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バトスさんと修行を開始して3日。現在地…



クランツ王国 首都クランツ 地下ダンジョン 




「くっ…‼」


「遅い!攻撃から防御への切り替えが甘いぞ!」



バトスさんの剣撃を受けながら、後退。牽制攻撃を挟んで距離を取る。今日がひとまず修行の最終日…そろそろセンターギルドに戻る約束になっている。でも…



「ふー…」



深く息を吐き、集中。周囲の魔物を倒した後、バトスさんと手合わせしている訳だが…。剣を交えて改めてこの人の強さが分かる。俺もこの三日間でそれなりに強くなった実感はある。“気”の扱いにもかなり慣れてきた。…だけど、この人の気は…何というか……



「どうした?…動きが堅いぞ?」

「なっ!?」



突如目の前に接近してきたバトスさんのバラ撒くような手数の斬撃!

俺は顔を歪めながら、なんとか逃れる。…やっぱり魔物と違って、気が読みにくい。全く読めない訳じゃないんだけど…気に“揺らぎ”のような物を感じる…それによってコンマ数秒判断が遅れる!



「くっそ…!」



それに加えて、このアホみたいな剣速!!

片手で、気の抜けたような顔して剣を振るっているのに…散弾銃みたいな斬撃が襲ってくる!…これで全く本気じゃないんだろうな、この人。…だけど、俺だってこのままやられっぱなしじゃない!



「おうっと…!」



バトスさんの剣を受け流し、足払いをかけて体勢を崩す。完璧に隙を突いた一撃!決まる!


耳を突くような金属音が響き、振り下ろした剣が止まる。



「………」


「今のは、良かったぞ」



マジかい…あの体勢からしっかりブロックされた。まだまだ底が見えないな、この人。



「ふいーっ…そろそろ時間だな。センターギルドに戻るか」


「はい。三日間、ありがとうございました!」


「いんや、俺は大した事はしてない。“気”を攻撃に転用する事に関してはまだ粗雑さが残るが、お前さんの“気を読む”能力に関しては最早一級品と言って良いだろう……これからも実戦の中で磨いていけ」


「はい‼」


「正直、お前さんがここまで早く気の扱いをものにするとは思わなんだが…めでたく、修行のは終了だ」


「!……」



第一段階…“気”という新要素を戦闘に組み込んだだけでも、格段に強くなれた自覚がある。だがこの人や、センターギルドのマスター達にはそれ以外、それ以上の強さの秘密がある…ってことか。その秘密を、これから学んでいける…。



「さて、とにかく一度戻るとしよう。風呂にも入りたいしな」


「はい!」


「第一層にあった、脱出用の転移魔方陣まで向かうとしよう。上の階層の魔物はもうしている頃だろう……斬り進むぞ?ついてこい!」


「はい!!」



俺とバトスさんは剣を片手に駆け出した。とりあえず、三日間の修行は完了。…明日、俺達は初となるニューワールドでのイベントへの参加…修行の成果を試す良い機会だ。



「……ハハッ」



駆けるバトスさんの背中を追いながら、俺は小さく笑った。…いいね、面白くなってきた!








少し時をさかのぼり…



ギルド【鋳薔薇の女王クイーン・ローズ】 ギルドホーム




「レイラ様。今回のイベントに参加する部隊を編成致します」


「その必要はないわ」


「…と、言いますと?」


「今回“鋳薔薇の女王クイーン・ローズ”から参加するのは、あなたと私の二人で充分よ、カイル」


「!…レイラ様ご自身が参加なさるのですか?」


「ええ…今回のイベントは楽しくなると思うから」


「…あの少年ですか?」


「ええ、ナギ君ならきっと参加してくるわ。フフ…今度は私と遊びましょ?ナギ君♡」






ギルド【革命の十字架ロザリオ】 ギルドホーム



「ちょっと!アリシアさん、急いで‼」


「すいまっせーん‼遅れましたー!!」


「アリシア…お前はもっと慎ましくだな…」


「えー!?楽しくいこーよ!暗い顔してると幸せ逃げちゃうよ?」


「なっ…‼」


「遅刻して来た人間のテンションではありませんね…」


「ちっ…こんな阿呆がAランクのジョブ持ちとはなー」


「むっ!?阿呆とはなんだ!?阿呆とは!!」


「お前らいい加減にしろ…団長の前だぞ。今回のイベントは相当なレアアイテムが入手出来るとの情報が入っている。に近づける代物しろものかもしれん。その為に、幹部クラス総出での参加を決めたんだ。少しは気を引き締めろ…卸すぞ」


「「「ごめんなさい」」」


「まったく……お待たせしました、団長。全部隊長、計11名…集合致しました」




「うん…それじゃあ、始めようか」








クランツ王国 郊外



「私達は運が良い…たまたまクランツに足を運んだお陰で、イベントに参加出来るとは。お前の気まぐれに付き合って正解でしたよ」


「………」


「準備をしなさい、ソフィア」


「………」


「クランツ王国に拠点を置く有力ギルドと言えば、【革命の十字架】ですね……新興勢力の【鋳薔薇の女王】も侮れません。激しい戦いになりますよ、準備を怠らぬようにしなさい、ソフィア」


「………」


「戦とは下準備が命…戦いは始まる前に終わっているのです。いつも通り…全てを、我々が勝利を手にしますよ、ソフィア」


「………」


「…ソフィア?」


「………」


「……ソフィア…起きなさい」


「………」


「ソフィア…いつまで寝ているのですか?……」


「………」


「……………」






とある場所



「イベント実行準備、完了致しました!」


「いよいよだな、冴木。お前のお気に入りの実力が試される」


「ええ、そうですね。心配はしていませんよ…彼等なら我々の協力者として迎えるに足る存在だと確信しています」


「とは言え、彼等はだ…それも未来のある若者だ。やはりこれ以上巻き込むのは…どうにもな」


「ゲームのようなこの世界。これを攻略するとなれば、そういった類に精通している彼等の様な存在は貴重です。実際、我々がこの世界に踏み込んだ時とは比にならない速度で、彼等は“ニューワールド”に順応し、適応しました。貴方もご覧になったはずです」


「それは…そうだが…」


「世界不変のことわりは“弱肉強食”…ではなく、“適者生存”ですよ。それは例え…、同じこと」




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