地獄への片道切符は貴様らの命で買ってもらうとするか編

第43話 青コーナーより喜納香奈美選手の入場です


 「それではここで特別ゲストに登場してもらいましょう。」

 会場にドラムロールの音が響いてくる。

 ダダンっと最後の音が鳴り終わると、入場時に通った入り口の扉が開いた。


 「喜納香奈美きとう・かなみ様の入場です!」



 会場の入り口扉から出てきたのは。真っ赤なドレスに身を包んだお尻まで隠れる程の超ロングな黒髪の少女。

 いや、成人して子持ちなのに少女はどうよと言われてしまいそうであるけれど。


 高梨香奈美……喜納香奈美は美人系というよりは可愛い系である。


 コツコツとなんとかロード(誰もバージンいねーし)を優雅に歩を進める香奈美女史。


 壇上を見上げ一礼をし、司会席へと向かう。

 マイクの元へと歩み寄る。


 「ただいまご紹介に預かりました高梨香奈美と申します。あ、まだ喜納香奈美でございますね、失礼しました。」

 あ、もう離婚する気満々じゃないか香奈美女史。


 「少し身の上話をした上で証人喚問を受けようと思いましたが……」


 「私の一応まだ夫である、喜納貴志が皆様方にご迷惑をかけた事まことに申し訳ありませんでした。」


 「そして、私自身学生時代から夫を愛しており、彼が行っていた事を知らぬとはいえ見過ごしてきました。」

 「いいえ、これは言い訳ですね。不特定多数の女性と関係を持っていた事は知っておりましたので。」


 「私は許嫁という立場もあり、最終的に1番であれば良いという考えで、彼の全てを見ておりませんでした。」


 「彼が不特定多数の女性と別れる際に、脅していた事などは知らぬ事とはいえ放置していた事は私にも責は存在すると存じます。申し訳ありませんでした。」

 「今の私に彼ら彼女らに出来る事は謝罪の言葉を述べる事くらいしか出来ません。その代わり現在の私が堕ちる事に何の躊躇もございません。」


 「その覚悟として……」


 香奈美氏が頭に手をやり髪を掴むと……

 髪は取れ、つるつるの頭皮が露わになった。

 長身のハーフモデルの誰かを彷彿させるその姿はある意味とても凛々しく見える。

 

 「髪は女の命です。しかしこれで罰が軽くなるとは思ってはおりませんが、私なりのケジメであります。」

 「昨日娘にはつるつるーとか、こにょはげーとか、たいようけぇんとか、クソソソとか、中々辛辣な事を言われました。ついでにぺちぺちと頭頂部を何度も叩かれました。」


 そこでこの場には似つかわしくない声が響く。それは一番聞きたくもないモノの声でそれもこの場には相応しくない種類の声で。



 「あひゃひゃひゃはっやひゃひゃひゃ、か、香奈美おま、おまえつるぴかは〇丸かってのあーひゃひゃひゃ……」


 「「「お前が笑うなッこのクズッ」」」


 3人の声が重なった。

 俺、香奈美女史、喜納貴喜の3人である。

 事前打ち合わせをしたのかというくらい見事に重なった。


 手のひら返してと思われるかも知れないが、よく思い切った事をする。

 知ってる人は少ないかも知れないけれど、香奈美女史は黒髪超ロングだったのだ。

 美容院では整える程度に切る事はあっても、バッサリ切った事は一度もないと言っていた。


 これは高校の頃に聞いたことでもあるんだけど。

 先日会った時にもそれは言っていた。23年延ばしていると言っていた。


 先日最後に哀愁を漂わせて髪を触っていたのは、その23年延ばしてきた長い髪との別れを惜しんでものだったという事か。


 3人に怒鳴られ喜納貴志は言葉を失いただ立ち尽くすのみ。

 横では何故か涙を流すともえ。 いや、お前の涙は喜納以上に信用出来ん。

 

 周りの人達は喜納にヘイトが集まっているが、俺のヘイトはダントツでお前に集まっているんだぞ。

 悠子ちゃんと似ているからありえないのだが、病院で他の新生児と間違ったと言われた方がよっぽど納得がいく。

 似ているのは外見だけだ。


 「さて、私のクズが……あ、夫が失礼をしました。私と夫の間には娘が2歳になった頃には夜の生活はありませんでした。」

 唐突にぶっこみ始めるな香奈美女史も。


 「思い返してみると、7月くらいでした。家からも二人目を求められていましたからね。男児が欲しいと。」


 「それなのに夫からはパタッと止みました。理由を聞いても、娘が幼稚園に通ってからで良いんじゃないかとしか返ってきませんでした。」


 「まぁその辺りは夫婦の問題ですし、1年2年先の話でも良いのかと思い流してはいましたが、避妊具をしての行為もありませんでした。」

 

 「今思えばそこの……えーと、あ、ともえさんと致していたのですから、性欲はそちらで解消していたのだから私とはしませんよね。」

 

