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「うむ…その親善試合の開催をアキレジア王子が要請したということは…」


「アキレジア王子はアルバ大陸にある国の戦力を窺っている…?」


「…と、考えられなくもない……というわけじゃ」



確かに…確証はないが、不穏な空気を感じるだけの状況証拠は揃っているな。



「おいおいジジイ、もしその噂が本当だったとしたら…指名ギルドになったらコイツらは本当に戦争に加担する事になるかもしれないって話にならないか?」


「いやカルラ…ハリスが、もとい、クランツ国王エドワードが望んでいるのは恐らく…」


「うむ…オヌシ達には、クランツの指名ギルドとして“四大国親善試合”に出場して欲しいのじゃ」


「「「!!」」」



なるほどね…なんとなく読めてきたぞ。つまり、クランツ王国としては今回の親善試合の主催であり、友好国であるブルテール王国の要請を無下にも出来ない。かといって、もし本当にブルテールの王子に戦争強行の意思があるならば、兵力に乏しいクランツは親善試合で弱みを見せる形になってしまう…。そこで指名ギルドを登用して、親善試合で活躍できるくらいの冒険者を出場させ、あわよくば他国に牽制を計りたい…ということか。



「エドワード王は争いを好まん。今回の親善試合も、ブルテールとの友好回復の場として捉えておる。じゃが、指名ギルドとはエドワード王からすれば賭けに等しい…」


「まぁ、強さだけではなく信頼の置ける者を選ぶ必要があるな。当日は王の護衛としても働くことになるだろうからな…」


「その通りじゃ…それでエドワードはワシに指名ギルドに相応しいギルドを紹介するよう頼んできた。……ワシはお前さん達を推薦したい」



ハリスさんが真っすぐに俺達を見つめる。



「でもそれなら…もっとレベルの高い冒険者が集まっているギルドも沢山あるのでは?……なぜ、俺達を…?」


「先にも言ったが、指名ギルドとなると単純な戦闘能力だけではなく、信頼のおけるギルドであることが必須じゃ」


「まー強いからといって、今勢いのある“鋳薔薇の女王クイーン・ローズ”みたいな過激派ギルドを王様に近づけるわけにもいかないしねー」



フィルの言葉にハリスさんは頷く。



「クランツを拠点にするギルドなら“革命の十字架ロザリオ”があるじゃないか。あのギルドだってかなりの実力者揃いだし、悪い噂はあんまり聞かないけど?…アイツらじゃ駄目だったのかい?」


「ワシも最初はそう考えた…じゃがは……」



ハリスさんはここで一度言葉を止め、しばらくの間が空いた。



「…ワシの独断で、規模の大きいギルドをクランツ国王に近づけるべきではないと判断した」


「…あぁ、なるほど…ね」



ハリスさんの真意までは読めないが、どうやらフィルは何かを理解したらしい。



「…まぁ、お前さん達を選んだ理由はそれだけではない」


「と、言いますと?…」


「…結論から言えば、ルルアの為でもある」


「「「ルルア!?」」」



俺達の声が重なる。まさかここでルルアの名前が出るとは思わなかった。どういう事だ?



「未だ眠ったままのルルアのひたいに…呪術式じゅじゅつしきが施されておった」


「呪術…式?」


「要は…ルルアはをかけられておる…という事じゃ」


「は!?どういうことだよ!?ハリスのおっちゃん!!」


「マイル!…落ち着け、まずは聞こう」



勢いよく立ち上がったマイルを制し、俺はハリスさんに視線を送る。ルルアに…呪い?…いつ?…誰が?



「まずは呪いというものについて話しておく必要があるのぉ…まず第一に、呪いとは“掛けられる”ものじゃ、呪いには必ず呪いをかけた“何者か”の意志が存在しており、決して病や事故のように自然発生するような現象ではない」


「ルルアに呪いをかけたクソヤローがいるってことだな…」


「許せ…ない…」



マイルとノノが静かに怒りを顕わにする。



「うむ…第二に、基本的には先天的に呪われて生まれてくる人間はおらん。稀に、母体から胎児へと伝染するような呪いもあるが…その場合は母親が呪われているという事になる。……じゃが、ルルアの母であるリリアには、呪いは掛けられておらんかった」



…つまり、その“何者か”は明確にルルアを狙った上で呪いをかけたことになる。となると…問題は、いつ呪いをかけられたのか…だ。



「ルルアにかけられた呪術式を解析した結果、あの呪いはかけられた人間を暴走…狂暴化させる効力があることが分かった」


「‼…暴走…」



思い当たるのは…



「じゃあルルアがクルド村で、黒い影みたいなのに包まれて暴れだしたのは…その呪いのせいなのか!?」


「うむ…じゃが、あれは恐らく呪いを掛けた側にとっても予想外の暴走だったはずじゃ」


「と…言うと?」


「あの呪いは、術者が“起動”させることによって効果を発揮する仕組みになっておるようじゃ。じゃがルルアの呪術式には術者が“起動”させた痕跡がなかった。どうやら、ルルアの膨大な魔力に反応して呪いが“誤作動”を起こした…と考えるのが妥当じゃという結論に至った」



あの場でルルアが暴走を起こしたのは、術者の意図ではなかったってことか。



「さて…ここまでで、どう考える?…ナギよ」



ハリスさんが俺に視線を向け、後に続いて皆の視線が俺に集中する。

…ルルア本人に明確な意思を持って呪いを掛けた“何者か”が存在する。ルルアのクルド村での暴走は呪いをかけた者の意図するところではなかった。ここまでが大前提なら…



「ガザックだ!…ガザックのヤローがルルアに呪いをかけやがったんだ!」


「…いや、多分それはないよ、マイル」



ガザックのジョブは【狂戦士バーサーカー】…呪いなんて代物を扱えるようなジョブには思えない。何かのアイテムで…ってのも考えにくい。あの低能のガザックなら、奴隷をいたぶるのに呪いなんて回りくどいやり方はせず、単純に殴る蹴るの暴行を加えるだろう。だとすれば…








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