第6話 質疑応答は政治家のように曖昧ではいられない
青い顔をするともえは一時放っておいて、件の喜納貴志を見る。
一応ぷるぷるとして震えているのは確認出来るが詳細まではわからない。
「皆様正面をご覧ください。これから質疑応答の時間に移りたいと思います。」
この会場で何が凄いかっていうと、式場スタッフが仕事に忠実な事だ。
本来こういった事態はないだろうけど、一旦中断したり相談に来たりとあるはずだ。
それなのに、淡々と業務をこなしていく。
もしかすると、式場協力者が事情を話し、邪魔だけはしないで欲しいと言ってあるのかもしれない。
そうでなければスムーズに話は進まないはずだ。
「騒いだり暴力・暴言・モノの投げ入れは許可しませんので、その場合の損失は先に言った通りですのでご承知おきください。」
「それでは挙手制で一人1回までの質問として回答はこちら黄葉真秋君、または安堂ともえさん、場合によっては喜納貴志君が行うものとします。」
高橋がマイクを片手に熱弁を振るう。
それぞれの会社の人間には何の茶番や寸劇を魅せられているんだという感じであろう。
直接関係はないのだから……
いや、関係は大ありだな。事実を現実として受け止めるためには、どちらの会社も無関係とは言い難い。
「それでは親族席からお父様。どうぞ。」
いきなりそんなでかいところから攻めるか。じっくり吟味させてから意見を賜ればいいものを、と思ったがさっさと文句を言いたかったのだろう。
「真秋の父、
まずは自己紹介をする父親。そんな名前の由来なんてこの場の人はどうでも良い……と思ったけど興味深そうに目を輝かせている人物が数人いるな。
「先程流れていたものは全て本物であるのか?作られた偽物という事はないのでしょうか?」
「これに関しましては証拠集めをしました真秋君に答えていただきましょう。」
俺は渋々マイクを持って答える。
「只今ご紹介に預かりました黄葉真秋です。皆様には滑稽な新郎として映っている事と思います。それで質問への回答ですが、全て本物であり事実です。」
続けてこう答える。
「産婦人科で妊娠5ヶ月だと知らされて不貞を疑った後、興信所を使い浮上したのがあそこの彼ですが、もちろん興信所だけで証拠を集めたわけではありません。」
「彼らが利用していたホテルのオーナー及びご子息、警察に相談しホテルの映像を確認する許可を貰いその映像を確認。弁護士にも相談し自分のやってることが違法ではない事の確認。」
「医者や看護師、件の産婦人科で妊娠についての確認。宝飾店でも映像確認と、担当した店員からの印象も確認しております。」
「もちろん、その時の様子も、本人達には伝えてませんが映像と音声で残してあります。お互いに不義理にならないために。」
「それでも疑うなら生まれてくる子の血液とDNAを鑑定すればいい。俺はAOのA型、ともえはOOのO型だ。そして件の彼もOOのO型だ。以前に話してくれた内容が嘘でないならばですが。」
「病院でA型の子と入れ替えたとしても、DNA鑑定をすればすぐにばれることかと思いますけどね。」
会場内が騒ついていく。ここまで一気に話されるとはだれも思っていなかったのだろう。
ともえと貴志は青ざめたままガクガクと震え、ともえの親族も同じように震えている。
「それでは次に行きたいと思います。はい、新婦側のお父様どうぞ。」
渋々といった感じで手を挙げ指され、立ち上がる父親。
恐らくウチの父が質問したのだから次はそっちの父親の番だろという高橋の計らいだと思った。
「娘、ともえに聞きたい。これまでの事は全て事実か?お前は私達親兄弟までをも騙していたのか?」
普通に考えればそうなる。これで親までグルだったら鳴門海峡に沈めてやる。鳴門……遠すぎるけど。
高橋はどうせ持てないだろうとマイクをともえの口元に持って行った。
そこはスタンドマイクじゃね?というツッコミは高橋には効かないようだ。
「ひっ、ご、ごめんなさいごめんなさいい。騙すつもりじゃ……」
そう言って塞ぎ込むともえに高橋は追い打ちをかける。
「残念ですけど、それでは回答になってません。政治家じゃないんだから質問された事にはきちんとした回答を出さないと。学校や職場で教えられてますよね?」
随分辛辣だが、高橋もまた、当時付き合っていたけどHまでは行っていなかった彼女を喜納に寝取られた被害者なのだ。
もっともそれを機に高橋は別れたそうだが。
処女云々はともかく、他の男に心を奪われた時点でもう恋人関係は成立しないと高橋は潔く別れたそうだ。
その後元彼女は喜納に捨てられて戻ろうとしてきたようだけど、高橋には恋愛をする気力がなく1年は誰とも深い関りを持たなくなった。寄り添ってくれる人はいたけれど。
そりゃ辛辣にもなるよね。喜納関係ともなると。
直接の関りがなくとも、間接的には関りがあるのだから。
「ひぐっ、うぅ。じ、事実です。お腹の子は貴志との子です。ひぐゅっ、指輪の話も3年待つ話も、ずずっ、慰謝料ふんだくって離婚しようとしていたのも事実です。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
開き直って上から目線で言われるよりはマシだけど、泣いて済むと思うなよ。
「という事です。お父様。それでは次は……友人から
そして彼の彼女も喜納に奪われ処女を食い物にされ返品された過去を持つ。
佐竹の凄い所はそんな彼女を受け入れた事。人それぞれだからそこについて肯定も否定もしない。
ただ、喜納を許せないという思いはあるようだ。
「同じ名前のよしみで質問します。お二人は今でも互いを愛してますか?一番愛してますか?」
「ぐぐっと突いてきますねー。それでは真秋さんからどうぞ。」
俺は先の決別式で録音した音声を再生する。
「誓……いません。」
「この通り私は愛を誓っておりません。それはもう二度と彼女を愛する事がないという意思表示でもあります。」
「そうですか、貴方の闇も中々深そうですね。」
「いえいえお代官様こそ……」
などとボケツッコミをしている場合ではない。
会場がしらけてしまっている。
「それではともえさん、どうぞ。」
マイクを再び口元に持っていかれどうにか言葉を紡ぐ。
「わ、私は愛しています。出来る事ならきちんと謝って一緒にいだいぃです。」
その言葉を聞いたらここはこう答えるしかない。
「意義あり!!」
俺は手を挙げて発言権を得ようとした。
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