第32話 ☆モドレナイ

 朝、目が覚めるとあちこちが冷たかった。

 

 思い出した。

 私は……

 赦してしまったのだ。

 


 既に喜納は部屋にいなかった。

 時刻は7時、もう出勤したのだろうか。


 随分と久しぶりにした気がする。

 


 疲れて寝るまでって……

 この感覚は錯覚だけではなかった。

 「あ……」



 様々な残骸が身体とシーツにこれでもかというくらいに残っていた。


 ごめん真秋……大事な人がいるのに身体赦しちゃった……


 私は急いで風呂場へ行きシャワーを当てる。

 全てを掻き出すために、全てを洗い流すために。


 遅いか早いかはわからない。

 何も考えずに掻き出していった。



 それから数日は不思議と暴発する事はなくなっていた。


 でも4日目となると、頭の中からうずきが酷くなってくる。

 あの日以来喜納とは会っていない。


 真秋にも会っていない。

 どの面下げて会えば良いのかわからない。


 多分本当はすぐにでも謝りにいくべきだった。

 後になれば後になるほど、バレた時に言い訳だけになってしまう。


 でも……この身体の疼きは……止まらない。



 目が……喜納を探している。

 

 

 「どうした?」

 ふと後ろから喜納の声が聞こえる。

 「あ……ぁ。」


 喜納が救世主にしか見えない。

 「疼きが止まらないのか?そうか。欲しくなったら連絡をよこせ。そして場所はこないだの部屋だ。」

 喜納が私の胸ポケットに名刺を入れていく。

 

 メールに時間を入れる。返事が来る。

 それが合図だった。

 

 それから三日に一回の頻度で私は喜納に身体を許した。 


 8月に入ると、会社の中でもするようになった。

 もちろんモニタールームや屋上、トイレや倉庫と色々な所で。


 

 「なぁ、俺とお前、相性が良いと思わないか?俺もお前も性欲は人の何倍も強い。」


 「そうかな?確かにこの3週間程は疼きが収まってるような気がするけど。」

 それは奇しくも喜納と身体を重ねてからの事であった。


 「いつも俺は不完全燃焼だ、もちろん香奈美が開いてでもだ。限界が見えないのはお前が初めてだ。」


 「確かに私もかなり楽になってるし、そうなのかな。」

 あぁ、私はもう戻れないところまで来てしまっているのだろうか。


 「とりあえず……今度海行かないか?二泊三日くらいで。」


 「香奈美ちゃんや娘さんは良いの?」


 「会社の研修だといえば大丈夫だ。」

 それは一応浮気をしているという認識があるという事だろうか。


 

 「そう。かなりワルだね。」

 「お前もな。彼氏は良いのかよ。」


 そこで少し冷静になって振り返ってみるけれど。

 「悪いって事はわかってる。でも全然相手にしてくれないし、土曜は私のために時間を割いてくれても何もシてくれないし。」

 「そもそも今イ〇ポだし……」


 「お前、ヒデーな。」

 悪いとわかっていても事実だから仕方がない。



 私はもう変わってしまったのだろう。

 まだひと月に満たない程度の関係に溺れて。


 手を伸ばしても微睡の中、真秋の幻を掴む事も出来ず。

 容易に掴む事の出来る喜納貴志という存在に溺れて。


 水面にいる真秋の手を掴め……ずに、水底の喜納貴志に引きずられていく。


 「楽しみだね、海。」

 恋するJKみたいな笑顔で答えた。



 二泊三日の海旅行は爛れたものだった。

 ホテルで、砂浜で、海中で、海上で……


 プライベートビーチでは二人きりで邪魔も入らず遊んでいた。

 


 

 真秋も貴志もどちらも満足はさせてくれる。

 ただ、それだけでは価値に差異は現れない。


 相性が良いと言ったのはきっとそういった面もあるのではないかと思う。

 全体的な意味合いでは恐らく貴志の方がぴったり私の身体に合ってるのだと思う。


 純正の鍵貴志複製の鍵真秋

 

 多分そういうことなのだろうな。



 それを理解してしまったらもう戻れなかった。

 身体はもう喜納貴志のものとなっていた。



 海で遊びまくったおかげで実は身体全体が少しヒリヒリする。

 日焼け止めを塗っていたとはいえ、炎天下の中していたのだ、海の潮も含めてダメージを与えて当然だった。



 真秋には海旅行は会社の同僚達と行くと言ってある。

 どうせ仕事で忙しくて疑いすらしないだろうけど。


 

 9月も中頃に差し掛かると真秋の会社の対策も終盤へと差し掛かってくる。

 目に見えてゴールらしきものが見えたとの事だ。

 10月頭には収束するだろうとの事だった。


 終わりが見えたからか、真秋の表情にも明るみが出てきたように見える。



 「少し顔色良くなった?」

 

 「しんどいのは変わらないけどな。終わりが近いと分かったからか、少し心にゆとりが出てきたのかも。」


 相変わらず身体はふらふらだけどね。

 私は喜納と身体を重ねるようになってから真秋の家に行く回数が減っていっていた。

 今では週一になっている。


 

 10月に入ってしばらく経った頃。ついに真秋の営業所では対策が全て終わったと連絡があった。

 特別手当と、休みを貰えるらしい。



 「これまで迷惑と心配をかけてごめんな。10月末にでも温泉旅行に行かないか?」


 私は「行く。」と即答した。

 その温泉話を貴志にすると、貴志達夫婦も旅行する事になったと聞いた。


 だから私達は同じ日の同じホテルに泊まるように計画を立てた。

 計画したのは貴志だけど、本当に大丈夫だろうか。

 見つかっても凄い偶然で片付けられるだろうか。


 情事さえ見られなければなんとでも言えると貴志は言ってるけど。

 香奈美ちゃんの娘は両親に預けるとの事だった。

 久しぶりに夫婦水入らずの旅行に行きたいと言ったら、両親が預かるとなったそうだ。


 これって……表向きはそれぞれのカップル・夫婦の温泉旅行だけど……


 端から見たら浮気旅行にな……るよね。

 でも真秋は勃たないし……仕方ないよね。



 しかし突然真秋から連絡が入る。

 旅行の3日前の事だ。


 突然勃起不全が治ったとの事だった。

 朝起きたら朝勃ちしていた、年甲斐もなく両手を上げて喜んでしまった……と。


 それでも私達がやることは変わらない。

 逆に言えば私は二人の男性を楽しめるのだ。

 一度で二度美味しい……


  

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