さけてはとおれない
私はプールの底に棲んでいる。
ずっと長い間。もうどのくらいになるだろう。とにかく長かった。
ここに棲み始めたときは、どこもじめじめしていて、私のとろりとした身体中を足の多い虫がよく這い回っていた。嫌らしい感触が私をみじめにさせた。
ここに私がいることに誰も気がつかなかった。
生きていたことを誰も気づかなかったように。
悲しくてドロドロになった。
長い間。
成長してゆく子どもたちをそばで眺めていた。ただ眺めていた。
何にでもなれるのに逃げてばかりの少年を見かけると腹が立った。恨めしかった。うらやましかった。
でも乾きゆく中で悲しみや悔しさが消えゆくのを感じた。感じられること自体が愛おしくなっていった。
今、私は真っ白に乾いている。
お気に入りのワンピースすらサラサラと変化し私になった。
このまま自然の一部になれると思っていた。
だが、永遠へと続く浅い眠りを、あの男が妨げた。
現れた。
私を終わらせたあの男を、私は忘れたことがなかった。姿を現さないことで、私の存在にも意味があったのだと思っていたのに。
だが、あいつは性懲りもなく現れた。
あの公園で弱いものを狙っている。私にしたように。
私は軽くなったこの身体を風に乗せて、あいつに会いにいくことに決めた。
最後の力を振り絞って。
私の悲しみを、悔しさを、愛をすべて込めて。
誰にも気づかれなくていい。
だが、あいつだけには私らの存在を、私に意味があったのだとわからせなくてはいけない。
会いに行く。
ここの木々は、土は、罪を隠す。
それはよくわかっているはずだから。
避けては通れない道 @takahashinao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます