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「んー…あ!じゃあ“シェンフール”の連中か!?」



シェンフール…確かに、シェンフールなら呪いをかけられる奴がいてもおかしくはない。実際、シェンフールのザイという男のジョブは【呪術騎士フルーフリッター】なんてそれっぽいジョブではあった……が…



「…いや、それもない」


「なぬっ!?」


「ルルアが暴走したとき、シェンフールの人間も戸惑っていた。何が起こったのか分からないという風に…呪いの発動が誤作動だったとしても、あの場に術者がいたならもっと違う反応を見せたはずだ。それに、が合わない」


「時系列?…」


「ルルアはクルド村から誘拐され、奴隷になった。シェンフールがクルド村を占拠したのはその後だ。俺達がルルアをクルド村に連れて行った時、初めてルルアはシェンフールに接触したことになる。あの戦闘中にわざわざルルアだけを狙って呪いをかける意味もわからないしな」


「うーん…確かに…」



さて…ルルアは外界との繋がりがほとんどないクルド村で生まれ育った。俺達と行動を共にするようになってからは、呪いをかけられるような場面に出くわしてはいない。となると…ルルアが呪いをかけられたのは、クルド村で誘拐されてから俺達と出会うまでの間と考えていい。ガザック達を術者の疑いから除外すると…



「……奴隷商人?」


「うむ…ワシもその結論に至ったのじゃ、ナギ」



俺の出した結論に、ハリスさんが頷く。だが…奴隷商が自分の商品である奴隷に呪いをかける意味があるか?……とはいえ現状、ルルアに何が起こったのか知る糸口になるのは、ルルアをガザックに売った奴隷商に接触するしか…。



「ルルアの呪いは…どうにかならないんですか?」


「呪いかー…“呪うはかたし、解くはなお難し”って言葉もあるからねぇ」



フィルがやれやれという風な声を上げる。



「うむ…ワシとマイネで解呪のため動いてはおるが、未知の呪いを解くには、かなり慎重になる必要があっての。相当な時間を要する…」


「そう…ですか…」


「……そこで、“四大国親善試合”じゃ」


「「!?」」



ハリスさんがニタリと笑う。どういうことだ?…



「ガザックにルルアを売った奴隷商人の居場所を調べたのじゃ」


「「え!?」」



ハリスさん、そんなことしてたのか。じゃあその奴隷商人に接触できれば…



「ガザックはクランツの闇市でルルアを買ったそうじゃが、その奴隷商は普段はブルテールで商売をしていると話しておったそうじゃ。一応クランツの闇市も捜索したが、既にその奴隷商の姿はなかったわい」


「じゃあ直ぐにブルテールに行って、そいつをとっちめよう!!」


「そう急くなマイル!…情報はブルテールにいるという事だけじゃ。広大なブルテールという国のどこにいるかはわからん」


「う…」


「じゃが此度の四大国親善試合…主催であるブルテール王国での開催となるじゃろう。大勢の観衆が4国から集まり賑わう、そこを狙って大規模な市場いちばも開かれるじゃろうな…」


「そこにその奴隷商もやってくるのか!?」


「直接出店するかはわからぬが…ブルテール王国の中央都市が大いに賑わうタイミングじゃ。向こうから中央都市まで出てくる可能性は高い。親善試合の出場者となれば、少なくとも数日間はブルテールに滞在することになるはずじゃ…」


「その間に探し出せってことですか?」


「その奴隷商が現れる確証はないが、ある程度は目を光らせておいて欲しいのぉ」


「まあ、呪いを解く方法を探るには術者をとっ捕まえるのが一番手っ取り早いからねー」



フィルが怪しい笑みを浮かべてそう言うと、ハリスさんは頷いた。親善試合の出場選手としてブルテールに入国し、クランツとブルテールの戦争回避の手助けをする傍らで、ルルアに呪いをかけたと思われる奴隷商を捜索するってことか。



「よし!やろう!」



パシンと拳を鳴らし、マイルが立ち上がる。うん、断る理由はない!



「うむ…じゃが、お前さん達が指名ギルドとなるには圧倒的に実績が足りぬ。クランツ王国の国民、なによりも国王のエドワードが納得する程の実績が必要じゃ」


「戦争回避の点から見ても、無名のギルドがクランツの代表じゃ効果が薄いですからね」


「そうじゃ…親善試合の開催は3か月後を予定しておる。それまでに、お前さん達は修行を続け力をつけ、冒険者としてを出してもらう。短期間で“WBF”を誰もが納得する有名ギルドにしてみせよ!」


「「「はい!」」」






その日の夜



「なんだか凄いことになってきたな…燃えてきた!」


「ルルアたんの為にも…負けられない…!」


「そうだな。気を引き締めていこう!」



センターギルドでハリスさん達と話した後、俺達はクランツ中心街で各々アイテム等の調達を済ませ、宿屋“月跳ね兎”で宿を取った。時刻は深夜0時を回っている…もうすぐログアウトの時間……そして…



「…イベント、か。プレイ時間終了後、開催するってメッセージには書いてあるけど…このまま待ってりゃ良いのか?」


「運営から…連絡……来た?…」


「いや、まだ来てないな…」


「でも、やるからには…狙うは優勝!」


「…当たり前だ、そのつもりだよ!」



その時、ピコンという電子音と共にメッセージが届く。来たか!



――――――――――――――――――――

    イベント開始のお知らせ


  1時間後に参加プレイヤーの皆様を

  イベント会場へと転送致します。

 

 それまでに、宿屋やギルド拠点にお戻り

 頂くことをお勧め致します。

―――――――――――――――――――――





「おっ!きたきたきたぁー!!」


「二人とも、ちゃんと準備は済んでるな?」


「「オッケー!」」


「ふ…マイル様の成長ぶりを見て、を抜かすなよ?二人とも」


「…な。ま、俺だって相当レベルアップしたぞ?」


「優勝は…ノノが…貰う…!」


「へぇ~!言うじゃねぇか!」


「クランツの指名ギルドとなる為にも、今回のイベントはチャンスになる。今の俺達が、他の有力プレイヤーにどこまで通用するかを試すという意味合いでも……やるぞ、二人とも!」


「「らじゃっ!!」」


「よしっ…それじゃ、新生“WBF”……お披露目だ!」



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