第808話 不穏噂

1ヶ月ほど、寄子の指導や滞っていた魔法回復薬の調合、スクロール作成などを行って過ごしている中で、トリストフの40歳の誕生日もあった。

皆でお祝いをしている中で、爆弾発言があった。

「サラ様、ここにいるカロルとの結婚の許可をお願いします」

ともに元暗殺者ギルドで高位の魔法使いであった2人は何かと一緒の仕事を頼むことも多く、夫婦役を演じて貰うこともあるなど、ほぼ年中一緒にいたのである。10代以下の若い者が多い家臣団の中で数少ない大人の男女というのもあったのであろう。

当然に否定する物ではなく皆で祝福したのであるが、下火になっていたサラ自身の結婚ネタを再燃させることになったことは恨めしい。


同じく家臣団の奴隷同士と言えば、元々夫婦であったデュドニとガエルは、奴隷になった後2人目の子供である長男クシミールを、アルメルス神国騒動の間に出産していた。

何かのきっかけで犯罪奴隷になった家臣が多い中で幸せをつかんで行く者が増えるのは喜ばしい。成人した者、これから成人する者も増えて行く中、良い環境を作ることを当主として改めて誓うサラであった。



そのような幸せな話にわいている王都ワーズの仲間たちに不穏な噂がもたらされる。

ガーライト王国の王都ムリンでの水精霊シルビーの祠に置かれた報告書である。

海軍、その中でも私掠を許可されていた船が消息を絶っているというのである。王都ムリンで噂になるということは、港町とは距離があるので情報として少し古い。


急ぎ港町ホーマに≪転移≫してミケラルド商会メンバに確認するとその噂があること自体は本当らしい。王都ムリンで国王アルミーノに面会し、港町ホーマでの情報も伝えながら真偽を確認する。

「そういう噂があること自体は本当だ。ホーマを含めたあちこちの港町で、帰ってこない奴らがいるらしい。ただ、結構な食料を積み込んで行ったという裏も取れている」

「どういうことですか?」

「もともとアルメルス神国と戦争中のときには神国の船を狙って、実質の海賊行為である私掠を許していた奴らが、もう神国の船を襲えなくなったからな。戦争が無くなったから大人しくして置けといっても聞く奴らではない」

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