179


「ワシはクランツの国王とはプライベートで酒を酌み交わす程の仲でのぉ…アヤツに頼まれたのじゃ。クランツ王国に指名ギルドを登用したいとのぉ」


「へ?…アヤツって…国王様に!?」



フィルが声を上げる。その後小さく“マジで何者なんだよこのジジイ”とぼそぼそ呟いていたのは黙っておこう。



「んで?…それが戦争の心配はないって話とどう関係あるんだい?」



とカルラさん。



「まぁ聞け…クランツの国王、“エドワード”が指名ギルドを望んでいるのは、寧ろ戦争を回避する為じゃ」


「「!?」」



ハリスさんは一呼吸置いた後、続ける。



「外国との貿易、特に港貿易で富を築いてきたのがクランツという国じゃ。豊かな資源と高い航海技術で諸外国と友好な関係を保ってきた…じゃがここ数年、不穏な話が出回っておってな」


「不穏な話…?」


「クランツ王国の南に位置する隣国…ブルテール王国じゃ」


「ブルテール…!…確か、国王が病にかかっているとか」



ブルテールという国名にバトスさんが反応を示す。



「うむ…ブルテールはクランツと長い間友好関係を築いておる国じゃ。広い鉱山を保有しており、長年、クランツの流通技術を活用し、富を享受するかわりに、クランツに鉱物資源を提供しておった。またブルテールは軍事力にも優れており、名の知れた兵士も多い。その高い兵力でクランツ王国の国防にも一役買っておった国じゃ。クランツの兵力は他国と比べて、決して高いものとは言えぬからのぉ」



なるほど、財力に優れるクランツ王国と協定を結ぶことでブルテールは富を生み出し、クランツ王国は兵力に優れるブルテールの後ろ盾を得られるってことか。でも、この話の流れだと…



「じゃが最近になって、ブルテールがクランツに戦争を仕掛けるのではないかと疑う声があっての…」


「!…確かなのかい?」



カルラさんの目が険しくなる。



「いや、あくまでも噂程度の話じゃ…じゃが、ここ数年ブルテールが大量の武器と兵士を鍛え、更なる兵力の増強を行っているのは事実…」


「でも、ブルテールとクランツは友好国だろ?…それがクランツと戦争するためのものとは言えないだろう?」


「おっしゃる通りですぜ、姐御!」



話がわかってるのかどうかわからない、多分わかってないマイルがカルラさんの言葉に同調する。確かに、ここまでの話を聞く限り、ブルテールがクランツと事を構えるメリットが見当たらない。



「問題はここからじゃ…ブルテールの現国王“オーガスト=ブルテール”は、賢王と呼ばれるに値する、機知に富んだ良い王じゃが…」


「その賢王が…病に倒れた」


「うむ…床に伏せるオーガストに代わり、現状のブルテール王国の実権を握ったのはオーガストの実子であり、次期国王…“アキレジア=ブルテール”。このアキレジア王子が実権を握るようになってからじゃ、不穏な噂が流れ始めたのは…」



話すハリスさんの表情はどこか悲しげで…皆静かにハリスさんの言葉に耳を傾ける。



「現国王のオーガストが病に倒れたのが約3年前…その折、クランツの国王エドワードは見舞いの品を送ったのじゃが、ブルテールの王子アキレジアがその品の受け取りを拒否し、送り返しておる。現国王のオーガストとは友好な関係を築いておったエドワード王は驚き、事情を聴こうとアキレジア王子に掛け合うが、アキレジア王子はことごとくエドワード王との対談を拒否した」


「なんか…性格悪そうな王子だな、ソイツ」


「マイル、アンタは黙ってな。ブルテール王国のアキレジア王子と、クランツ王国の国王エドワードの不仲…か。でもそれで直ぐに戦争ってことにはならないだろう?…一応、国王のオーガストはまだ存命なわけだし」



カルラさんの言う事はもっともだ…王子はあくまでも王子。臨時的に国政を握っているとはいえ、友好国との戦争なんて、おいそれとはいかないはずだ。



「うむ…じゃからあくまでも、噂程度の話じゃ。とはいえ…ひとつ、気がかりな事があってのぉ」


「気がかり?…」


「まだ公表はされておらんが…アキレジア王子がアルバ大陸の国々に“”の開催を要請したのじゃ」



「「!!!」」



バトスさんとフィル、カルラさんが目を丸くする。四大国親善試合よんたいこくしんぜんじあい?…



「なに…それ…?」


「アルバ大陸にある4つの国がそれぞれ猛者を選抜し、対決させる…むかーしに行われてたお祭りだよ」



ノノの質問にフィルが答える。



「国同士でお祭り?…なんだ、アキレジア王子も仲良くしたいんじゃん」


「いや…そうとも言い切れんぞ」



マイルが軽口を叩くが、バトスさんの表情は険しくなる。



「…国家間の親善試合は、まだアルバ大陸が戦乱の世にあった時の文化だ。それぞれの国が自慢の兵士を見せ合う、友好を深めるための催し…というのは建前で、実際は敵国の兵力の調査や、他国への牽制や威圧を含めたものだった」



なる…ほど。魔法なんてものがあるファンタジーなこの世界では……1人の兵士の存在が、戦況に大きく影響を与える場合もある。逆に言えば親善試合で他国の有力な兵士の強さを見ればその国の“強さ”を推し量る材料になるし、自国の兵士の強さを見せつければ、他国への牽制になる…か。



「んー…どゆこと?」


「要するに…自分の国の強い兵士を見せつけて、“ウチにはこんな強い奴がいるぞー、ウチとは戦わない方がいいぞー”って他国をビビらせることも出来るし…」


「うんうん…」


「逆に他国の兵士を見て、“あ、この国には勝てそう”とか…“この国とは戦争したくないな”なんてのを判断してたってことだよ」


「おう、なるほど」



俺がマイルの疑問を解消してやったところで、ハリスさんが話を戻す。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る