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「…アリシアさん!?」


「おぉぉぉお!ナギ君!やっぱり参加してたんだねー!!」



アリシアさんが一気に警戒を解き、ロングソードを握る手を緩める。えーと…どうしよう、一応この人も競争相手ってことにはなるんだけど…。



「くっそ…あぶねー、良いタイミングで撃ってきやがる!」


「気取られたか、奇襲は失敗。気を抜くなナリヤ…手強いぞ」


「りょーかい…」



…無傷かよ。こっちの二人も結構な手練れだな…どうしたものか。

俺が魔法で迎撃した二人の男が、警戒の色を強めながら近づいてくる。一人は見覚えがある…アリシアさんと初めて会った時にセンターギルドで顔を見た。名前はナリヤ…明るい茶髪で多少粗野な印象を受ける顔立ち…ステータスは当たり前だが視えないか…。狼を思わせるファーコートにレザーアーマー、得物は“十文字槍クロススピア”。恐らく近接戦闘タイプだが、槍のリーチには注意が要る。それに…



「アリシアと共に挟撃しろ…遠隔から私が仕留める」



ナリヤに支持を出しながら杖を構える男。プレイヤー名“フリッツ”…黒い長髪に中性的な顔立ち。黒を基調とし、金の刺繡が入った重厚感のあるロングローブに、純白の“長杖スタッフ”…明らかに魔法系統のジョブ…。まっずいなぁ、この三人…遠近距離、魔法に物理とバランスの取れたパーティになってる。三人とも“革命の十字架ロザリオ”の相当な実力者…。流石に俺一人でどうにかなるような盤面じゃ…



「ちょっとちょっと!二人ともストーップ!!」


「!!」


「あ!?…んだよアリシア!?」



俺との距離をにじり寄るように詰めてきていたナリヤとフリッツの前に、アリシアさんが両手を広げて立ちはだかる。



「…何のマネだ?アリシア」


「ナギ君はダメ!私のお気に入りだから!」


「「…は?」」



いや、そらそーなるわ。ナリヤとフリッツの前に躍り出て仁王立ちのアリシアさん。なんだか妙な空気になってきたぞ…いや、有難いんだけど。



「…何訳わかんねぇこと言ってんだアリシア!どけ!!」


「今回のイベントには相応の準備を進めて挑んでいるんだ。今は他ギルドのプレイヤーとの慣れ合いは捨てろ、アリシア」


「だーかーら!、見逃してあげてよ!!」


「何でだよ!?」



何やら言い合いを始める“十字架”の三人。…チャンス、だよな?



「ラグ、ナノン…下がって…」



ラグとナノンに小声で指示を出し、二人は直ぐに距離を取る。あわよくば俺もこのまま…



「…今回のイベントの勝利者は上位8名。“革命の十字架われわれ”は12名で参加している…他ギルドと手を組む余地はない」


「いやだから!今は嫌なの!!ナギ君達と戦うならもっと最後の方で戦いたいの!!」


「なんっだそのクソ馬鹿ワガママはぁぁああ!?大体テメェはいつもいつも自由過ぎん……って逃がすわけねぇだろヒヨッコォ!!」



まー、そんな簡単に逃げられるわけないよね。音を立てず静かに後退していた俺に気付き、ナリヤがアリシアさんを制止をかわし突っ込んでくる。



「あ!ちょっとナリヤー!」


「こっちも本気ガチでやってんだ!悪いがここで敗北オちとけや!!」



ナリヤの放つ鋭い突きを、俺は剣で受ける。強い衝撃が伝わり、身体が流れる。続け様に襲ってくるナリヤの連撃。



「くっ!」



やっぱその辺のプレイヤーとは違う…動きに無駄が無く、正確で鋭い…でも…



「へぇ…やるな、オマエ。ますます見逃せねぇなァ…コリャぁ」


「すみません…こっちも負けられない理由があるので…」



ナリヤの連撃を弾き返し、距離を取る。ラグ達は…上手く姿を眩ませたみたいだな…とは言え……。



「…どーっすかな」


『マスター、高位の【隠蔽】スキルにより、敵プレイヤーの解析に時間が掛かります。数的不利も鑑みて、ここは逃走をお勧めしますが…』



アドが頭の中で進言。まぁ…逃げられるなら、ね。



『では…“アレ”を使いますか?」


…いや、ソレは最終手段かな。とりあえずは…足掻くぞ!


『はい、マスター』



瞬間、ナリヤが再び距離を詰めてくる!

振り下ろされた刃を右に避け、俺もナリヤへと向かって踏み込む!

ながものは懐に入ってしまえばこちらに分がある!



「させっかよ!!」


「っと!」



しかしナリヤも退かず、弾丸のような連続突きで俺を狙う。俺も応戦し、その連撃をことごとく防ぐ、が…そう簡単に間合いに入れてはくれないか。



「おぉー!!ナギ君やるなぁ!!」



アリシアさんが感嘆の声を漏らす。いや…けっこーマズイ状況なんですけどね、今。



「そのまま抑えてろ、ナリヤ」


「おう!!」



フリッツが杖を突き出す。ナリヤの攻撃は更に激しさを増し、俺をその場に張り付けにする。マズイ!!



「【雷光球クーゲルブリッツ】!」

「【瞬進斬】!」



俺とフリッツが同時にスキルを発動。

フリッツの杖の先から、直径1m程の電気を帯びた光球体が出現!

対する俺も【瞬進斬】で半ば強引にその場から逃れようとするが…



「逃がさねぇよっ!!」

「なっ!?」



ナリヤの槍が、俺の肩を捉えた!

一瞬、瞬進斬で加速した身体が急停止すると共に、鈍い痛みが走る!

しまった!スキルがキャンセルされた!…迫りくる光球…ナリヤはすぐさまその場を離脱…体勢を崩された俺は…


避けられない!


そんな考えが頭を過ぎった…その時



「「どりゃあああぁぁぁあ!!」」

「!!」



木陰からラグとナノンが飛び出した!

二人の身体が余裕で隠せるほどの大盾を担ぎ、俺とフリッツの間に割って入る!



「「ふぐぉぉおおおおおおおぉ!!」」



フリッツから放たれた雷球を異様な程に大きい盾で受け、その盾をラグとナノン二人がかりで支えている。二人が支える大盾に衝突した光球は眩い稲光をまき散らす!



「な…んで?」


「だああぁぁあ!…確かにオレは弱っちいザコのプレイヤーかもしれないが…助けてくれた恩人を見捨てて逃げるようなクズにはならねぇ!!」


「フフフフフっ!…みみみ視てくだせぇ!この大盾!ボクが作ったのです!14号“MMマじマもるくん”!【鍛冶師】の良い所はどんな武具も装備可能なところでして…」



雷の光球と拮抗する大盾を支えながら、叫ぶように声を張り上げるラグと、早口でまくし立てるナノン。弾けるような雷光が辺りを強烈に照らしている…これは…



「…ありがとう!二人とも!」



…チャンスだ!



「【異能転化オーバーライト】…」



さぁ、反撃だ!

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