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俺がバトスさんとダンジョンに入って実に5時間ほどが経過。
「はぁ…はぁっ……!」
俺は未だに第一層を突破出来ずにいた。俺を取り囲む3体の巨大な蟻のモンスター、ビッグワーカー。レベルは俺の半分程度のモンスターだが…キツイな。
「っ!」
突進してきた1体の攻撃を躱し、背後を取って攻撃…しようとするが、他2体が俺の進路を塞ぐように躍り出てくる。バックステップで距離を取る。2体のビッグワーカーが同時に攻撃を仕掛けてくる!
「くっ‼」
1体の攻撃を地を転がり回避…だが2体目の回避が間に合わず、突撃攻撃を剣で受ける。なんとか攻撃の軌道を逸らし、すれ違いざまに一太刀!…だが大して敵のHPを減らすことは出来ない。スキルを使えないというだけで、格下のモンスターにここまで苦戦するのか!
「どうした?その程度か、ボウズ」
「…はぁ……くそっ!」
少し離れたところで俺とモンスターの戦闘を傍観するバトスさん。俺は地を蹴り、一気に間合いを詰めると敵の頭部に剣を突き立てる。攻撃を受けたビッグワーカーは消滅。やっと……残り2体。
「はぁ…はぁ…はあぁぁ!!」
俺は剣を構え、再び突撃した。
♦
「よし、少し休憩だ、ボウズ」
「…ふー」
祈りを捧げる女性の彫像。その前にある噴水台の水で喉の渇きを潤すと、俺はその場に座り込んだ。第一層の…ようやく半分といったところか。マップデータもあり、第二層までの道順も分かっている。だが行く手をモンスター達に阻まれ、なかなか前進することが出来ない。
「……」
スキルさえ使えれば、どうという事はない相手だ…。そもそもこの修業は効率が悪いんじゃないか?…プレイヤーは敵を倒し、経験値を得ることでレベルアップする。戦闘に制限をかけず、より多くの敵を倒した方がレベルアップも早いはず…
「なぜ?…という顔だな」
「!…いえ…」
そんな俺の考えを察してか、バトスさんが俺に声をかける。
「ステータス…」
「…?」
「レベル、筋力、魔力量などが数値として見れるのがステータスだ」
「…はい」
「お前は、ステータスに頼りすぎている」
「!?…」
ステータスに頼り過ぎている?…
「お前さん達
「…!」
…なるほど、そういう事か。俺は立ち上がる。
「!……休憩はもういいのか?」
「はい…第一層、さっさと突破しましょう!」
バトスさんは俺を見てニヤリと笑った。
♦
「はああああ!!!」
俺は剣を振り下ろす!
ブラッドマンティスが光となって消えていく。
「はぁっ…はぁっ…!」
俺は肩で息をしながら剣を納める。もう地上には夜が訪れている頃だろう…。ほとんど半日使ってしまったな。だけど…
「やっと…」
俺は地下ダンジョン第一層の最深部に到達した。巨大な扉が
「………」
しばらくの後、広い空間の中央の地面がせり上がるように隆起する。…来たか。
「やぁ…久しぶり、ゴーレム」
地面から飛び出した泥の塊は、形を変え…
――――――――――――――――――
ガーディアン・ゴーレム Lv30
――――――――――――――――――
巨大なゴーレムが姿を現した。
さて…ここまでは何とかスキル無しでやってこれたが、コイツはそう簡単にはいかないぞ…。俺は剣を構え、ゆっくりと敵との距離を測る。
「ここまで良くやったな、ボウズ…下がれ」
「え?…」
不意にバトスさんが剣を抜き、俺を置いてゴーレムへと近づいていく。
「この修行の意図は理解できたか?…」
バトスさんは歩きながら背中越しに問いかけてくる。
「はい…ステータスの数値が高くても、それを使いこなせなければ意味がないってことですよね?」
「ふむ、悪くない」
つまりこの修行の目的は…いわば、プレイヤースキルの向上!
ステータスというものはあくまでも数値。この世界は現実的だ。決められた
コントローラーのボタンを押せば、決められた動きと威力の攻撃を繰り出せる
画面の中のアバターに剣を振らせるのではなく、自分の手で剣を振るえ!
この世界で相対する敵も、
「ほう、良い面構えになったじゃないか…そこで良く視ておけ、ナギ」
そう言うとバトスさんは俺に向き直る。あろうことか、敵であるゴーレムに背を向けて…更に、目を瞑ったのだ!
「えっ…!?」
「ゴゴゴガガ」
バトスさんの背後でゴーレムが大木の様に太い腕を振り上げる!
しかしバトスさんは目を閉じたまま身動き一つしない。
「バトスさん!!」
掲げられたゴーレムの拳が、バトスさんへと振り下ろされる!…が
ひらり、とまるで風にでも吹かれたように、緩やかにバトスさんは身を捻り、視界にも捉えていないその一撃を、目と鼻の先ギリギリで躱して見せた!
「ゴゴゴギ!」
今度は横薙ぎに腕を振るうゴーレム。
しかしそれすらも、目を閉じたままのバトスさんは跳躍してあっさりと回避。バトスさんはゴーレムに向かい合い、2,3歩距離を取ると目を開いた。
「さて…次はこちらの攻撃だ。違いをよく視ておけ、ナギ」
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