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「ならば…じゃな」


「はい。悪い条件ではないですから」



俺はハリスさんが差し出した羊皮紙に指印を押す。ハリスさんが急に俺達を鍛えると言ったときは驚いたが……要するに、無償タダで強くしてもらえる訳ではないってことね。だがなら、俺達にとっては願ってもない。センターギルドのマスター達の戦闘力の高さはクルド村で確認している。この人たちに修行をつけて貰えるなら、それ相応の成果が望めるはずだ。



「さて、そうと決まればお前さん達よ。そろそろギルド名を決めねばのぉ?」


「あ、そう言えばそうですね…」


「あー…オレ達のギルドって今、番号?…みたいなので登録されてるんだっけ?」


「……ユニフォームじゃねぇんだから」


「アホの…エースで四番は…マイルのもの…」


「え?エースで四番!?オレ、カッコよ!!」



…うん。そうなんだよなー、ギルドを設立したときは、急なことで考えてなくて…。俺達のギルド名は現状“5182”という番号になっている。



「仮にもセンターギルド、クランツ支部のじゃからの…。“指名ギルド5182〈仮〉”では格好がつかん」


「エースで四番はカッコいいよ?」


「マイル…黙って…」


「そうですね…うーん…」



ノノとマイルに目を向けると、二人とも『任せる』というような表情。



「じゃあ……WBFで…どうでしょう?」


「「…WBF?」」






とある場所



「…イベント実装準備、完了致しました!」



暗がりに複数のモニターだけが光を放つ空間。



「よし…始めろ」


「はい…!クランツ王国滞在中のプレイヤーに“イベント招待メッセージ”を送信します」


「さて…いよいよだな、冴木」


「ええ…今回はですよ」


「ふん…お前の一押し、期待の新人か」


「そうですね。今回のイベントが、良い結果を産んでくれることを祈りますよ」





王都クランツ センターギルド


今回のプレイ時間は残り4日となった。俺達はハリスさんに『ここで待て』と言われ、センターギルトの酒場のフロアで待機している。



「それにしても、“WBF”か…なかなか気に入ったぜ、ナギ!」


「うん…悪くない」


「そうか、それなら良かったよ」



丸テーブルを囲み、ドリンクを片手にハリスさん達を待つ俺達。どうやら俺達のギルドネーム…ギルドの“活動指標”からネーミングしたものだが、二人もそれなりに気に入ってくれたようだ。



「まぁ、最初聞いたときはなんじゃそりゃって思ったけどな…おっ?」



不意に頭に電子音が響き、メッセージの着信を知らせる。俺達はツールボックスを開き、メッセージを確認する。それはニューワールドの運営から送信されたものだった。



―――――――――――――――――――――――

      イベントへのご招待

クランツ王国滞在中のプレイヤーの皆様へ

イベント開催のお知らせ。


今回プレイ時間終了後、イベントを開催いたします。


イベント内容詳細に関してはイベント開始時まで

公開できませんが、イベントの結果に応じて

様々な特典が得られます。


イベント参加によるデメリットはありません。


レアアイテムを入手できるチャンス!

奮ってご参加くださいますようお願い申し上げます。



 イベントにエントリーしますか? Yes / No

 エントリー受付期間 : 2日

――――――――――――――――――――――――




「イベントへの招待!?」


「なにこれオモシロそーじゃん!」



どうやら周りにいる他のプレイヤー達にも送信されているようで、フロアの中に小さなざわめきが起こる。その時、再び『ピコン』という電子音と共にメッセージが届いた。差出人は…アリシアさん!?




――――――――――――――――


  件名:イベント!!!!


 参加しなよ!!!


――――――――――――――――



おぉ…なんとも簡潔なメッセージ。アリシアさんらしいな。

まぁアリシアさんのこの感じと、周りの様子からどうやらニューワールドでイベントが開催されるのは初めてのことではないようだ。結果によってはレアなアイテムも入手できるとのことだし、この世界の事を知る為にも今回のイベント…



「どうする?…ナギ…」


「そりゃあもちろん…!!」


「参加するか!」


「よっしゃあ!そうこなくっちゃ!」



俺達はその場でイベントにエントリーした。直ぐに『受付完了』の通知が届いた。



「待たせたのぉ」


「「!!」」



ハリスさん、フィル、カルラが俺達のテーブルに近づいてくる。



「待ってましたぁ!修行って何するんだ!?ハリスのじいちゃん!」


「それについてじゃが…三人とも別々に修行を積んでもらう。まずマイル、お前さんはカルラにみてもらう。カルラの指示に従って動いてもらうぞ」


「死ぬまでしごいてやるから、気合入れなよ」


「お…おぉう!?…」



凶悪な笑みを浮かべるカルラにたじろぐマイル。なるほど…修業は1対1マンツーマンでつけて貰えるのか。有難い…



「次にノノ…お主にはフィルがつく!」


「はぁ~…よろしくー」


「…がんばる」



何とも言えない空気で視線を交える二人。…なんか、不思議なコンビだな。



「……!…ってことは、俺にはハリスさんが修行を付けてくれるんですか?」


「いや…スマンがワシはでな。お前さんは、別の者に頼んである」


「え…別の者?…それじゃあ誰が…」


「君のお相手は俺だ…ボウズ」


「!!」



不意に感じた背後の気配に振り替えると、“その男”は立っていた。


その男は、灰色のぼろぼろのローブに身を包む通称“ぼろ雑巾グレークロス”……バトス=ローガン、その人だった。

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