御披露目<オンステージ>

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どっしりとした印象の大きな木造の建物。赤い屋根と取ってつけたような看板。クランツ王国、センターギルド。三日の間地下に潜って修行していたが、随分と久しぶりに此処に来たような感覚だ。


両開きの扉を広げ屋内に踏み入ると、懐かしさすら感じる喧騒が迎えてくれた。中は仰々しい武器や防具を身に着けた冒険者達で溢れかえっている。俺とバトスさんは行き交う人々を避けながら奥へと足を運ぶ。



「このイベントでオレは名を上げてやるぜ!!」

「お前には無理だよ、バーカ!」

「他に買っておいた方がいい物はないか?」

「聞いたか?今回、【革命の十字架ロザリオ】は幹部全員で挑むそうだぞ」

「マジかよ!?そりゃキツいわ!望み薄だなー」

「【鋳薔薇の女王クイーン・ローズ】には目をつけらんねぇようにしねぇと…」

「鍛冶屋で武器強化しとけよ!」



ホール内はイベントの話題で持ち切りだ。大勢の人々が慌ただしく行ったり来たりしている。イベントがどういう内容のものなのかは分からないが…今此処にいる冒険者達とも競う事になるのか…。



「…なんだか楽しそうだな、ナギ」


「え?…あ、いえ…」



隣を歩くバトスさんが横目で見ながら話しかけてくる。あはは…表情に出ちゃってたかな?正直…楽しみすぎる!



「…ナギ‼」


「⁉…ノノ!」



カウンターの前までやってきた所で声を掛けられる。声のした方に目をやると、カウンターの椅子に腰かけるノノの姿が。その隣には、どこか仏頂面のフィル…。



「戻ったか、ナギ」


「‼…ハリスさん!」



低くしわがれた声。クランツセンターギルドのマスター、ハリス=ウースラッドである。



「修行の調子はどうじゃ?」


「あぁ、文句無しだよ。覚えが良すぎてつまらんくらいだ」



ハリスさんの問いにバトスさんが答える。ハリスさんはニッと笑みを浮かべ、“それは重畳ちょうじょう”と答えた。



「ノノの方はどうだった?」


「…ばっちし…!」



ノノに話を振ると、ニヤリと笑みを浮かべて親指を立てて見せる。順調なら良かった。



「…ふんっ」


「あれ?…フィル…さん?」



ノノの隣のフィルがあからさまな不機嫌を体現している。…え、何があったんですか、ノノさん?



「気にするな…弟子の出来が良すぎて拗ねとるだけじゃよ」


「はぁっ!?そんなわけないだろっ!!こんなチンチクリン!」


「ふ……もうすぐ…フィルなら…越えれる」


「なっ…馬鹿言うな!まだ一回も勝ってないくせに!」


「あと一歩まで…追い詰めた…」


「調子に乗るなー!!大体、まだ僕は本気のホの字も出してない!」


「ふふん…負け惜しみ…」


「負けてないだろ!というか敬語を使えぇー!!」



…一体どんな修行をしていたのだろうか。怒れる猫のように声を上げるフィルと、悪戯っぽくニヤついて挑発するノノ……なんだかんだ仲良くやってる…のかな?



「おっ!!ナギ!ノノぉ!」



周囲の喧騒に負けない、一際大きな声が飛んでくる。振り返ると明るい茶髪を振り乱しながらマイルが駆けてきた。



「おぉ、マイル!」


「マイル…おかえり…!」


「これで、全員そろったのぉ」


「くぅ~!!オレ、生還!!」



全力で駆けてきたマイルがカウンターの前で急停止し、昔の戦隊モノのヒーローのようなポーズを決めた……



「……あ、あねさん、こちらへどうぞ」


「おう」



…と思ったら、マイルはカウンターの空いていた椅子を引き、後に続いてやってきたカルラさんを座らせ、深々と頭を下げる。



「「………」」


「姐さん、荷物を…!」


「おう」



マイルはそう言ってカルラさんが肩に掛けていた革の袋を受け取ると、そのままカルラの背後に姿勢よく直立…。



「「………え?」」


「おい、マイル…喉が渇いたな…」


「へい!…あ、すみません!エールを一杯お願いします!」



カルラさんの一声を聞き、近くにいたセンターギルド職員にアルコールを注文するマイル…。



「「……えぇっ!?」」


「おい…肩揉め」


「へいっ!!」



ヘラヘラと笑みを浮かべるマイル…。



「あはは、おいマイル?…お前何があったんだよ?お前が誰かに礼儀正しいとか……カルラさんに、何か酷い事でもングっ!?」

「おいやめろっ…」



俺の口を両手で塞ぎ、言葉を遮るマイル。耳元で静かにマイルは続ける。



「頼むから、カルラの姐さんを悪く言うな…されるぞ」


「………」



怯えたような目で囁くマイル……マ、マイルが………調教されとるっっ!!!!!



「おいカルラよ…お前いったいどんな修行をつけたんじゃ?」


「あー?心配すんなよジジイ、ちゃんと鍛えてやってある」


「なら…良いんじゃがの……」


「ねーカルラ、今度僕にも弟子の躾の仕方教えてよ。このチンチクリンの態度が悪くてさー…」


「あ?あーいいぞ、お前がアタシに敬語使うならな」

「ア゛ァンッ!!?」


「ハッハッハ!相変わらず騒がしい連中だな、ハリス」


「笑えんわい、バトスよ」



ハリスさんは“やれやれ”という風にかぶりを振って、咳ばらいをひとつ。全員が静まったところで“さて”と切り出した。

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