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心拍数が上がっていく。自分が高揚しているのが分かる。跳ねるような鼓動が心地いい。
「行くぞ…」
俺は軽く前傾姿勢の構えを取る。
「…はー。分かったよ、やってみろナギ。だがあまり無茶はするなよ?」
しばらく俺の顔を見ていたバトスさんが、どこか呆れたような笑みを見せて下がっていく。すみませんバトスさん、今は誰にも…邪魔されたくない!
「っ!!」
小さく息を吐くと同時に地を蹴る。相手の方が速い…直線的な動きじゃ見切られる、様子見なんてしてる余裕もない。速さで勝てないなら、反応や反射だけじゃ足りない!…“予測”しろ…!!
「…!」
サイクロプスが斧を振り上げた。向かってくる俺にカウンターを合わせるつもりか…なら、ココだろ!!
「ガッ!?」
俺は急激に身体を倒して、スライディングの要領で地を滑る。斜めに振り下ろされたサイクロプスの手斧を搔い潜り、すれ違いざまに脇腹へ一太刀…!
が、サイクロプスは攻撃を急停止、身を
「こ…のっ!」
背後を取られた!すぐに動け!モタモタしてる暇は無い!跳べ!!
背後に周った敵の姿を確認もせず、スライディングから無理やりに横っ飛び。間を置かずに響く衝撃音。案の定、サイクロプスは俺の攻撃を躱した矢先に斧を振り下ろしていた。…あぶねー。
「ふー…」
一度距離を開けて一呼吸。なんて緊張感…ひりつくような空気と刺すような威圧感。時間にしてわずか数秒の
正直、今日一日中戦闘を繰り返して強くなった実感はあった。それはステータスとして目に見える“
「…でも」
それじゃあまだ足りない。コイツを倒すには、今の俺の100%の全力を出し切ってもたぶん勝てない。それほどの強者が、今目の前にいる。少し前なら手も足も出なかったであろう相手が…でも…
「…ハハ」
今の俺なら届く!!
全力を出し切ることが出来てもおそらくギリギリ勝てない。だったら…
「…タスク…確定」
今…正に今ここで!…この場で!…
“
『!!…マスター?』
♦
ナギとレッドサイクロプス。両者とも機を伺うかのように動きを見せない。ナギはともかく、サイクロプスの方も何かを感じて警戒している…?
レッドサイクロプス…スキル無しでやり合えと言われたら、“
「なんて顔してやがる…」
普段の涼しげで大人しそうな表情はどこへやら…。口角が上がり、瞳には怪しげな光を灯し…“凶悪な笑み”とでも言うべき悪人面…。
「まったく…」
感心通り越して呆れるよ。ナギはこれまでの戦いで“気”の扱いを理解しつつある。敵の力量はしっかりと計れているはず。自分よりも格上、ましてやスキル無しじゃ逆立ちしたって勝てやしないことも解っている。その上で、危険も痛みも無謀も恐怖さえも…全部ひっくるめて、楽しんでやがる。
「!!」
先にナギが動いた!
細かなフェイントを織り交ぜながら、サイクロプスに急接近していく。迎え撃つサイクロプスは両腕を交差させて迎撃の構え。
ナギの鋭い斬撃一閃!
サイクロプスはそれを斧で弾くと同時にもう一本の斧を振るう!
しかしナギはそれを分かっていたかのように身を
初めてナギの剣がサイクロプスに届いた。回避から攻撃へと流れるように放たれた一撃はサイクロプスの横っ腹を切り裂いた!
「グギィッ!」
レッドサイクロプスのHPが減少。しかし直ぐに減少したHPバーが色を取り戻し…全快。…サイクロプス特有の自己再生能力。やはりこれ以上は…
「ナギ!!」
一撃を浴びせた程度で怯むような相手ではなかった。サイクロプスは両の手斧で雨のような猛襲!
対するナギも逃げるどころか、刃の雨へと飛び込んでいく。直後、両者は激しい打ち合いへと突入した。
「………おいおい、マジかよ」
流石にこれは…言葉を失うぜ。互いが互いの攻撃を紙一重で躱し、絶妙な角度でいなす。攻撃に転じては、相手の一瞬の隙をついて針の穴に糸を通すかのような鋭い斬撃を向ける。
一進一退、薄氷を踏むような刺し合い。ナギは瞬きひとつ許さぬような高速の攻防の中に、とんでもない量の技術を詰め込んでいる…文字通りの全身全霊。互いに致命傷とはならないまでも、躱し切れない斬撃が徐々にダメージを与えていく。
だがこの均衡も長くは保たれなかった。互いに受けるダメージは変わらなくとも、サイクロプスは自己再生能力で直ぐに治癒してしまう。ナギとサイクロプスのHP残量に差が出始めた。
「くっ!…」
危機を察知したナギが跳躍し、大きく後退。再び距離を取って睨み合いに。
「ナギ!良くやった!だがこれ以上は…」
言い終わらない内にナギが駆け出す。再びサイクロプスとの激しい打ち合いに身を投じていく。身を削るような戦いに晒されながら、相も変わらず笑みを浮かべているナギ……あー、俺の話聞いてねぇな、アイツ。
♦
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