気当初のともえと、妊娠発覚してからのともえと、托卵慰謝料を言い出したともえと。

 ふむ。やはり支離滅裂だ。慰謝料ふんだくって離婚を考えておいて、その実大事とは片腹痛い。

 さて、種明かし裁判を続けよう。種という程のものがあるかわからないけど。

 

 どういう理由でこうなったのだとしても俺からの結末は変わらないけどな。


 「さて。じゃぁオーバーキルといきますか。」


 「ついでにそこで丸まってる喜納貴志も、ここからは再び他人事じゃないぞ。」


 「個人的な問題でともえはどん底に落としてやりたいと思っていたけど。お前は俺だけじゃなくたくさんの人の恨みを買っている事を忘れるな。」


 「イッツ・ショータイム!」

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