 証拠もありますしねとスライドに出す。

 これは男性ホルモンが強いという事しかわからない。

 根拠があるのかわからないが、モテる男は男性ホルモンが強く仕事が出来るという。

 

 「これは何の証拠でもなければ単に夫の男性ホルモンが強いというのを示しただけですが……」


 「彼のは中々限界を迎えません。プロ野球の試合が終わっても終わりません。」

 「しかし、7月の中旬くらいから、彼は妙にスッキリでしている事が多いのです。自分の底なしに見合った相手が見つかったんだろうなと察しました。」


 「まさかそれが今回の事を引き起こすとは想定してませんでした。やはり私が止められなかったのは悔やみます。申し訳ありません。」


 「もう一つ謝らなければならない事がございます。10月末、私は久しぶりに夫婦水入らずで温泉旅行に行こうと夫に誘われ群馬に行きました。」

 「たまには良いなと思い、温泉旅行に行きましたがそこで待っていたのは酷い裏切りでした。」


 「混浴露天風呂で不貞行為に励むバカ夫とともえさんの姿を発見してしまいました。」

 「黙っていた事は謝ります。黄葉君本当に申し訳ございません。」

 「まさか二組の夫婦とカップルの相方同士が密会のために温泉旅行を計画するだなんて夢にも思いませんでした。」



 「おまえ、勝手な事言ってんじゃ……」

 喜納貴志が声を荒げて怒鳴って香奈美女史を威嚇する。


 「じゃぁコレを流します。未成年は目と耳を塞いでください。」

 悠子ちゃんをはじめ、未成年に対して親が目と耳を塞いでいく。


 香奈美女史が取り出したスマホを繋いで動画を流し始める。



 「誰もいないとはいえ、混浴風呂ってのは解放感があっていいな。目の前は渓流で絶景だし、目の前にも絶景なともえだし。」

 「ちょ、貴志デリカシーなさす……」


 貴志とともえの不貞行為が流される。

 映像は……良い子のみんなのために流せないけれど。(目と耳は塞いでいるけど)

 そういえば本当はこの時点で妊娠10週とか11週ちょいじゃなかったか?

 今思えば母体大丈夫だったのかよ。


 「俺を満たせるのはともえだけだし、ともえを満たせるのは俺だけだな。」

 ん?なんかこの先は聞きたくないぞ……


 「もう貴志専用に改造されちゃったしぃ。貴志じゃないともう満足出来ないぃ。」

 あ、殺意の波動に……庵さん出番はまだですよ。


 「お前、部屋で寝てる彼氏に悪いと思わねぇのかよ。」


 「そりゃ少しは悪いとは思うけど、私のここにぴったりなのは貴志だし。性器正規の鍵の貴志と、複製劣化コピーの鍵の真秋じゃ全然違うぅ。」


 何このバカっぽい喋り方。あ、いやバカなのはわかってるけど。

 ナニコレ、俺こんなヤツをマジで愛してたの?

 おかしくない?これ俺の物語だよね。なんで俺がダメージ大なの?

 俺がざまぁされてない?ちょっと香奈美女史なんか言って?

 というか絶対こいつのせいだろ、俺のが不全になったのって。

 

 これ精神くるぞ。というかもう止めて、俺のHPはもう赤いぞ?


 もうしばらくして映像は止まった。

 あの時あった4人分と思われる衣服の一人は香奈美女史だったのか。

 計算合わないな。あと一人分は誰だったのだろう。



 「なぁ、ともえ。俺は劣化コピーなのか?そんなラノベみたいな言い方していたのか?」

 もう会場の人達の俺を見る目が憐れみの目にしか見えないんだけど。


 「あの旅行でも俺達いっぱい愛し合ったけど、心の中でずっと嘲笑っていたのか?」


 ともえは涙を垂らしながら……涙を垂らすという表現はおかしいのだけど、実際垂れ流れてきているので仕方がない。


 「ああぁち、っちちあ、ちがさ……」

 え?茅ヶ崎?なんで今稲村ジェーンが出てくるんだ。あ、あれは愛しの襟ーだっけ。

 

 「茅ヶ崎だろうが九十九里だろうがどうでも良いんだよ、嘲笑っていたのか聞いてんのー答えてちょーだい。」

 そういえば小学校で、「答えてちょーだい、聞いてんのー」と叱ってくる先生がいたな。今はどうでも良いだろうけど。


 「ちがっ、そんなつもりじゃ……」

 鼻水啜ってともえが否定をするが、そんなもの関係ない。


 「そんなつもりじゃないならどんな心算?ねぇ俺ボキャブラリー低いからわからないんだよね。シブ知とかインパク知とか側だから、バカパクとかバカシブ側はよくわかんねーんだよ。」

 俺はともえに近付き、眼前で問いただす。 

 目の前で見ると化粧が崩れてえらいことになってきている。


 「もう、今夜はブ〇ー・バックを大音量でかけたい気分だよ。」

 


 「あるよ、かけようか?」

 司会の高橋がここで乱入してきた。


 「あ、いや著作権とか怖いんで良いです。」

 招待客はもう空気と化していた。


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