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手に伝わったのは、軽い感触。驚くほど容易く通過した刃は、敵の肩口を捉え、サイクロプスの右腕を斬り飛ばした。
「…すっげぇ」
「ギギャアアアァァァァ!!」
サイクロプスは断末魔を上げながら後退。地に落下したサイクロプスの腕は光となって消滅し、握りしめられていた手斧だけが残された。
「ギグゥ…」
サイクロプスは距離を取り、警戒態勢に。腕を再生するつもりか!?
「…!」
しかし、サイクロプスは肩を抑えて低く唸り続けており、HPの回復スピードも遅い。…再生が追い付いてない!
「畳みかけろ!ナギ!」
俺は駆け出し、敵との距離を詰めながら地に転がる手斧を拾う。…これで最後だ!
「はああああぁぁぁあ!!」
さっきみたいに深く気を練る時間はない。でも、片腕を失っている今なら、手数で押し切れる!
剣と斧の二刀流による猛攻。息をつく間もなく斬る、斬る、斬る。心身共にもう限界を迎えている。最後の気力を振り絞るように攻め続ける。これで決められなきゃ、負ける。
「落ち…ろぉ!」
「グ…ゲガ…」
剣と斧、全体重を乗せた前のめりの交差斬り。サイクロプスは大きく後退し、動きが止まる。
「ハァ…ハァ…ッ……!」
「グ…ガ…!」
敵の僅かに残ったHPが回復の兆しを見せた瞬間、俺は持っていた手斧を投げつけた!手斧はサイクロプスの胸に突き刺さり…
「……グ…」
サイクロプスは光の粒となって霧散した。
♦
「………」
……おい嘘だろ。ホントに倒しやがった。まだ粗さは残るが、“気”の扱いを一日でほとんどマスターしてしまった。修行の成果としてはこの上ない……だが…
「大丈夫か?ナギ?」
俺、バトス=ローガンは死闘を終え、呆然と立ち尽くすナギに声をかける。数秒の後、ナギはその場にどさりと腰を落とした。
「さす…がに……疲れました。もう剣を握ってるのもしんどいです」
「無理もない。慣れない気を酷使したんだ。精神的な負荷も相当掛かったはずだからな、今日のところはこのくらいにして、休むとしよう。……立てるか?」
「…はい」
ふらふらと立ち上がるナギに肩を貸す。その時、重たい地響きのような音と共に、眼前の巨大な扉が開く。
「第二階層、突破だな」
「満身創痍…ですけどね」
俺とナギは扉の向こうへと歩いていく。先にあったのは殺風景な小部屋。中央にぽつんと置かれた宝箱。その奥に下へと続く大階段。目で合図を送ると、ナギは小さく頷き、宝箱へと近づいていく。ゆっくりと箱の上蓋を持ち上げるナギ。
「あ…!」
箱から飛び出し、宙に浮かぶそれは、宝石のように紅く輝いている。魔石…か。
「…【
ナギが魔石に触れると、胸に吸い込まれるように消えていく。…これが、器の……。
「収穫は上々だな。今日は此処で休むとしよう、此処なら魔物も現れんだろう。明日から第三階層の攻略に入る。しっかり体を休めておけ」
「はい…!」
「明日からはスキルの使用を解禁する。今日覚えた“気”を実践に組み込んでいけ。スキルが使えるとはいえ、下の階層に行けば敵も強くなるはずだ、油断はするなよ?」
「はい!」
ナギは土壁に背を預けるように座り、静かに目を閉じた。俺は持っていた麻袋からいくつかの包みを取り出す。
「水と携帯食料だ、腹が減って……」
「………」
声をかけた時には既にナギは小さな寝息を立てていた。余程疲れていたのだろう。
「………」
見事な成長ぶりだ…それ故に、恐ろしくもある。器の継承者に
「……ナギよ…」
ふと、レッドサイクロプスと戦っていた時の、凶悪染みたナギの笑みが浮かぶ。
お前はこの世界の希望となるか…はたまた絶望を呼ぶか…。もし後者となるならば、その時は……
「………」
俺は腰に差した剣に手を伸ばし、柄を握る。
「頼むから……そうあってくれるなよ…」
俺は静かに眠るナギを前に、ゆっくりと剣から手を放した。
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