暴露した結婚式と披露宴

第1話 愛する事を誓いますか?……誓……いません。

 ―――妻、ともえを愛する事を誓いますか?

 「誓……いません。」

 後半を早口で聞き取れない程小さな声で、愛を誓わなかった俺の言葉。

 目の前の彼女もお腹の子供が気になるのか、聞き取れていない。

 ただ、襟元に隠してセットしてあるピンマイクは、俺の声をばっちり収音しているはずだ。

 誰も気にせずバイトの牧師も気にせず先へ進める。

 場内はもっとはっきり答えろよと思ったに違いない。


 元々結婚式の誓いで愛を誓わないカップルなどいないのだから、形骸的にさくさく進んで当然である。

 妻(仮)となる彼女は、牧師の愛を誓いますか?の問いにはっきりと大きな声で「誓います」と答えた。

 その様子を見ればとても幸せそうに微笑みながら、うっすら笑みを浮かべている表情からは彼……つまり俺を愛してる事は容易に見て取れる。


 だけど俺は知っている。

 たとえ俺を愛していても、愛というものは上には上が存在する事を。

 最も、自分自身以外の一番に、愛している事を誓いますか?という問いかけではない。

 牧師の問いに対する返答としては彼女は嘘は言っていない。


 だけど俺は知っている。

 彼女は……こいつは……ともえは……俺よりも愛している男がいる事を。

 お腹の子が俺ではなく、そいつとの子である事を……俺は知っている。


 この結婚式は、披露宴は、結び付けるための儀式ではない。

 永遠の決別を望む、俺からの決別式だ。


 これだけの人がいるのだ。

 俺の決別は認められるはずだ。

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