第41話 3号で疑似ともえ痛ぶりプレイ

 月曜日、俺は日中だというのに例のお店を利用した。

 最近は便利になったそうで、ネット予約というものがあって便利だ。

 電話先の男性か女性かと会話しなくても予約が出来る。


 もっとも部屋についたら店に連絡は入れなくてはならないけれど。


 そして待つ事5分。

 部屋の扉がノックの音で響いた。

 ちなみに俺はプレイするわけでもないのに風呂に入っている。


 「〇〇の3号です。本日はご指名くださりありがとうございま……」


 上目遣いで視界に入ったのか、俺の顔を見た小澤こと3号の挨拶の言葉が止まる。

 

 「なんだ、挨拶もろくに出来ないのか。」

 なぜか俺はノってしまっていた。


 「ひっ、も、申し訳ございません。」

 その後玄関の靴置き場で土下座をしきちんと挨拶をし直す3号。

 もう3号でいいや。


 「小澤……いや、3号か。お前を呼んだのは他でもない。何点か質問したい事があってな。だからこの場に限り、以前の高校時代の時のように普通に喋ってくれ。」


 「それとも盗聴器でも仕掛けてあって店の人にでも聞かれていたりするのか?」

 3号は首を横に振る。それは盗聴の類はないという事。

 もっともこの部屋は金堂協力の元、きっかり録音録画されているのだが。


 「そこの椅子にでも座ってくれて構わない。」


 正直目のやり場に困る。

 コートを脱いだら……放送出来ないんだもん。

 いや、衣服は身に着けてるんだよ。上に2つ、下に3つの輪っかのピアスが見える。

 


 でも何故か、俺は反応していない。普通ならば例え恋愛感情がなくても反応くらいするはずなんだが……

 夏場のあの時のように全然反応しない。これはこれで由々しき事態だ。


 教育されているのか、3号は椅子には座ったがピシッとした態度は崩していない。

 本来は土下座スタイルでその賜物なのだろうけど。


 「お前は高橋と寄りを今でも戻したいのか?」

 核心を突く前に別の核心をついた。


 「……で、出来る事なら。恋人は無理でも、性〇隷でも、オ〇ホでも良い。」

 それはそれでまた……ただ、俺もあの時の様子から3号に対しては良いイメージはない。

 簡単に喜納に着いて行き、あっさり処女を奴にくれてやるような女は信用出来ない。


 それでも聞いておきたかった。

 

 「高橋になぜ喜納に身体を許したのか話したのか?」

 3号は首を横に振る。


 「言い始めてる途中でスマホ壊されたから。たっくん自身も私のも。」

 たっくんというのは高橋……高橋忠夫の愛称だ。名前だけ見ると邪なイメージを思い浮かべてしまうのはなぜだろう。

 幽霊とかと戦うボディコニアンみたいな霊媒師だか除霊師の出てくる助手みたいな名前だ。


 あぁ、きっと両親が記録した媒体のもの以外は全て喪失したんだろうな。


 「誰かに話したりはしたのか?」

 一人だけと言う。両親には話していないそうだ。

 

 「喜納が憎いか?」

 ここで違う反応をする。首を縦に振った。

 いや、お前がほいほい喜納に靡いて身体を許したんだろうがよ、とは言わなかった。

 今日の本題とは違うところで拗れても仕方がない。


 「あいつも憎いけど、私自身も憎い。私なんてなくなれば良かった。そう思ったら卒業後夜の仕事で働いていた。」

 突然自分語りに入る3号。

 本題を切り出すには、周りから攻めないといけない。いきなり核心をついてもだめなのだ。

 男女の営みと同じである。


 「就職も進学も決まらないまま夜の街で蹲っていたら……ある人に声をかけられて。」


 「高校時代の過ちを話して、自分自身を消してしまいたい、でももう一度たっくんの隣を歩きたいって。」

 まぁそれはどの口が言っちゃうんだろうね、ってその口か。

 超瞬間接着剤で口を縫い付けたいだろうな、高橋だったら。

 まつり縫いで唇をさらに縫い付けてミイラにでもしたくなっちゃうだろうな。

 そんなミイラの人形あったなアウ〇ーゾーンで。最後トイレに流されたけど。

 

 「後者の方は保障しかねるけど、前者の方……消えてしまいたいという方なら協力出来ると言われて。」


 「衣食住完備の働き先を紹介された。自宅から離れて、お店の地下にある住居監禁部屋で生活させて貰えると。」


 「文字通り地下に隔離されて住むのだから、一般の世界からは消えてなくなると。」


 「最初は怖かったし、紹介された仕事内容もハードに見えたから不安だったけど……体験入店したら意外と自分に合ってる事に気付いた。」

 あぁ、喜納に身体を許した時点で性に対するモノが全て壊れたんだな。

 自分が何を言ってるかもわかっていないのだろう。

 いや、そういうお店がどうこういうわけではない。志の問題だ。

 プライドを持ってやっている嬢に関しては敬意を称する。

 

 プライドを持っていない嬢には敬意など存在しない。3号の場合は後者だ。

 直感でしかないけどそう感じた。


 「それでお前は店で働くようになり、住居を兼ねる地下で5年生活しているというわけか。」

 3号は首を縦に振り肯定を示す。どうやら地上に上がるのは仕事でホテルや、野外プレイでしか外には出られないらしいのは本当のようだ。 

 お店でのショーはやはり地下のため地上ではない。


 「そんな事を聞くために指名したの?今の私はお店の規則で実家に帰った時以外は名無しの雌豚3号だよ。」

 地下生活ではあるけれど、1年に何度かは実家に帰省する事を許されているそうだ。

 年末年始くらいだけど。


 豚に衣装は必要ないそうなので基本今の恰好かそれに毛の生えた程度の薄い衣服しかないらしい。

 

