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俺がバトスさんとダンジョンに入って実に5時間ほどが経過。



「はぁ…はぁっ……!」



俺は未だに第一層を突破出来ずにいた。俺を取り囲む3体の巨大な蟻のモンスター、ビッグワーカー。レベルは俺の半分程度のモンスターだが…キツイな。



「っ!」



突進してきた1体の攻撃を躱し、背後を取って攻撃…しようとするが、他2体が俺の進路を塞ぐように躍り出てくる。バックステップで距離を取る。2体のビッグワーカーが同時に攻撃を仕掛けてくる!



「くっ‼」



1体の攻撃を地を転がり回避…だが2体目の回避が間に合わず、突撃攻撃を剣で受ける。なんとか攻撃の軌道を逸らし、すれ違いざまに一太刀!…だが大して敵のHPを減らすことは出来ない。スキルを使えないというだけで、格下のモンスターにここまで苦戦するのか!



「どうした?その程度か、ボウズ」


「…はぁ……くそっ!」



少し離れたところで俺とモンスターの戦闘を傍観するバトスさん。俺は地を蹴り、一気に間合いを詰めると敵の頭部に剣を突き立てる。攻撃を受けたビッグワーカーは消滅。やっと……残り2体。



「はぁ…はぁ…はあぁぁ!!」



俺は剣を構え、再び突撃した。








「よし、少し休憩だ、ボウズ」


「…ふー」



祈りを捧げる女性の彫像。その前にある噴水台の水で喉の渇きを潤すと、俺はその場に座り込んだ。第一層の…ようやく半分といったところか。マップデータもあり、第二層までの道順も分かっている。だが行く手をモンスター達に阻まれ、なかなか前進することが出来ない。



「……」



スキルさえ使えれば、どうという事はない相手だ…。そもそもこの修業は効率が悪いんじゃないか?…プレイヤーは敵を倒し、経験値を得ることでレベルアップする。戦闘に制限をかけず、より多くの敵を倒した方がレベルアップも早いはず…



「なぜ?…という顔だな」


「!…いえ…」



そんな俺の考えを察してか、バトスさんが俺に声をかける。



「ステータス…」


「…?」


「レベル、筋力、魔力量などが数値として見れるのがステータスだ」


「…はい」


「お前は、


「!?…」



ステータスに頼り過ぎている?…



「お前さん達転移者ストレンジャーには特にその傾向が見られるな。確かにステータスはその者の戦闘力を表すひとつの指標になるが…数値だけの強さなど、恐れるに足らん」


「…!」



…なるほど、そういう事か。俺は立ち上がる。



「!……休憩はもういいのか?」


「はい…第一層、さっさと突破しましょう!」



バトスさんは俺を見てニヤリと笑った。





「はああああ!!!」



俺は剣を振り下ろす!

ブラッドマンティスが光となって消えていく。



「はぁっ…はぁっ…!」



俺は肩で息をしながら剣を納める。もう地上には夜が訪れている頃だろう…。ほとんど半日使ってしまったな。だけど…



「やっと…」



俺は地下ダンジョン第一層の最深部に到達した。巨大な扉がそびえ立つ、ひと際広い空間。俺は扉に歩み寄りながら息を整え、そっと扉に触れる。



「………」



しばらくの後、広い空間の中央の地面がせり上がるように隆起する。…来たか。



「やぁ…久しぶり、ゴーレム」



地面から飛び出した泥の塊は、形を変え…



――――――――――――――――――

 ガーディアン・ゴーレム Lv30

――――――――――――――――――


巨大なゴーレムが姿を現した。



さて…ここまでは何とかスキル無しでやってこれたが、コイツはそう簡単にはいかないぞ…。俺は剣を構え、ゆっくりと敵との距離を測る。



「ここまで良くやったな、ボウズ…下がれ」


「え?…」



不意にバトスさんが剣を抜き、俺を置いてゴーレムへと近づいていく。



「この修行の意図は理解できたか?…」



バトスさんは歩きながら背中越しに問いかけてくる。



「はい…ステータスの数値が高くても、それを使いこなせなければ意味がないってことですよね?」


「ふむ、悪くない」



つまりこの修行の目的は…いわば、プレイヤースキルの向上!

ステータスというものはあくまでも数値。この世界は現実的だ。決められた操作手順コマンドだけで戦うゲームとは別物。数値だけでは計れない不規則性イレギュラー偶発的要素アクシデントようする世界。


コントローラーのボタンを押せば、決められた動きと威力の攻撃を繰り出せる仮想現実ゲームではない。この世界で俺達に圧倒的に足りないもの、それは…


画面の中のアバターに剣を振らせるのではなく、自分の手で剣を振るえ!

この世界で相対する敵も、決まり事プログラムの枠には収まらない生命体ホンモノだ。この世界で強くなるには、“after school”を…“ゲーマー”を越えなければならない!



「ほう、良い面構えになったじゃないか…そこで良く視ておけ、



そう言うとバトスさんは俺に向き直る。あろうことか、敵であるゴーレムに背を向けて…更に、目を瞑ったのだ!



「えっ…!?」


「ゴゴゴガガ」



バトスさんの背後でゴーレムが大木の様に太い腕を振り上げる!

しかしバトスさんは目を閉じたまま身動き一つしない。



「バトスさん!!」



掲げられたゴーレムの拳が、バトスさんへと振り下ろされる!…が


ひらり、とまるで風にでも吹かれたように、緩やかにバトスさんは身を捻り、視界にも捉えていないその一撃を、目と鼻の先ギリギリで躱して見せた!



「ゴゴゴギ!」



今度は横薙ぎに腕を振るうゴーレム。

しかしそれすらも、目を閉じたままのバトスさんは跳躍してあっさりと回避。バトスさんはゴーレムに向かい合い、2,3歩距離を取ると目を開いた。



「さて…次はこちらの攻撃だ。をよく視ておけ、ナギ」





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