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「なんだコイツ!?…今、ジョブが…変わった?…」
無数の矢を受けた男が光となって消えていく。他の男達は茫然としている…考える間を与えるな!
「【
ジョブを“上級剣士”に切り替え、スキルを発動。間を置かずに一番近くにいた男に斬りかかる。
「なっ!!」
「【
「うぐああぁ!!……クソッタレが!!【
七連撃がクリーンヒット!…男はすぐに体勢を立て直し、持っていた剣で反撃するが…
「【黒鉄流し】…」
「ぎゃああっ…」
カウンターの【黒鉄流し】が決まり、男は消滅。…いいぞ、“気”を込めたスキルでの攻撃。以前とは威力が桁違いだ。さて…
「…あと二人」
俺は剣を構え、残った二人に向き直る。ここまででかなりスキルを消費した…クールタイムを消化するまで……次は“上級魔術師”あたりで攻めるか?
「このガキがっ!!…」
「待て」
「!…」
青筋を立てた男が、背中の斧に手を掛けたとき、もう一人の男がそれを制する。
「……退くぞ」
「はっ!?やられっぱなしでいいのかよ!?」
「今回のイベントは、俺達が楽しむために来たわけじゃねぇだろ…このガキの能力は得体が知れねぇ…。今は“
「…っ!…わかったよ」
諫められた男は、渋々というように斧の握りから手を放す。
「…行くぞ」
「ツラと名前覚えたからな……覚えてろよ、ガキ」
二人の男は踵を返し、走り去っていく。…深追いするべきではないな。“
「ほえぇぇぇ~…」
「あ、アンタ…すげぇな」
振り返ると、地に腰を落としたままの男女が、俺を見上げていた。
「あ…えーっと……」
さて、どうしたものか。勢いでこの二人を助けた形になっちゃったが…イベント参加者である以上、この場では一応この二人は競い合う敵…になるわけなんだが。
「あー…」
「…良いんだ!…気にせずやってくれ!!」
「えちょっ!…ラグちん!?」
ヘアバンドの男が観念したかのように、顔を伏せ声を上げる。俺は再び二人のステータスを確認する。レベル21の“料理人”…プレイヤー名はラグ。
「良いんだ!…やっぱりオレらみたいな“はずれジョブ”じゃ、イベントで勝ち残るなんて無理だった。それにさっきの“土竜夜盗団”の連中…スカッとしたぜ!ありがとうな、兄ちゃん!」
「いや…あの…えっと」
「今回はさっきの連中の慌てた顔が見れただけでも満足だ!それにアンタに倒されるなら納得できる!…兄ちゃん、ひとおもいにやってくれ!!」
「………」
いや、やりにくいわ。というかこの二人を倒してポイント稼ぐ気はないんだが…。
「えぇぇぇぇええ!?ヤダああぁぁぁああ!!どうか見逃してくだせぇ!アニキぃ!!」
ラグの隣の少女が声を上げ、見事なまでの土下座。何度も頭を上げては下げを繰り返し、懇願してくる。少女の動きに合わせ、薄紫の髪がふわふわと跳ねる。…レベル23の“鍛冶師”…プレイヤーネームはナノン。
「いや…だから、二人をPKする気はないというか…」
「えっ!!?ホントぉ!?」
「うぇっマジか!?」
食い気味に驚きの声を上げるラグとナノン。
「なんて器の広いお方!!感動しましたぜぇアニキぃ!」
調子のいいことを言って喜ぶナノン。あれ?…なんかこの子、どこかで……。
「良いのか?…オレ達をPKしとけば、楽に2000ポイント稼げるのに…」
「いやぁ…偶然助けた形になりましたけど…これも何かの縁といいますか…そんな土下座されたら斬れないといいますか…」
「良い人だあぁぁぁああ!聖者だ仏だ神だあぁぁぁああ!うわあああぁぁぁぁあ!!」
大袈裟に泣くナノン。なんか変な子だなー…良い人達ではあるみたいだけど。
「…ありがとう!オレはラグだ、よろしく」
「あ、ナギといいます」
俺は差し出されたラグの手を握り返す。
「ボクはナノン!ナノちんって呼んでね、ナギちん!」
握手を交わす俺とラグの手を覆うように両手を重ねてくるナノン。さっきまで大泣きしていたのが噓のような晴れやかな笑顔を向けてくる。
「ナギちんのギルド…“WBF”?……聞かない名前だねぇ」
ナノンが俺のステータスを見ながら呟く。
「おい…失礼なこと言うなよ、オマエ…」
「あはは…取り敢えず、場所を変えませんか?ここは目立ちます…」
俺はラグ、ナノンと共に草原を足早に歩きだした。
♦
その頃…
島の中央付近 湖畔
「ぐ………なんて強さだ…」
湖を背に、逃げ場がない状況で複数人のプレイヤーと対峙する一人の男。身の丈ほどもある大剣を肩に掛け、必要最低限のレザーアーマー装備から覗く筋肉質な体躯。獰猛な肉食獣を思わせる…重く、鋭い眼光。ライオンの
「…ねぇカイル……飽きちゃったわ、早く終わらせて?」
「畏まりました」
その男の背後…小さな岩に腰かけ、退屈そうな表情を浮かべる美女が欠伸をひとつ。
「ありえねぇ…たった一人に…仲間のほとんどが……これが、“
数では圧倒的に有利なはずの男達が、ただ一人…その男を前にして、皆一様に絶望を浮かべる。
「この強さでNo.2とか…シャレになってないっての……」
「まったくだ…No.2でこれなら…後ろにいる女王様はどんだけ…」
「終わりにしよう」
“鋳薔薇の女王”のカイルが静かに言い放ち、肩に掛けていた大剣をゆっくりと振り上げる。
「…【
カイルが黒紅のオーラを纏う。ただでさえ突き刺すように放たれていた威圧感が、更に深く、強く、凄みを増した。
「は…ハハ…これは、流石に…降参だわ」
対する男たちは、諦めと共に…目を閉じた。
「ふわあぁ~……早く逢いたいわ…ナギ君♡」
♦
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