第5話 祝電という名の呪電

 「それでは皆さんご静粛に。以降司会であるわたくしは、仮想裁判官として進行させていただきます。どうか皆様ご静粛に。」


 「モノは投げないでくださいね。お腹の子には罪はありません。会場やほとんどの出席者にも罪や落ち度はありません。」


 「モノを投げで汚したり壊したりした場合、人物を特定して後日弁償額を請求する場合もございますのであしからず。」


 「なお、この場には警察官や弁護士もおりますので、取り乱さないようお願いいたします。」



 若年の警察官や弁護士にそこまでの知識も実力も権限も恐らくはない。

 ただ、相談して知恵を絞る事は出来る。

 今やってることはギリギリのラインである事は協力者達は理解している。


 それほどまでにあいつへの恨みは深いのだ。


 「それでは新郎新婦もどき、被害者と被疑者のご入場です。」


 俺とともえがお色直しして再入場すると、会場は……乾いた拍手が鳴り響いていた。


 俺は分かっていた事だからむしろ心地いいパラパラした拍手。

 ともえは何?何?どうしたの?という感じではあるが、その様子を出さないよう努めて入場してくる。


 俺の親族席からともえの親族席とともえを見る目がどうみても睨んでいるようで滑稽だ。

 大丈夫だ、俺が妊娠を知った時の喜んだ想い出も滑稽だからな。


 そして俺達は壇上の、裁判であれば裁判員席となる新郎新婦席へと腰を下ろした。


 場内の扉は本当に漏れる場合を除いて開けられないように鍵をかけてもらった。

 これは式場で働く同級生の協力あってのものだ。

 後で上司に怒られたらごめんね。


 

 「さて、会場にお座りのゲスト傍聴者の皆様、先程の映像はご覧になったかと思います。ここで祝電を承っておりますので、代表して一部拝読させていただきます。」


 司会こと裁判官……高橋は封を開いて祝電を読み上げる。


 「私が彼と出会ったのは高校1年で同じクラスになった時でした。夏休み前に告白しOKを貰い、夏休みで初デートと初接吻。夏祭りの日花火を見た後神社の裏で初めてを捧げました。」

 「夏休みの1/3は彼と会っていたと思います。でも夢は2学期が始まってすぐ終わりを告げました。彼には他にも数人彼女がいたのです。」

 「私と同じように身体の関係まで行っている彼女がその時点で最低でも3人はいたのです。」

 会場がざわめき始める。先程のビデオの時もであるが、スマホやビデオカメラで映像や音声を録画・録音している人もいる。


 「問い詰めた私は別れを切り出しました。その時突き飛ばされながら言われたセリフは『お前みたいな初物は貰うもん貰えば後はどうでも良かったんだよ。』でした。」

 「さらにこう続けました。『俺はお前のような女と100人する事を目指してるんだ。その道に非処女は邪魔でしょうがねぇ。だがチクったりしたらあの写真バラまくからな。』でした。」


 会場が一層ざわめき立っていった。この言葉が本当であれば脅迫罪が成立する恐れもある。

 なぜともえが俺の方を見ているのかわからないが……この悪逆非道な事を俺がしたとでも思っているのか?

 しかしそうか、あのクソ野郎は非処女に興味がなかったのか。だったらなんでともえを寝取ったんだ?


 それを明らかにするための暴露宴でもあるのだけれど。


 「その後、卒業するまでに、卒業してからも、何人が彼の毒牙に掛かったかははかり知れません。ですが、私は全ての犠牲者を代表して矢面に立って戦おうと決めました。」

 「一緒に戦いましょう、黄葉真秋もみじ・まさあき君。元〇〇高校同級生、峠野藍とうの・らん


 祝電とは言いつつも、今日の出席者にいるんだけどな。

 こういう場だから、本来の披露宴に乗っ取る必要もないと思っている。


 今紹介に預かった黄葉真秋というのは、この滑稽な新郎席に座っている俺の事である。

 

 「ではもう一つだけ読み上げさせていただきます。」

 語られた内容は先の峠野藍と同じような内容だった。彼女は1年下の下級生であり、部活の先輩と慕っていたのが恋心に発展し美味しく戴かれましたという寸法だ。

 やはり同じように数人との関係が発覚し、別れを切り出すと同じように捨て台詞を吐かれ別れたという事である。



 「それでは壇上の二人が何をしているかわからないと思いますので、これからもう一つ映像を流したいと思います。」



 そして巨大スクリーンに流れたのはとある指輪店。

 少しお高い、国際宝飾展にも参加している事で有名な宝飾店である。

 〇億のダイヤとかを出展していた過去もある。


 「なぁ、今はお前を予約という形でこんなものしか贈れないけど我慢してな。。」

 そこにある値札には0が6個着いている。その横に『2』の数字が書かれている。


 「わかったよ。これでもが用意した給料3ヶ月分のよりははるかに高いしね。充分だよ、貴志。」

 

 「まぁ名前も呼び合ってますし、高校時代のご友人方は分かってると思いますが、ここでモザイクを外させていただきます。」


 高橋がそう言うと、見るのも疲れるモザイク画面が段々と鮮明に人の顔になっていく。

 そこに映し出された男は……


 喜納貴志きとう・たかし


 クズ野郎であった。そして高校時代の者達は一斉に喜納貴志の方へと顔を向けた。

 この時のために本来結婚式で呼びたくもなかったこいつを呼んだのだ。

 決別式と暴露宴のために。


 一方俺の隣のともえは……青い顔をして震えていた。 

 

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