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俺、ラグ、ナノンの三人は木々の間を縫うように北上を続ける。



「クランツに拠点を置いてる有力ギルドとして、まず真っ先に名前が挙がるのは“革命の十字架ロザリオ”だな」


「うんうん!“十字架”のギルドマスターは、部下からの信頼も厚くて統率の取れたギルドだって聞くよね!」


「しかもそのギルマス…Sランクの超激レアジョブで、化物みたいに強いって話だ。その団長の下につく11人の幹部たちも精鋭揃いで、クランツのNo.1ギルドだって評判だ…今回のイベントは幹部クラス全員が出場してるって噂だぜ?」


「…なるほど」



ラグ、ナノンと臨時のパーティを結成し、まず二人にやってもらったことは“情報提供”。二人は俺達が始めるより一月程早く、ニューワールドのプレイヤーになったのだという。この世界の時間では既に半年以上過ごしているんだとか。ニューワールドにログインしてまだ日が浅い俺達よりは、ずっとこの世界やギルドの情報に詳しいはず。



「…まあボクとしては、“十字架”より“鋳薔薇の女王クイーンローズ”や“土竜夜盗団アンダーレイド”の方が怖いけどね」


「まぁなー、あいつ等は積極的にPKも行う…所謂“過激派ギルド”。こういうPvP形式のイベントなんかじゃ、真っ先に警戒すべきギルドだろうしな」


「!…その過激派ギルドについて知っていることを教えて欲しい」


「ん?おぉ…」



過激派ギルド…特に“鋳薔薇の女王”に関しては、軽いもあるしな。敵となり得るギルドの戦力は出来るだけ把握しておきたい。



「まず“鋳薔薇の女王”だが…ここ最近で急激に勢力を拡大してきたギルドだ。敵対勢力相手に、結構無茶な抗争も続けてたそうだ。敵対ギルドを潰して傘下に加えたり…とかな」


「噂では“鋳薔薇の女王”のギルマスもSランクのジョブだって聞くけどねぇ…なかなか詳しい話は出てこないんだよねーこれが」



ナノンがポリポリと頭を掻きながら言った。



「それだけ派手に活動しているのに、ギルドマスターの情報が少ないのはどうしてなんだ?」


「“鋳薔薇の女王”には…おっそろしいがいるんだよ、ナギちん」


「番犬?…」


「あぁ…“鋳薔薇の女王クイーンローズ”のNo.2、女王を守る番犬…



!…上位ランキングで見かけた名前だ。過激な戦闘集団のNo.2か…かなりの実力者なのだろうが…。



「噂じゃ、“革命の十字架”のギルマスともタメ張れるくらいの実力者っつー話で…有名なのはだな」


「クエスード事件?…」


「クランツ王国の端にクエスードっていう寂れた土地があるんだが、そこで大規模なギルド抗争が起こったんだ。当時、凄い勢いで勢力を拡大していた“鋳薔薇の女王”を潰すために、3つのギルドが手を組んだんだ」


「3ギルドの連合を相手に、“鋳薔薇の女王”が送り込んだのは…なんとたったの一人……それが、カイルだったんだよ」


「連合側はその時総勢50人程の兵隊がいたんだが…それを番犬が一人で返り討ちにしたっていう大事件。その一件以来、“鋳薔薇の女王”にたて突こうって連中はほとんどいなくなったな」


「その激つよつよマンの番犬さんの陰に隠れて、女王様はあまり表舞台に出てこないんだよねー」


「な…」



50人相手に一人!?…いやいやどんだけだよ。ガザックとの一件で、そんな連中と敵対していると考えると、背筋が寒くなるのを感じた。



「でも、警戒すべきは“鋳薔薇の女王”だけじゃねぇ…“土竜夜盗団アンダーレイド”も相当やべぇ」


「土竜夜盗団…」



先程、一戦交えた連中か…。俺が倒した二人は大したことなかったが、おそらく下っ端だろうな。



「“土竜夜盗団”は過激派の中でも異端…PKのギルドだ。センターギルドからの依頼はほとんど受けず、プレイヤーを襲っては金品を奪っていく事を生業にしてる奴らだ」


「なるほど…対人戦に関してはプロフェッショナルってことか…」


「そこのボスも、かなーりアブナイ奴って噂だよ」


「“鋳薔薇の女王”は、ギルドをデカくするためなら何でもやる過激派って感じだが…“土竜夜盗団”は裏稼業に徹してる、暗殺集団ってイメージだな」


「“土竜夜盗団”に目を付けられて、潰されたギルドも多いって話だよ…うぅ、怖っ」



流石に競争相手の層が厚いな…。俺達は人数も圧倒的に少ないが…今回の“バトルロイヤル”という形式のルールなら、割り込む余地は充分にある。



「まぁ他にも実力のあるギルドは沢山あるし、どこも精鋭を出場させてるはず…」

「静かにっ!」



俺は二人の話を遮り、立ち止まる。…何か来る!



「………」


「おい…どうしたんだ?」



左から気配が三つ…物凄い勢いで近づいてくる。完全に俺達目掛けて来てるな…俺達の存在はバレてる。……マズイな、この“気”の感じは…多分強い。逃げようにも、ラグとナノンを守りながらとなると……仕方ない。



「下がれ!」



俺はラグとナノンを背後に廻し、【上級魔導士】にスタイルチェンジ。背中の黒羽の剣が消失し、代わりに両手に“魔法師の手袋グローブ”が装備される。



「【サンダースピア】…」



両手の手袋グローブが発光し、帯電。俺は木の陰から飛び出してきた二つの陰に向かって魔法を放つ!



「うおっ!?」

「ちっ!」



俺の両の掌から弾けるような閃光と共に放たれた雷の槍。落雷のような轟音を響かせ、躍り出た二つの影を迎撃!


二つの影が動きを止める。



「ナギちん!!もう一人来た!!」



…が、その二つの影の間から遅れて飛び出してきたもう一人の影。ナノンが叫ぶよりも速く、俺は【上級剣士】にスタイルチェンジし剣を抜き放ち、迎え撃つ。



「おりゃあぁぁああ!!」



飛び出してきた影が振るうのは、銀に輝くロングソード。垂直に振り下ろされる刃を俺は黒羽の剣で受け止める!



「くっ!」



派手に響く金属音、重たい衝撃が身体に伝わる。一太刀で分かる…コイツは、簡単な相手じゃないぞ。俺は衝撃を受け流しながら距離を取り、相手の姿を確認。


青い髪をなびかせ、剣を構え直す女性…え?



「…あっれ!?ナギ君!?」



華奢な身体に不釣り合いなロングソードを構えたアリシアさんが驚いた表情で声を上げた。


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