第42話 滅びの風をその身に受けるが良い

 2月末、ともえを伴ってあのお方から紹介されたホテルへと向かった。

 それは駅から歩いて10分程度のとても良い立地にあった。

 田舎ではあるけれど、この街は色々揃っているのが良い所だった。


 「よく来月開催しようとしているのに見つかったね。」

 不思議がらずも、ともえは式場が見つかった事に安堵しているようだった。


 「あぁ、知り合いのツテを総動員したらここを紹介されてさ。」

 知り合いのツテというのは間違っていない。

 直接の知り合いではなくても、人の繋がりというのは時として巨大な力を発揮するものだ。


 ホテルに到着し案内状を見せると、奥から担当者と思しき女性が現れた。


 自分らと年齢の変わらなそうな黒髪前髪ぱっつんが似合う少女のような女性だった。

 田宮未美と描かれたネームプレートを下げている。


 「本日、案内の全てを仰せつかっております、田宮と申します。」


 彼女に案内され、応接室で打ち合わせを開始する。

 田宮さんにプランの紹介をされるがまま、淡々と決まっていく。

 内容についても金額についても許容範囲だ。

 そのプランで進めてもらうように契約をする。


 この間実に1時間かかっていない。

 時間も差し迫っているし、オーソドックスなものを勧められたというのもあるだろう。

 

 俺とともえは席を立ち退出しようとする。

 そこでともえはトイレに寄ってから車に戻ると言う。

 大方喜納への報告だろうな。クソがっ


 一人取り残された俺は……


 「これから手短にをしましょうか。」

 という田宮さんの言葉に振り向いた。


 その口角を上げた笑みがとても邪悪で、それでいて小悪魔的で、俺は彼女に吸い込まれていった。


 「まさか、貴女があのお方?」


 「余計な詮索は身を滅ぼしますよ?」


 そこで10分にも満たないけれど、真の打ち合わせが終わった。


 「貴女への報酬とかは?」


 「当日最前線で面白いものを見られれば、それが最大の報酬です。」


 「私は……赦せないのですよ。新生児室からの幼馴染で恋人でありながら、あっさりと他の男に乗り換えるクソ女が。」

 「私の周囲にもそういうクソ女がおりましてね。そいつより酷いクソ女がどんなものかと思って興味を持ちましたの。」

 田宮さんはもう隠す気がないようだ。平気で下品な言葉を連ねている。そしてどこか本当に怒りを覚えているようだった。


 「後は……そうですね。貴方が私の大事な人の名前と同じ字を一文字持っている事でしょうか。」

 その程度の事で興味を持たれていたのか。世の中は不思議で溢れているな。


 「それでその、クソ女とかいう人物は?」


 「詮索は不要……と言いましたが気になりますよね。文字通り自分のクソを食べてしまう立派な雌豚マ〇奴隷となりました。」

 あ、これ関わっちゃいけない人だ。でも彼女が居なければこの復讐は前に進まなかった。

 ギブアンドテイクという事でやっていくしかないか。


 しかしなんだろう、彼女が発すると下品な言葉が下品に感じない。これが王者の貫禄か。(違う


 「それでは前日に……よしなに。」





 帰宅後俺は案内状を作成した。

 探偵さん優秀だよ。本当に天城探偵事務所を皆さんよろしくって紹介したいくらい。

 特別サービスとばかりに参列者に決めていた人達の現住所を調べてくれていた。

 いやそれ普通に怖いと思うけれど、今は感謝でしかない。

 

 焼肉屋で出会った喜納グループの面々には住所を教えて貰っている。

 喜納貴喜氏には直接ともえから手渡ししてもらう。

 普通会社側はともえが準備するものだろうと思うのだが、不思議に思わないのだろうか。

 あ、こいつ高校の頃からバカだったわ。

兄である貴喜氏に案内状がきちんと渡り、参加してくれるかは1つの賭けとなる。

バカだから渡しそびれるとかも可能性としてはありえるのだ。



 一度嫌いになると本当に暴言出てくるな。現状は心の中でだけど。



 さて、もう一人会っておかなければならない人物がいるな。




 先日偶然街中で会った時に連絡先は交換しておいた。

 ちょうど父権関係を調べようと躍起になっていた時だ。

 金堂のホテルから物的証拠を協力してもらう前にあいつのDNAサンプルを貰った恩もある。


 

 「高梨……」


 「あら、私は今喜納香奈美だよ。」

 黒髪超ロングの清楚を連想させる格好で姿を現した。


 「あんたを喜納とは呼びたくはない。あのクズと同じ苗字なんて。」

 