 焦らしても仕方がない事はもう実感していた、本題を切り出す時だろう。

 「俺に高橋との懸け橋をするだけの力はない。だけど条件によっては今日の事を高橋に伝える事くらいは出来る。」


 「それを踏まえた上で話す。お前が敵になる場合、最悪のケースも実行に移さなければならない。」

 それがあのお方とやらに目を付けられる事になっても。


 そして俺は昔の事はさらっと、ともえの浮気から恨みを込めながらじっくりと説明をした。


 「つまり俺はともえと喜納に復讐を考えている。そのためのピースが足りない。」

 「俺の直感がお前を発見した時に逃してはならないモノだと伝えてきた。」


 「それは買いかぶり過ぎよ。私は名も無き雌豚奴隷の3号。でも……」

 あのお方なら、そういうツテのいくつかはあるかもしれない。そう続けようとしたのだろうけど、それ以上は口にしなかった。


 嬢の中には暫く勤めてから、普通に店を辞めて一般職に勤めている者もいる。

 そういった者の中に会場やプランナーもしくは繋がりのある者がいるのではないかと推測している。


 気付けば3時間の内2時間が経過していた。



 「あの……何もしないの?」

 それはこういう店を利用しておいて何もしないのかという事。

 高橋との間に何もなければ、たとえ元クラスメートであってもプレイをしていただろうけど。


 「あなたもたっくんと同じで私を汚らわしいクソ女だと思ってる?」


 「思ってる。事情聞いてないから余計にな。」

 何か事情があるにしても、簡単に他者に股を開くクソ女の言い分など聞いても面白くもなんともない。

 男女逆だったらしつこく問い詰めてくるだろうに。まぁ性格にもよるだろうけど。


 「いつか、貴方にもたっくんにも聞いてもらえれば良いなと思ってる。言い訳にしかならないのは承知しているけど、それでも……」


 「喜納に痛い目にあって貰いたいのは私も同じ。だから協力出来るものであるなら協力したい。」



 「私の勤めているお店ね、罰則があるの。」

 


 「仕事の形跡が何もないと、戻ってから叱られるの。」

 過去にそういった実際にプレイせず、ダミープレイをした嬢がいて、もう二度とお店に出られないような叱責を受けた嬢を見たことがあると漏らした。

 もっとも1回でそこまでの事はないようで、その嬢は何度もやらかしていたかららしいけど。


 3号は脳内でかつて見た光景を思い出しているのか、視線が明後日の方向を向いていた。

 「私の見る目がなかったって事ね。じゃぁ見る気も失せるような見た目にすれば、そっち系の客取れるかもね。」

 「声を掛けたのはこっちだけれど、契約内容を確認して体験入店もして、その上で選択したのは貴女なのよ。」

 「アコギな商売をする者のように、小さな文字や透かさないと浮き出て来ないような文字じゃなかったよね。大きく赤字で書いてあったよね。」

 「見逃さないように。後で知りませんとならないように。執刀は私がします、最期に光栄に思いなさい。」


 「ダメな嬢の見本と末路」というタイトルのビデオを体験入店前に見せられたという。

 あれはもう……本当に特殊な性癖を持った者にしか相手にして貰えない廃棄嬢と言っても過言はないと言う。

 ビデオの中で語るあのお方が怖くて、同じような事をする嬢はいなくなったという。


 お金をいただいて仕事をしているのだから、それに見合った内容は行わなければならない。当然と言えば当然かも知れない。

 体調が優れず、このプレイは今日は無理だというのがあれば事前に申告する事は赦されているそうだ。


 まぁ夜のお店は夜のお店で色々あるんだなと思った。


 仕方ないのでイジメるだけなら良いかと思った俺も存在した。

 こいつをともえだと思ってしまえばなんてことはない。

 劣化版ともえでもあるわけだから。


 「私をあのクソ女だと思って酷い事して。予行演習だと思ってめちゃめちゃにして良いから。」


 「それならそれでお願いの仕方というものがあるだろう。何を対等の気でいるんだ?」

 慌てて土下座をし、頭を床に擦り付けて手を揃えて平べったくなって言葉を紡ぎ出した。

 その言葉の内容は流石に放送出来ない。


 ストレス発散の道具だと思えばなんてことはない。

 そして3号は自信が言うように雌豚だ。叩かれて喜ぶような変態だ。


 しかし俺が反応する事はなかった。


 単純に女の身体に対して、嫌悪感のようなものが湧いてきているからではないかと推察する。


 3号は周りの子に聞いてみると言い部屋を退出していった。

 結局、5諭吉だったが、情報分という事でイロをつけておいた。

 それを上に報告するかは3号に任せてある。





 後日、あのお方の使いと名乗る者から封書を受け取る。

 なぜ住所わかったし?


 3号が何かしら伝えたのだろうか。

 おかしい。3号にそういう事をしてからそっちの気が出てきたような気がする。

 あれから下半身が反応しないものだから、ネットで2次元から3次元まで色々と本や映像を見ているがそそらない。

 特殊なプレイの奴に関して気は行くようになって見る回数が増えた。

 それでも反応はしないが、脳は反応するようになっていた。


 俺は封書を開けて中身を読んで驚愕した。


 そして、会場が手に入った事を悟った。

 歓喜に震えて喜んだ。

 今度下見と打ち合わせを兼ねてともえと行ってみるか。

   

――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 次話で打ち合わせと邂逅を済ませたら現代に戻ります。


 青コーナーから喜納香奈美選手の入場です。

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