第3話 披露宴のビデオレター
披露宴は司会の進行にまかせ一般的なHPに掲載されているような内容で進められている。
ケーキ入刀なんかは、ともえの腹だと思って入刀してやった。
そのくらい俺の闇は深い。お腹の子自体には罪はないけど、こいつらのやった事は罪だ。
いや、正確に言えば結婚前なんだから不貞で裁く事は出来ないのだけど。
「それではお色直しの間、二人の想い出と馴れ初めについてのビデオを流しますのでご覧ください。」
ここからが復讐の始まりだ。
俺は一応形だけでもお色直しをする。
流石に黒いネクタイは勘弁してやる。
これでも幼馴染でもあったわけだからな。
実家も隣じゃ……な。近所の目もあるだろう。もう知らんがな。
一応独り立ちした俺のアパートに通い妻状態でともえは出入りをしていた。
形上は実家暮らし、週末と平日の幾日かを俺のアパートへと来ていた。
どちらにも知り合いはいる。実際あいつとの事がなければ周辺含めて良好だったのだ。
知らぬが仏とは言うが……知った以上は黙ってはいない、思い知れ。
ビデをた淡々と流れていく。
互いの両親が提供した写真や映像を元に、0歳から大雑把に流れていく。
高校に入った辺りで今の友人達提供の画像や映像元で作成されたものになっていく。
中学の卒業式の日、第二ボタンをくださいと言って来たともえの告白に返事する形で恋人になった。そのままともえの方から抱きつき、唇を重ねた。
教室に残っていた生徒から冷やかしという名の祝福を受けた。
あの時は自分から告白出来なかった事で情けないと思っていた……そんな時期もあったのだ。
春休みに入ると恋人としての初デート、というよりはデートか入学へ向けた準備かどちらかしかしていない。
そしてGWに初めて身体を重ねた。
あの頃は本当にお互いが好き過ぎて周りが見えていなかった。
周囲に揶揄われながらも、育んでいっていた。
そうしていくうちに周りにもカップルが乱立し……揶揄われる事もなくなった。
高校の半分が地元中学からの入学なのである程度互いが見知っている間柄というのもあったかもしれない。
あいつの噂は夏休み明けから出回り始めていた。
あいつは幼馴染と一緒にこの高校に通っていた。
入学した時には付き合っていたというのだから俺達と似たような幼馴染からの恋人という境遇であったが。
夏休みに別の女子と遊園地や夏祭りに二人っきりで、恋人同士のように過ごしていたという噂が出回る。
高校生という多感な時期だし、目移りしたりつい他の子と仲良くすることがないとは言えない。
ただ、あいつはどう見ても恋人として他の子らと接していた。
事実、他の子らはあいつと付き合っているという認識だった。
幼馴染の彼女の事は基本的には周囲に伏せられていた。
同じような境遇で恋人同士になっている自分たちにだけ、彼女からぽろっと漏らしたのを聞いただけなのだ。
他の生徒達で知っていた者は1年の時点で知っているものは少ない。
そんな噂が流れてからはあいつはとっかえひっかえ、3年の終わりまで続けていた。
幼馴染の彼女を公表したのは3年の中頃だった。
その後20歳で結婚しているのだからのらりくらりと色々育んだのだろう。
彼女の妊娠が発覚してから大人しくなったのは、法的な事を考えた時のリスクを考慮したのかも知れない。
たとえそういったゲスな考えでも、浮気や不貞をしないのであれば、彼女からすれば安心して子育てが出来るというもの。
事実、そういった話を聞いて、かつて煮え湯を飲まされた女子や、彼女を取られた男子もその胸の内に過去を押し込んだものだった。
そして映像はこれから盛り上がりを魅せる。
高校を卒業し、互いの職場での事が流れ終わると……
ともえの妊娠の様子が映し出される。
反吐が出そうなものであるが、この時妊娠3ヶ月を告げられた俺は泣いて喜んだものだ。
3ヶ月にしては大きいよな、この映像のともえのお腹は。
3ヶ月と言えば12週ないしは13週。
もう中絶するにも葬儀と死亡届と火葬が必要な時期である。
そして俺とともえが一緒に産婦人科へ行き、順調な旨を聞き先にともえが退出する映像が映し出される。
その後、俺が先生に対して質問をする。
「ともえの妊娠の状態は本当に順調なんですか?3ヶ月にしてはお腹が大きいような気がするのですが、もしかして双子か何かですか?」
という質問を。
先生の答えは残酷なものだった。
「いえ、奥様は妊娠まもなく6ヶ月ですよ。ちょうど24週目ですね。」
「出産前検査や、MITP検査も先日受けてますし、結果が出たらすぐお知らせしますね。」
この映像が流れた時、会場内の騒めきは歓談からざわざわしたものへと変わっていった。
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