 「酷いわね。あれでも一応夫なんだけど。」

 先日再会した当初は信じられなかったようだけど、例の写真や動画を見せると流石の香奈美も100年の恋は醒めたようだった。

 これまでは頑なに喜納を信じていたのに随分とあっけなく醒めたものだとは思った。


 「私は式には呼んでくれないの?」


 「貴女には特別ゲストとして後半に出演してもらいたい。それまでは別室待機という事でお願いしたいんだけど。」


 「それは不公平を感じるね。変装して従業員に成りすますから最初からいちゃダメかな。」


 という香奈美氏の要望により従業員として潜り込めるよう田宮さんに報告しておくか。


 従業員といえば、あのホテルには同級生が勤めていたのはびっくりした。


 猫屋敷神音ねこやしき かのんと言い、実は高橋のもう一人の幼馴染でもある。庇護欲を掻き立てるような小動物系女子である。

 彼女の親族がねこみみメイド喫茶を経営しているのだが、それはまた別の話らしい。

 ちなみに現在高橋とデキている。小澤の出る幕がないのはこういう理由もあった。

 小澤からの仕打ちに対して沈んでいた高橋を慰めているうちにいつの間にか……らしい。なんだか野菜の星の王子様みたいだな。高橋はベジ……

あ、声も同じだな。ちちしりふとももーの人と。


 高橋からの猫屋敷繋がりで会場はどうにかなったのでは?とはならない。若手のいち社員に急遽ねじ込める権限はない。


 後日高橋とも打ち合わせがある。

 電報も数人書いて貰わないとな。喜納弾圧のために出来れば女子側の電報が必要だ。これは意外にも猫屋敷が繋いでくれた。身近で高橋を見ているからか、女子側に話を持って行くのには女子から攻めるべしというところか。


 女子には女子で喜納と関係を持った事に後悔しているものはたくさんいる。

 独り者も彼氏持ちも喜納には関係なかった。言葉巧みに手籠めにしていたのだから。

 もっとも基本的に誘う時に脅しはしていないが、例外はたまにある。

 そんな女子も数人は存在していた。



 高梨香奈美には当日喜納への言及を行ってもらう。セリフはアドリブで構わない。

 香奈美氏にも言いたいことがあるそうだ。

 これまで盲目に見てきた自分への戒めと、喜納を野放しにしてしまった事への謝罪を含めて。


 高梨には兄・弟がいるからこそ、香奈美氏も大体的に出来るのだろう。

 自分自身は娘さえ無事なら自分が非難の的になる覚悟はあるのだ。


 高梨の実家は巨大アミューズメント施設を多数経営する。その中の一つの商品として喜納遊具などから商品を仕入れている。

 高梨と喜納はそういう関係なのだ。他にもあるみたいだけど。


 「そういえば、髪……まだ伸ばし続けてるんだな。」

 何気ない俺の一言であったけれど。

 「えぇ。女の命ですから……」

 名残惜しそうに黒髪を手で掬い、哀愁漂わせ靡かせていた。


 そうして彼女は席を立ち、去っていった。


 高梨のサプライズ参加を決定させ、次は……



 3月に入ってからの2週間は忙しかった。

 しかしそのかいあってか準備は順調に進めていけた。

 というか、いくら妊婦だからって何もしないともえってどうよ。

 もしかしてこっちの計画を知ってるのか?とさえ勘ぐってしまう。


 結婚式って夫婦共同のお仕事じゃないの?

 もう全てを無視してケーキ入刀じゃなくて、ともえに入刀しちゃいそうだよ?

 

 証拠提示の映像も音声もモザイクも完了。

 司会である高橋の準備も完了。

 これは俺の会社側が主にであるが、参列者への謝罪を含めた根回しも完了。

 これであらかた準備は完了した。

 後は前日のリハーサルと当日を迎えるのみ。



 「さて、地獄への片道切符は貴様らの命で買ってもらうとするか。」


 参加に〇をしてある喜納貴志の招待状の返信をみて呟いた。

 今、俺の心の中にはルシフェル様が宿っている……そんな気がした。




――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 

 さて、ようやくですが次の話からは香奈美入場のシーンの続きになります。

 ハードル上げ過ぎたと思っております。


 自分でも長くやりすぎたなとも思っております。

 でも、当初の流れは無視していないので勘弁いただきたいです。

  

 暴露宴である程度バーン→そこに至る経緯(過去)→再び暴露宴→あぼーん(ざまぁ)

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