非戦闘員〈ピックアップ〉

185


俺はノノとマイルと合流すべく、深い森の中を北に向かって20分程進んだ。周囲に気を配りながら、細やかな起伏の多い地を踏みしめていく。最初にプレイヤーに遭遇してからここまで、運が良いのか悪いのか、他のプレイヤーと出くわす事はなかった。だが時々、ふわふわと漂う赤や青色の風船状のモンスターとは遭遇したので、見つけ次第討伐した……と言ってもこのモンスター、ちょっとつついただけで割れるのだが…。



「……お」



暫く歩くと、木立の隙間から陽光が差し込んでいるのが見えた。もうすぐ森林地帯を抜けるな…不思議なくらい何事もなかったけど。そんなことを考えている内に森を抜け、視界が一気に開ける。見通しの良い草原地帯に出たようだ。ここで俺は直ぐに警戒態勢に入る。視界の先数十メートルに、プレイヤーの影を発見したからだ。



「………」



影は六つ…俺の方に向かって勢いよく近づいてくる。六人相手は流石に分が悪い…か?一度森に戻って身を隠す?……いや、向こうが俺の存在に気付いていない保証はない。それならばいっそ先手を…ん?



「ヒャハハー!オラオラ逃げろぉ!!追いついちまうぞぉ!?」


「ぐっ!…くっそ!!」


「うわああぁぁんもう!!ガラ悪すぎですだぞぉ!!」



六人の集団かと思ったが、どうやら違うらしい。正確には二人のプレイヤーが四人の集団に追われている構図のようだ。前を走る二人の男女と、それを追う四人の男。俺はまず前方の二人を注視する。


逆立った黒髪と額に巻かれた赤いヘアバンドが印象的な男。特に防具のようなものは身に着けておらず、黒いシャツにカーキブラウンのカーゴパンツ…武器らしきものも所持していない…。なんか、現実世界で普通に歩いてそうな格好だな…。その男は顔を歪めながら、必死に走っている。


その隣を薄紫色の髪を振り乱し駆ける少女…。隣の男とは打って変わって首から下はライトアーマー系の装備でびっしりと固めてあるのだが…。色合いも素材もバラバラ…なんというか、『その辺にあったものを寄せ集めて無理やり装備しました』とでも言うような、つぎはぎ感抜群の装い。そして背中には、小柄なその少女とは対照的に、圧倒的な存在感を放つ大振りの戦槌ハンマー



「なん…だ…あれ?」



思わず言葉が口をついて出てしまう。それほどにその二人の出で立ちは、他の参加者プレイヤーと比べて異質だった。そして何より、二人のステータスを見て俺は驚いた。



「え…?」



赤いヘアバンドの男…レベル21、【料理人】Eランクジョブ、ギルド“無所属”。

つぎはぎ装備の少女…レベル23、【鍛冶師】Eランクジョブ、ギルド“無所属”。



「おー…マジか…」



明らかに、高レベルプレイヤーがひしめくこのイベントで戦えるようなステータスではない。まさかレベル20代の参加者がいたとは…。どうする?…あの様子ならまだこちらには気付いていないだろう。このまま身を隠すか?…。そんなことを考えながら、俺は残りの四人に目を向ける。



「……」



四人ともレベル60を超えている。ギルドは…“土竜夜盗団アンダーレイド”、か。先程ランキング上位でも見かけたギルドだ。面倒だな…隠れてやり過ごすか…。



「めんどくせぇなぁ!あらよっとぉ!」


「ぐあああぁっ!!」


「ああ!!ラグちん!!」



二人を追う四人の内の一人が、投擲用の小型ナイフを投げつけ、ヘアバンドの男の脹脛ふくらはぎに命中。ヘアバンドの男は倒れこみ、苦痛の声を荒げる。並走していたハンマー持ちの少女も立ち止まり、倒れた男に駆け寄る。突き刺さったナイフはすぐに消失したが、ヘアバンドの男は足を抑えて表情を歪めている。…苦しみ方が普通じゃない、あれは……



「ハッハァ!!命中!…どーよ?の痛みはァ!?」



!…やっぱり、苦痛薬か。俺はガザックの姿を思い出した。苦痛薬…プレイヤーの感じる“痛み”を増幅させるアイテム。下らない物使いやがって…



「あーあ、逃げ回りやがって…手間かけさせんなよな」


「よし、片付けるか。ポイントはオレが貰っていいか?」


「ふざけんな!ひとり寄越せ!女はオレがやる…へへ」



四人の男は二人を取り囲み、下卑た笑みを浮かべる。ヘアバンドの男は悔しそうに顔を歪め、少女は怯えた表情…



……【異能転化オーバーライト



「ヒヒヒ!!んじゃ…早速……ぐあぁっ!?」


「なんだ!?」



つぎはぎ装備の少女に近づいていった男の背中に、突如飛来した矢が深々と突き刺さる!…というか、俺が放ったんだけど。



「なんだテメェはぁ!!!?」



四人の男の視線が、矢を放った俺に集まる。あー…つい、衝動的に攻撃しちゃった。これで隠れてやり過ごすプランは無しになっちゃったな。



「あーごめん、気付いたら…撃ってた。てへへー」


「なめてんのかテメェはああぁぁ!!!」



背中を射抜かれ、俺の言葉に激昂した男が俺に接近してくる。よしよし、一人で突っ込んでくるなんて…偉い偉い。男は短剣を逆手に持ち、振りかざす。



「死ねや!!」



瞬間、接近してくる男に対し、こちらも急接近。男は面食らった表情。まぁ遠距離戦タイプだと思ってたプレイヤーが自ら接近してきたら驚くわな。俺は一瞬で男の懐まで潜り込む。



「なっ!?…」


「【異能転化オーバーライト】…」



夜の徘徊者ナイトレイダー”から“上級剣士”にスタイルチェンジ。



「【四重斬フラッシュフォース】!」


「ぐっああぁぁ!!……マズイ!回復を…」



俺の四連撃を受け、大きくダメージを受けた男は跳び退き、距離を取る。男はイベント開始時に支給されたポーションを取り出すが…



「…させないよ。【遠距離狙撃スナイプショット】!」



再び“夜の徘徊者”にスタイルチェンジしていた俺は、矢で男が取り出したポーションの瓶を射抜く。瓶は砕けちり、消滅。



「はぁっ!!!?どうなって…」



驚いた男は瞬間的に硬直。そこを逃さず…



「…【散弾速射ラピッドショット】」



放たれた無数の矢が、男の全身を貫いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る