第966話 伯爵ロイヒェン

「ロイヒェン伯爵、この度の魔物氾濫に対しては、派閥の垣根を一旦忘れて貰えないかな」

今回のアンデッドのスタンピードが発生している森を領地に持つ伯爵、デブラート・フォン・ロイヒェン伯爵に対して、皇帝アウレアス・ジーモント・レーベルクが話しかける。

「後継なきまま亡くなられた今代も含めた歴代の皇帝陛下から我がロイヒェン家が任されていた領地において、皇子殿下は軍隊活動を行うということですかな」

「伯爵!!無礼であるぞ!今代はこのアウレアス陛下である!」

「将軍、良いのだ。今は礼儀よりも領民の命が優先である」

「さすが銀龍の尻に敷かれている皇子ということですかな」

「ロイヒェン!!」

「誘いに乗るな、将軍。陛下はご認識されているように、伯爵はわざと手打ちになりたいのだよ。魔物氾濫を起こしての領地運営失敗であると皇弟派の不利になりえる事実ではなく、皇帝が感情に任せて手打ちにしたという事実で皇弟派に貢献しようとしているのだよ」


意図が読まれていた伯爵は、今度は無言を貫く。せめてもの抵抗で、伯爵として承認はせず皇帝が勝手にやったという体にするためであろう。

「武でならした帝国が領民を魔物から守ることもできず、他国軍に頼ることを選ぶというのか、武闘派と称する者達は・・・」

宰相のわざとらしい独り言に伯爵は体がピクッと反応するが結局発言はしない。



サラ達は貴族のつまらないプライドのために領民の命を蔑ろにする伯爵の行動が理解できない。しかし、勝手な軍事行動と取られる大人数での魔物討伐をすると国家間の問題になることだけは頭では理解しているため、皇帝や宰相が決着をつけるのを歯痒く待っている。

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