目覚め<プログレス>

170


薄暗いダンジョン通路に、剣と剣がぶつかり合う金属音が響く。青白く光る石壁に金属音のリズムに合わせるかのように影が躍る。



「ハッ…ハッ……ふー」



ナギが一度敵から距離を取り、呼吸を整える。



「大丈夫か?ナギ?」


「…はい、まだいけます」



ナギが再び敵に詰め寄っていく。俺、バトス=ローガンはナギの修行を買って出て、この地下ダンジョンへとやってきたが、初日にして…まさかとは。



「はああっ!!」


「ギジジジッ!!!」



ナギが敵の隙をついて一太刀浴びせる。敵はダメージを受け後退し、ナギは剣を構え直す。今ナギが相手をしている魔物…人型の魔物だが、頭ははえのような複眼に左右に開く大顎おおあご、甲虫類を思わせる鈍い光沢のある黒褐色の体表。人間のように四肢が伸びているが、手先は鈎爪のような3本指…“バグナイト”という魔物だ。


こいつ等は他の昆虫種モンスターと比べて知能が高く、“武器や道具”を使う。現にナギが相対している2体のバグナイトはサーベルを手にしている。バグナイトのレベルは38、中級の冒険者でも不意に遭遇すると苦労する相手だが…



「…う~む」



俺も思わず唸ってしまうな…バグナイト2体を相手に魔法、スキルを一切使わず圧倒している。何という集中力…何という成長スピード。



「今の…まだ…少し…浅い……っと踏み込ませ…いや…それ…遅いか?…」



戦闘の合間に何やらぶつぶつと言葉を零すナギ。このダンジョンの第二層に入ってからずっとこの調子だ。おそらく今ナギの脳内では、凄まじい速度で“想定”、“検証”そして“再構築”が行われている。


戦闘を繰り返しながら学習し、改善点を見出し、試し、“技術”へと昇華させる。その工程が恐ろしく早い!これが……“”か!…修行をつけるとは言ったが、ここまで手の掛からない弟子も珍しいだろう。この調子ならそろそろ次のステップに入ってもいいだろう…



「ふっ‼」



ナギは小さく息を吐きながら剣を振るう。2体のバグナイトの猛攻の間隙かんげきを縫って、横薙ぎに一閃。敵は2体とも光となって消滅した。



「…っ!」

「なっ!!?」



俺は剣を引き抜き、一気にナギへ接近するとナギの喉元に剣を突き付けた。首元ギリギリで止まった刃に、ナギは硬直する。



「ば…バトスさん⁉…何を!?」


「…戦闘中に向かい合う者以外に敵がいないとは言い切れん。第三者の乱入や横槍が入ることもな…」


「…はい」



俺は剣を鞘に納めながら続ける。



「動きはかなり良くなってきているが、まだ視覚情報に頼りすぎている。敵の“気”を読み、感じ取れ…全方向に警戒し、全てに


「なかなか…難しいこと言いますね」


「出来ないか?」


「やります」


「よし、今後は時々俺もお前の隙を狙って攻撃をしかける。気を抜くなよ…対処しろ」


「…はい!」



俺とナギは再びダンジョンの奥地へと足を向ける。それにしてもこのダンジョン…クランツ王国…これほど栄えた国にまだ未発見のダンジョンが残されていた事も驚きだが、それ以上に…このダンジョンは異質だ。


確かにダンジョンというものは先に進めば進むほど攻略難易度は上がるものだが…このダンジョンの第一階層の魔物のレベルは20前後だった。それが今はレベル40前後の魔物が闊歩している。一階層進んだだけで出現する魔物のレベルが倍近くに跳ね上がった…このダンジョンが何階層あるのかは知らないが…



「……ふむ」



これは俺も気を張って用心しておく必要があるかもな。








地下ダンジョン第二階層。第一階層と比べて敵の強さは跳ね上がった…でも…



「……っ!」


「ジジッ!?」



バグナイトの斬撃を剣の上を滑らせるように受け流し、持っていたサーベルを叩き落とす。無防備になったところへ二連続の剣撃。



「………」



バグナイトが消滅。……!!



「くっ!」



背後から迫る“気配”に咄嗟に身を捻る。高速で飛来してきたそれは俺の頬をかすめて地面に激突。“ぐしゃり”という嫌な音と共に血飛沫が上がった。



「………」



俺は直ぐに気配のする方へ向き直り、剣を構える。数秒後、通路の奥の暗がりから耳障りな羽音が聞こえ始め…



「また来たぞナギ…集中しろ」


「はい…」



現れたのは十数匹の“蜂”。蜂と言っても現実世界のそれと比べれば、お化けみたいに大きな蜂なんだが……こいつらが厄介なんだよな。



「ふー…」



俺は長く息を吐き、神経を研ぎ澄ませる。この“バレットビー”という魔物は集団で、の攻撃を仕掛けてくる。こいつらは自身の命も顧みず、弾丸のように高速で突撃してくるのだ。実際、地面に激突した個体は粉々になり、原型も留めずに絶命している。



『失う物が無い敵というのは恐ろしいものですね…マスター』



……お前そんな冗談めいたことも言えるのね、アド。

しかし、恐ろしい敵であるのは事実。あの突撃攻撃を喰らってしまうと、ダメージもさることながら“麻痺毒”も貰ってしまってしばらく動けなくなってしまう。最初バレットビーに襲われて麻痺状態になってしまった時はバトスさんが助けてくれたが…同じ失態を繰り返すわけにはいかない。



「………!」



バレットビーの出す羽音が強まり、一斉に突撃してきた。来る!!

考えて動く…じゃ遅い!思考と行動を反射的に、同時に行え!


一匹目の特攻を右に躱し、状態を畳んで二匹目を回避。低姿勢からの斬り上げで三匹目を叩き斬る!…が、もう目の前に複数のバレットビーが迫っている!



「はああぁぁぁあ!!」



もっと…速く!もっと…鋭く!!



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