指導者<インストラクト>
164
クランツ王国 センターギルド
クルド村での戦闘から1日が経過。俺達はハリスさん達と共にクランツ王国へと戻って来た。戻って来たと言っても、フィルの“転移魔法”で一瞬で帰還しただけなのだが。まぁ、魔法を使った当の本人は『この距離でこの人数はシャレにならない』と、げんなりした様子だったが。
「ルルアたん…大丈夫かな?…」
センターギルドにある一室。壁際に並ぶ本棚とソファが2つあるだけの部屋。クランツに戻った後、俺達はこの部屋に通され、ハリスさんに『ここで待て』と言われ待機している。
「マイネさんが命に別状はないって言ってたんだ…大丈夫だよ」
あれからルルアはまだ目を覚ましていない。俺達と共にルルアとリリアさんもクランツに連れてこられ、今は別室で未だ目を覚まさないルルアをリリアさんとマイネさんが付きっきりで看病している。
あの戦闘の後から事が進むのは早かった。ハリスさんが手配したという“センターギルド職員”の集団がクルド村に現れ、村周辺の捜査が行われた。その過程でシェンフールが滞在していたと思われる拠点跡が発見されたが、既にそこはもぬけの殻。見つかったのはクルド村村長のニッシュ=コーレックの遺体のみ。シェンフールを追えるような手掛かりは見つからなかったらしい。
クルド村に派遣されてきたセンターギルド職員の一団は村に残り、現在も周囲の警戒と村の復興に当たってくれているそうだ。
「………」
どっしりとのしかかる様な疲労感が身体を襲うが、俺達は満足に眠ることもできなかった。
……何も、出来なかった。
シンと名乗る男。対峙するだけで格の違いを見せつけられた…。そのシンすら凌ぐと思われる実力を持つ仮面の男。…何者だ?あの男は俺を『器のお兄さん』と呼んだ。それに『世界の答え』とは?…アイツは何を知っている?
悔しさと疑念と虚しさが俺の頭で渦巻いていく。その場の空気はどんよりと重い。
「…うっし!決めた!!」
「?…マイル?」
不意に、床に座り込んでいたマイルが立ち上がる。
「なんか、久しぶりだよな…こういうの」
「?」
「手も足も出ませんでしたー!って感じの敗北感?」
「あぁ…そうだな」
「じゃあやることは一つだろ?」
「…!」
“ニシシ”と笑顔を向けるマイル。まったく…コイツのこういうところはホント…
「強くなる!!オレ達“after school”は勝ち逃げは許さない!…だろ?」
「うん…もう…ルルアたんを…傷つける輩は…許さない!」
「…あぁ、そうだな!」
…頼りになるよ、マイル。その通りだ…情報もない、分からない事を考えても仕方ない。敗北に足を止めたら、本当の意味で“敗北”してしまう。待ってろシェンフール…勝ち逃げは、許さない!
「ふむ…丁度いい。ええ心構えじゃ」
「「「!?」」」
いつの間にか部屋の扉が開いており、ハリスさんとフィル、カルラさんがそこに立っていた。センターギルドの本部に召集されたとかで、俺達を残して出て行っていたが、戻ってきたのか。
「ねぇ…マジでやんの?しかもなんで僕まで…」
「やかましい!もう決まったことじゃ…本部の許可も下りたしのぉ」
「ハハっ!良いじゃないか…アタシに付いてこれるか見物だねぇ…」
「てか…よくあの場であんな事言えるよね…しかもまさかアドルフ様が許可を出すなんて…」
3人が戸口でなにやら言い合っている。ハリスさんが咳ばらいをひとつ、俺達に向き直った。…なんだ?
「ナギ、ノノ、マイル…これからお前さんらを、鍛える」
「「「…………へ??」」」
♦
少し時を遡り…
シェンフール本拠地 “シンギュラ”
暗がりに潜むように浮かぶ複数名の人影。
「お待たせ、ボス」
「戻ったか…」
「お?…なになに!?シン、その腕どうしたんだよ!?やられたのか!?獣人族にか!?…ヒャッハー!」
「黙れ…」
「連れないなー、怒るなよシン。プレイヤーの“身体欠損”は一日経てば直るんだしさ!」
「…黙れと言っている」
「何があった?…セーミス」
「少々厄介な相手に遭遇しましてねぇ…センターギルドの“序列3位”…シン殿も腕をやられまして」
「なるほど、“無色”が相手じゃしょうがねぇな」
「いいねぇ!オレも殺り合ってみてぇー!無色のハリス!!」
「それから…偶然だけど“器”とも接触したよ、ボス」
「…ほう」
「やっぱりただのボンクラじゃなさそうだね…ザイ達も苦戦してたみたいだし」
「ザイ…?」
「あぁ、あの幹部に昇格すると息巻いていた小僧だな」
「ま、実力はまだまだだけど…強くなると思うよー、あのナギって子は。出来れば“こちら側”に引っ張り込みたいところだね」
「ふん…まぁいい。器は今はまだ放っておけ。それより…」
「おーけーボス…始めるんだね?」
「我々はボスの仰せのままに…」
「ヒャハー!楽しくなってきたな!」
「…貴方は少しは静かに出来ないのですか?」
「全員、気を引き締めろ。これより、計画を第2段階に移行する」
♦
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