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「各々、一先ず3日間の修行ご苦労じゃった。それぞれ成果は…あったようじゃの」
ハリスさんは、俺達の顔を見渡して満足そうに微笑んだ。
「色々と詳細も聞きたいところじゃが、もう夜も更けておる。各々、疲労も溜まっておるじゃろう。今後についての話は明日にするとしよう。今日はゆっくりと休むがよい。明日の午前中にもう一度此処に集まってくれるかの?」
その後、俺達は軽く談笑し、宿を取って就寝した。数日ぶりの柔らかいベッドの感触に、俺は瞬く間に寝入ってしまった。
♦
翌朝…
センターギルドへと集まった俺達一行は二階の応接室へと通された。ハリスさんは部屋の奥中央の書類が山積みになったデスクに腰を下ろすと、俺達にソファに座るよう促した。
「さて…まずは先にも話したが、ワシはお前さん達のギルド【WBF】をクランツ王国の指名ギルドに推薦するつもりじゃ」
「ほう、指名ギルドとは…久しく聞かない単語だな。ナギ達のことを随分と買っているようだと思ったが、そんなことを考えていたのかハリス」
ハリスさんの言葉に、バトスさんが驚いたような表情を見せる。後に続いてマイルが口を開いた。
「あの~…オレ、その指名ギルドってのがイマイチよく分かってないんだけど…」
「うむ…では多少長くはなるが説明してやろう。現状、お前さんら“WBF”というギルドは、“センターギルド”という組織と契約を結んだ…言わば、センターギルドの下部組織という位置づけになる」
「ふんふん…」
「そしてワシらセンターギルドはと言うと、国家や自治団体と契約を結ぶ形となっておる」
「……」
「此処で言うならば、まずクランツ王国という国とセンターギルドが契約を結ぶ。その後、首都クランツやローユの街など、その国との契約に沿って各所にセンターギルドの支部を設立。センターギルドの支部はそれぞれ契約地域の抱える問題解決に着手し、治安維持に努める」
「ほうほう…」
何が“ほうほう”だ…分かってないだろ、マイル。
「えーと…マイルにも分かるように簡単に言うと、センターギルドという組織は…国に雇われてお金を貰う代わりに“安心と安全”を提供します!…ていう組織ってことだよ」
「あー!なんとなくわかった!」
「うむ…だがセンターギルドの仕事はそれだけではない。国や地域の治安維持だけでなく、その地域に住まう“民間”からの問題解決依頼も請け負い、仲介する。つまりは、センターギルドに寄せられた依頼を、クエストという形で発行し、お前さんら冒険者や下部組織ギルドに仲介している…という訳じゃ。…ここまでは大丈夫かの?」
「うん…何とかわかる…大丈夫」
マイルは眉間に
「うむ…このように国や民間から様々な依頼を請けるセンターギルドなんじゃが、なんでも請け負えると言う訳ではないのじゃ。そこには制限や制約があるからの」
「センターギルドは世界各国…多数の国家と契約を結んでいるから……ですよね」
「流石、理解が早いのぉナギ。その通り、センターギルドはその国の政治には関与してはならず、外交的な問題には着手出来ないのじゃ…わかるかの、マイルよ?」
「うんわからんけどナギがわかってるとおもうからだいじょうぶ」
「…センターギルドは支部ごとにそれぞれその国や地域の法に
「ぐ…ぬぬ?」
マイルが完全にキャパオーバーしてるな。
「…国によって法律は違うだろ?センターギルドの支部はそれぞれ、そこの国の法律に従うし、法律に文句は言えないってことだよ。んー…総理大臣を決める投票権もないし、消費税が高いからって法律を変えるような権力はないってことだよ」
「ほーほー!」
「外交的…特に戦争に関与できないってのはー…例えばAという国とBという国があって、どっちの国もセンターギルドと契約を結んでいるとするだろ?」
「うんうん」
「ある時その二つの国が戦争を始めたとしよう。雇い主だからといってAという国にセンターギルドが戦力として加わったら、Bというこれまた
「おぉ、なるほど!」
「そういう事を避けるために、政治や外交には関与しないっていう内容の契約を結んでいるってことだよ」
「分かった!タブン!なんとなく!」
マイルがスッキリしたような表情を見せる。“なんとなく”でそこまで晴れ晴れしたような顔が出来るのは幸せだよ、マイル。
「まぁ、実際はもっと細々とした制約があるんじゃが、概ねそのような感じじゃ。じゃが、そういう契約上センターギルドに依頼できない案件を誰かに請け負って欲しいと考える国や王も中にはおる…」
「そこで役に立つのが、指名ギルド…」
「うむ。指名ギルドはセンターギルドとは別に、新たにその国と直接契約を結ぶことになる。センターギルド内の組織としてではなく、独立した組織として
「センターギルドが国家と結んでいる契約内容に縛られずに依頼を請け、遂行することができる…ってことですね?」
「うむ…じゃが、そういった国からの直下の依頼に関しては、ワシらセンターギルドのサポートも受けられないし、損害に対する補償もしてやれんというデメリットもある」
「…ん?待てよ?それってつまり、オレ達が指名ギルドって奴になったら、戦争に行かなくちゃいけなくなるかもしれないってことか?」
「うむ…その国の体制や思想によっては、それも在り得るのぉ」
「うぇ!?」
「じゃが安心せい。ここクランツ王国に関してはその心配はまずない」
「?」
ハリスさんは小さく笑って続けた。
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