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「ぬぎぎぎぎぎ…!そろそろ…限界っ!」

「もももももうムリ…!装備は出来ても、ステータスがとことん低いのが【鍛冶師】の難点でして…!」



雷球の勢いに押され…遂に二人は弾き飛ばされる!



「ぐわっ!!」

「うごぉぅっ!!」



球体は形を失い、激しい稲妻と衝撃波が周囲に放たれる!

大きく飛ばされたが二人とも無事だ…よく防ぎきってくれた!



「常に黒髪の魔導士の正面に盾を構えて目を離すな!槍使いの方は気にしなくていい!」


「分かった!」

「らじゃっ!」



した俺は駆け出しながら、二人に指示を飛ばす。俺の向かう先は…ナリヤ!



「っ…ナメんな!!」



稲光に目が眩み、反応が遅れたナリヤは…それでも俺に突きを放ってきた。…視えてるよ!



「は!?…だぁ!?」



俺は苦し紛れに突き出された槍を両手で掴み…力の限り引き寄せる!



「うおっ!!」



俺に引っ張られ、不意の事に体勢を崩すナリヤ。そのまま懐に潜り込み…



「【一点打突ピンショット】!!」



ナリヤの鳩尾みぞおちに、俺は拳低打ちを叩き込んだ!



「ごっ…はぁっ!!」



ナリヤは大きく吹き飛び、背面の大木に激突。…良いダメージ入ったな。



「ナリヤ!!」



フリッツが慌てて俺に狙いを定めるが…



「させるか!」

「堅守!…堅守ですぜ!!」


「く…」



ラグとナノンが大盾を構えて立ち塞がる。良いぞ…助かる!



「背中は任せるよ…二人とも」


「!…あぁ!任された!」


「おぉう…なんか仲間パーティっぽいやり取り…ボクちょっと泣きそ…」



背中越しに二人に声をかける。少しの間、フリッツの攻撃を抑えてくれればそれで良い。俺は…なるべく早く槍使いを…



「くそ…どうなってやがる……オマエ、“剣士”だったよな?…なんだよ?【拳闘士ストライカー】って…なんの手品だオイ」



ナリヤがふらふらと立ち上がりながら俺を睨む。



「………」


「ちっ…ダンマリかよ」



拳闘士ストライカー】…バトスさんとの修行中、クランツの地下ダンジョンで手に入れた新しいジョブ。武具は使わず、己の肉体と格闘術を武器とするジョブ。素早い動きと手数で圧倒するタイプのジョブだが…【拳闘士】は防御、回避系のスキルが多い点も、俺の戦術にさらなる幅を与えてくれた。



「…ふっ!」



相手が動揺している内に…押し切る!!

俺は再びナリヤに向かって駆ける!



「!!」



刹那…真横から飛来した“殺気”…ヤバイ!



「【水断月ルナミナ】!!」

「っ!!」



突如俺の真横に躍り出た蒼髪を振り乱す女剣士…アリシアさん!

アリシアさんが身を捻りながらロングソードう振るう!…いや、そこじゃ届かな…!?


斬撃が…伸び…!!



「【空蝉うつせみ】!」



俺は咄嗟にスキルを発動。アリシアさんのロングソードから放たれた斬撃…否、水の刃は俺の身体を捉えたかに思われたが…



「おぉー!ナギ君すっごーい!!…ホントに強くなってるね!」



俺を両断したかに思われた水の刃は、俺の身体をすり抜け、その先の大木を切り倒した!…なんつー切れ味!危なかった…


“拳闘士”のスキル【空蝉】…高速の緊急回避スキル。残像を生むほどの高速のバックステップ…タネを明かせば単純な、しかしシンプル故にかなり便利なスキルだ。とはいえ…



「それだけ強いなら格下扱いするのは失礼だよね!…ナリヤ、交代!ナギ君とは私が戦う‼」


「馬鹿言うな…そいつの能力は明らかにおかしい!…油断せず、二人で一気に沈めるぞ!」



そうなると話が違ってくるんだよなぁ…。ナリヤ一人でも相当な実力者だ…加えてアリシアさんは【水龍剣士ルエスパーダ】とかいう謎のAランクジョブ……ラグとナノンの方も長くは放っておけない…どうする?


