第933話 侯爵領赴任行脚

着任当初は移動や挨拶が主であった。

領都にいる領軍への閲兵式、領都の主な神官、商会、住民代表達との挨拶等も実施する。


私邸部分では王都の本宅、副都・代官地の別宅それぞれへの転移陣も早速作成し、王都に残ることになったリリー達も様子見に訪れたり、料理人同士での情報交換等も実施したりして貰った。


そしてそれらも落ち着いた後は、事前に領都で用意していた、各精霊や知識・魔法の女神のミネルバと天使マルカルロの祠も設置する場所にて炊き出しと治療を開始する。サラはここでも孤児院を併設するつもりであるが、まずは、である。

設置したのは一般街区であるため、困っている住民が多いはずの貧民街にまずは赴く。そこで治療や炊き出しを開始する。ターフルダ侯爵家時代も炊き出しはあったが、あくまでも神殿に足を運んだ人への施しであり、回復魔法が使える者や回復魔法薬も潤沢ではなかった。そのため、まずは理解を得ることが難しいと思われたが、新しい領主自ら足を運んで治療にあたっているという珍しさからも人を集めることはできた。

その上で、四肢欠損まで治せる≪神回復≫や≪病治癒≫で怪我人や病人が目の前で次々と回復するのがみられるのである。すぐに話は広まり人が集まってきて収拾がつかない状態になりかけるが、ハリーたち騎士団が警備も兼ねた交通整理を行うことで、混乱は回避することができた。

「今後も定期的に実施するから」

と新たな祠の土地を宣伝して解散する頃には、ドラセム家への感謝があちこちでささやかれるようになった。

もちろん、何事にもそれを好ましく思わない者が居るものであるが、事前に神官たちには話を通してあり、今後は各神殿への回復魔法の伝授や炊き出しへの補助もすること、孤児院運営などの協力依頼なども話してあるので、そちらへの悪影響はある程度抑えられている。


逆に

「俺は怪我で引退した冒険者だ。ぜひ何かに役立ちたい」

「俺は退役軍人だ。何かやれることはないか?」

という声も多く、現役復帰へのリハビリ指導や、経験者としての若手指導員への採用等、再就職の世話により貧民街の住民の減少を検討することになった。

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