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「…うーん、イベント中はPKしても経験値やアイテムは入手出来ず、イベントのポイントだけが貰えるのか」



敵を撃破し、表示されたリザルト画面を見ながら考える。…この感じだと、魔石のドロップも無いかもな。ちょっと残念。


俺は剣を鞘に納めると、ツールボックスからイベント状況を開く。…お、俺のランキングが3位になってる。と思った矢先、すぐにランキングが更新され5位にまでランキングが下がってしまう。ランキングの変動が激しい…既にこの島のあちこちでプレイヤー同士の争いが始まっているようだ。ノノとマイルは無事だろうか…。



「さてと…」



とにかく、マイル達と合流を目指して北上しよう。他のギルドに所属している参加者プレイヤーも仲間との合流を優先して動くはず。時間が経つほど競争相手はまとまって動き出す…こっちも二人と合流して戦力を揃えとかないとな。


俺はツールボックスを閉じ、深い森の中を歩きだした。





その頃、島の南西、原野…



「へっへっへ!悪いなぁ兄ちゃん…アンタはここでリタイアだ」



雑草と灌木かんぼく類が原生しているだけの開けた地形。そこで三人のプレイヤーに取り囲まれた、一人の男。ダークネイビーの燕尾服に身を包み、頭には衣服と同系色のシルクハット、目と口が彫られただけの白い仮面で顔を隠している。仮面の顔は“笑顔”を模している作りだが、シンプルな故に不気味さも感じさせる。



「おやおや…またですか」



背が高く、“細長い”という印象を受けるその男は、しかし堂々と、敵意剥き出しの三人に向き直り、穏やかな声を返す。



「…はっ!なんだコイツ?参加するイベント間違えたのか!?ここは仮装パーティーの会場じゃねぇぞ!?」


「ハハハ!違ぇねぇ!まあすぐに終わらせてやるから安心しな」



三人の男達はそれぞれ武器を手に、燕尾服の男との距離を詰めていく。



「…おい。でもコイツ、レベル72だ…結構高いぞ?」



三人の内の一人が警戒の意を示す。



「ビビんじゃねぇよ!こっちは運よくイベント開始後すぐに合流出来たお陰で三人……相手はたったの一人だろ!」


「そうだ!それにこれはチャンスだ!他の有力ギルドも合流する前に一人ずつ叩くことが出来れば、今回のイベント…イケるかもしれねぇぞ!」


「おうよ!…だからちゃっちゃとこの変装オタクぶっ殺して、残りの仲間と合流するぞ!」



警戒する一人に反して、残りの二人は前のめりの臨戦態勢。警戒していた男も渋々後に続く。三人と一人の距離が縮まっていく…。



「…はっ!よく見りゃコイツ、ジョブは【奇術師きじゅつし】、Cランクだってよ!!」


「しかもギルドには“無所属”のソロプレイヤー!最初の獲物にはおあつらえ向きだ!」


「え?ちょっと待て…“奇術師”?……“ソロ”?…」



三人の内の一人が勢いよく駆け出し、燕尾服の男に急接近していく。対する燕尾服の男は…



「はぁ~…ジョブのランクやステータスなんて、表面上の情報だけで相手の力量を判断するとは、少々知性が足りないようですが…いいでしょう。私の……とくとご覧あれ」



頭のシルクハットを手に取り、そのまま胸へあてがい、芝居がかった恭しいお辞儀をしてみせた。駆けだした男が目の前まで迫り持っていた剣を振り上げるが、依然、燕尾服の男はお辞儀の姿勢のまま動かない。



「いつまでも余裕こいてんじゃねぇ!!!」


「おい!待て!コイツもしかして…!!」



三人の内の一人が剣を振るう男を制止する為声を上げるが、男はもう止まれない。振り下ろされる刃が燕尾服の男に届くかに思われたその時…



「あ、そこ…危ないですよ?」


「え?……」



振り下ろされたはずの剣が、否、…持ち主である男のもとを離れ、宙を舞う。



「……い?…ぐわあああぁぁぁぁあ!?」


「な、何が起こった!?」



肘から先、片腕を失った男は声を上げて狼狽え、残りの二人は状況に理解が追い付かず、静止。燕尾服の男は微動だにしていない…にもかかわらず、攻撃を仕掛けた側の男の腕が



「ぐうぅ!…くっ……そ…!!」


「テメェ!!何しやがった!?」


「や、やっぱり……お前は…!!」


「おや?もう私の舞台ショーは始まっていますよ?……お静かに」



燕尾服の男が人差し指を立て、仮面で隠れた顔の前に持ってくる。



「……え?…なん…で」



次の瞬間、片腕を失った男の全身がバラバラに切り裂かれ…消滅。



「ひっ、ひいいいいぃぃぃいい!!」


「なっ…うわああぁぁぁあああ!!」



残った二人の内一人は腰を抜かしその場にへたり込む。もう一人は錯乱したように武器を振り回しながら突進。



「やれやれ…もう少しスマートにはいかないものですかね?せっかくのショーが…台無しですよ」



燕尾服の男が“パチン”と指を鳴らす。その瞬間、突進してきていた男の背中に火がともり、燃え上がる。



「は!?…なんっ…だよ!!これ!?」



火は瞬く間に男の全身を包み込み、男は悲鳴を上げながらのた打ち回る。



「さてお立合い!…タネも仕掛けも、ございません」



再び燕尾服の男が指を鳴らし、乾いた音が響く。間を置かず響き渡った炸裂音。火だるまとなった男が小さな爆発を起こし、消え去った。



「ま…さかほんとに…お、お前が…噂の……“死の奇術師マジシャン”?」


「おや、クランツにまで私の名が広まっているとは…なかなかどうして、嬉しいものですね」



震えて動くことのできない男に、燕尾服の男“”はゆっくりと歩み寄る。



「うーん…華のないステージでしたが…」


「ま…ま、待って…」


「これにて…終幕フィナーレです」


「うわあああぁぁぁああああぁぁああ!!!」



広い原野に、断末魔が響き渡った。





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