ナリヤと共に、アリシアさんが嬉々とした表情でじりじりと距離を詰めてくる。…意外と好戦的な性格なんですね…アリシアさん。



『マスター』



あぁ、そろそろ手詰まりだ…をやるぞ、アド。



『了解しました。まで2分30秒…』



2分半…凌げるか?…

俺は深く息を吐き、集中し、バトスさんとの修行を思い出す。…“気”を読め…全体を把握しろ…戦場を……掌握しろ!!


俺、ナリヤ、アリシアさんの三人が一斉に動いた。

襲い来る剣と槍…俺は【上級剣士】と【拳闘士】を交互に切り替えながら、攻撃を捌いていく。


大丈夫…なんとか凌げる……なんだ?…この“気配”は!…





一方、ラグとナノンはフリッツと対峙。

二人で大盾を構え、行く手を遮る。



「…全く、嘗められたもんですね。そんな盾一つで防ぎ切れるとでも?」


「無理…だろうな。でもナギの為に時間が稼げりゃ充分だ!」


「“そんな盾”とは失礼な!ボクの芸術作品を~!!」


「…“弱い者いじめ”は性に合いませんが……仕方ありませんね」


「「なんだとぅ!?」」



フリッツは溜息をひとつ、片手間に手を上空へ掲げる。



「道を空けて頂きましょう…【超重圧ジオプレス】」


「!!…ラグちん!上!!」



ラグとナノンの頭上に、紫色の魔法陣が出現。その魔法陣が強い光を帯びる。



「上からの攻撃か!!」


「おりゃあああぁぁぁあ!」



二人がかり、渾身の力で盾を上空に向ける…次の瞬間。



「ぐっ!?」

「うっ!!」



震えるような重低音が響き、ラグとナノンが膝を折る。



「ラ…グちん…か、身体が…重いですがあぁぁぁ!?」


「重力魔法かよ!…ふっ……ざけっ…!!」


「終わりにしましょう」



強烈な重力に身動きが取れない二人に向かって、フリッツは杖を突き出した。






息つく間もない、嵐のような攻防。ナリヤとアリシアさんの攻撃を皮一枚で防ぎ続ける。このままだと押し切られる…ラグ達の方もヤバそうだ…でも…


…!



「ホンットに凄いねナギ君!やっぱり“十字架ウチ”に入ろうよ!!」


「戦闘中に勧誘してんじゃねぇ!アリシア!」



アリシアさんの剣を蹴り上げ軌道を逸らし、突き出された槍を剣で弾く……来い!…



『準備完了まで1分…』


だ!アド!


『!?…よろしいのですか?』


大丈夫だ!…もう……



「いい加減…折れろや!!」



ナリヤが槍を振り上げる!…ここだ!!



「“配置交代スイッチ”だ!!」



俺は声を張り上げる。



「は?スイッチ?…あの二人なら動けそうにないぜ!?」



槍を手に迫るナリヤを尻目に、俺はラグとナノンの元に駆け出す。



「諦めたなら…そう言えや!!」



俺の背中に向かってナリヤが刺突を放つ!…が



「ナリヤ!!ストップ!!」


「どらあぁぁぁああ!!!」

「ぐあぁっ!?」



突如、脇から走り幅跳びよろしく飛び出してきたその男は、炎を纏った大剣を横薙ぎに一閃。不意を突かれたナリヤは強烈な一撃を浴び、大きく弾き飛ばされる!



「オレ…参上!!!」



明るい茶髪…それ以上に明るい笑みを浮かべ…



マイルは決めポーズと共に着地した。

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