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「っ……」



強い光に目が眩み、視界が元に戻った時には俺は新緑の綺麗な森の中に立っていた。



「………」



周囲に人影は無し…まずは状況確認だな。俺はツールボックスを開き、マップを選択。すぐにテックの説明時に見た島の全体図が表示された。…よし、マップデータは使えるみたいだ。どうやら俺はこの島の南東にある森林地帯に飛ばされたようだ。



「………」



俺はマップの拡大、縮小を繰り返し、この島の大まかな地形を頭に入れる。さて…次は……。ツールボックスからフレンドリストを開き、マイルとノノを選択し通話ボタンを押す。



「………」


『…ナギ?』


『おっ!ナギか!?』



数秒の後、頭に響く二人の声。よし!通話機能は使えるのか…これなら合流しやすい。



「二人とも、マップは確認したか?二人の現在地を教えてほしい」


『えーっと…』



二人によると、マイルは島の北側に、ノノはそこから少し離れた北西の位置にいるようだ。



「んー…俺が一番離れてるな。とりあえずノノとマイルで合流を計ってくれ。合流できたら二人で南下して…島の中心から少し離れたところに湖があるだろ?…そこで合流しよう!」


『『了解!』』


『……ん?とりあえずオレはどうすりゃいいんだ?』


『…とりあえず…ノノと…合流。そこから西に向かって…ノノもそっちを…目指すから…』


『んー…りょーかーい』


『じゃあ…ナギ…また後で…』


『オレ達が合流する前にやられんなよ?』


「あー…おう」



二人との通信が切れる。…大丈夫かな?




その頃、マイルは…



「さーて!まずはノノと合流すりゃあいいんだな!……で、“西”ってどっちだ?」



きょろきょろしていた。






俺はツールボックスを閉じ、再び周囲に気を配る。周りには大きな木が乱立している。身を隠せる場所も多い…注意しないとな。



「……!!」



背後に感じた“気配”にすぐさま反応し、剣を抜く。



「ぬ~ん…」


「………え?」



そこにいたのは、奇妙な声を上げる、顔のある青い風船…。とてつもなく気の抜けた表情のそいつはふわふわと宙を漂っている。……あ、コイツがイベント限定のモンスター…ブルーバブルンってやつか?



「ぬ~ん…」


「……えい」



俺はそいつを剣先で小突いてみた。



「ぬはっ!!」


「おあっ!?」



緩い表情だったそいつは、突然奇声を上げたかと思うと、途端に驚愕したような表情に変わり………消滅した。え?………なんつーシュールゲーだよ、これ。



「……」



ポップアップが表示。


――――――――――――――――――

   1P  獲得しました。


ツールボックスで現在のイベント状況を

確認出来るようになりました。

――――――――――――――――――




やっぱり今の風船みたいなのが、イベント限定モンスターか。イベント状況の確認か…。俺はツールボックスを開き、追加された『イベント状況』のアイコンをタップ。




―――――――――――――――――――

  保有ポイント  1P

 (現在ランキング 12位)


  生存者   339/343


   獲得ポイントランキング

1. カイル【鋳薔薇の女王クイーン・ローズ】/ 2000P

2.ロイ・ジークフリード【無所属】/ 1012P

3. アリシア【革命の十字架】/ 1000P

4. ランダル【土竜夜盗団アンダーレイド】/311P

5.……………

――――――――――――――――――――


…この短時間でもう4人も脱落者が出てるのか。自身の保有ポイントと順位が確認できて…現状の上位30名までのランキングが見れるようだ。何気にアリシアさんが3位にランクインしてる……現状1位は、プレイヤー2名をキルしたと思われる…“鋳薔薇の女王”のメンバー……か…おっと。



「出て来いよ…そこにいるんだろ?」



俺の右後方…大木の陰に潜む“気配”に声をかける。



「へぇー…オレ【隠密】スキルけっこう高いんだけど、よく気付いたなぁ。【気配感知】スキル上げてんのか?」



木の陰から姿を現した男。暗色のライトアーマー装備に2本のダガーナイフ…レベル62か。アド…



『はい。敵プレイヤーを解析…Bランクジョブ【討伐者スレイヤー】。短剣、弓を用い、近、中距離戦闘を得意とするジョブです』



…うん、問題ないな。



「なんだぁ~?剣も抜かずに余裕だなぁ?オイ」



俺は背中の剣も抜かず、構えすら取らずに敵と対峙する。



「だってアンタ…弱いだろ?」


「あ゛?……レベル50の【上級剣士】ごときがイキってんじゃねぇぞ!!!」



思惑通り声を荒げ、一直線に突っ込んでくる男。頭に血が上った相手は“気が読みやすくて”助かる。



「死ねやコラ!【咬刃ナイフバイト】!!」



2本の交差する斬撃が迫る。こんなもの、バトスさんの剣速に比べれば…



「……おっせぇ」


「は?…」



俺は迫りくる斬撃をするりと掻い潜り、易々と背後を取る。



「くそがっ!!」


「上段右、薙ぎ払い…」



“読み通り”、男は振り向き様に俺の顔目掛けてナイフを振るう。俺は半歩下がってこれを回避。いいぞ…通用する……修行の成果だ!



「はっ!…おらぁ!!…」


「………」



男はその後も何度もナイフを振るうが、俺にはかすりもしない。動きが手に取るように分かる…。



「なんっ…なんだよ!?動きが読まれてるみたいだ!」



ひとしきり暴れた後、男は肩で息をしながら動きを止める。



「みたいじゃなくて、読んでるんだよ」


「っ…黙れこのガキぃぃい!!」


「!!」



男が不意に地面に何かを投げつけたと同時に、白灰色の煙が辺り一帯に立ち上り、視界を遮る。煙幕か!?



「はははは!【煙透視野スモーキーアイ】!!……どうだぁ!?全く周りが視えないだろう!?…だがオレは【煙透視野】のスキルのお陰で、お前の居場所が鮮明にわかるぜぇ!!」



煙で視界が完全に塞がる中、ご丁寧にスキルの説明を述べる男。



「ははは!これでお前は終わりだぁ!!」



左側面から男がダガーナイフを振り下ろす!…が、俺は男の手首を掴み、防いで見せる。



「はああぁぁぁあ!!?」


「せっかく視界を奪ったなら、静かに来いよ…」


「黙れクソガキぃ!」



男は俺の手を振り払い、再び煙の中へと姿を眩ます。…後ろか。



「………【剣撃強化ソード・レイズ】」



俺はゆっくりと剣を引き抜き、スキルを発動。黒羽の剣の刀身が赤い光を帯びる。更に、俺は深く息を吐き、一気に“気”を練り上げる。



「くたばれ!【閃刃乱舞】!!」



背後から男が飛び出し、無数の斬撃が襲い来る!



「【七重斬セブンス・レイ】」


「……え?」



男の放った斬撃の嵐を掻い潜り、すれ違い様に“気”を込めたスキルを放つ!



「ぐああああああぁぁぁあああ!!!」



強烈な7連撃を受けた男は、晴れていく煙と共に、光となって霧散した。

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